知的財産権侵害訴訟における懲罰的賠償の適用に関する司法解釈の公表について

知的財産権侵害訴訟における懲罰的賠償の適用に関する司法解釈の公表について

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知的財産権侵害訴訟における懲罰的賠償の適用に関する司法解釈の公表について
懲罰的賠償司法解釈和訳新旧対照表日本語


2026年420日、最高人民法院は「知的財産権侵害民事紛争事件における懲罰的賠償の適用に関する解釈」を公表した。同司法解釈は、202651日から施行される。

 

知的財産権侵害に対する懲罰的賠償に関しては、専利法、商標法、不正競争防止法、著作権法にそれぞれ規定があり、例えば、専利法第71条第1項では、「専利権侵害の賠償金額は、権利者が権利侵害により被った実際の損失又は侵害者が侵害により獲得した利益によって確定する。権利者の損失あるいは侵害者が獲得した利益の確定が難しい場合、その専利の実施許諾料の倍数を参照して、合理的に確定する。故意に専利権を侵害し、情状が深刻である場合、上記方法で確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償金額を確定することができる。」と規定されている。

 

この懲罰的賠償の適用について、最高人民法院は2021年に司法解釈を公表している。今般公表された司法解釈は、この2021年の司法解釈を変更するものである。主な変更点には、原告が懲罰的賠償を請求せず侵害訴訟が終結した後に懲罰的賠償を請求する別の訴えを提起しても受理されないことが明確にされた点、懲罰的賠償の適用要件である「故意侵害」及び「情状が深刻」の認定事由が拡充された点、懲罰的賠償額算定の基礎額および倍率の決定方法が明確にされた点がある。

 

以下、今般公表された司法解釈の内容を、2021年の司法解釈と対照しつつ紹介する。なお、弊所作成の懲罰的賠償司法解釈和訳新旧対照表日本語も併せて参照されたい。

 

(1)懲罰的賠償の請求要件(第15条)

懲罰的賠償の適用には、従来、原告による請求が要件とされている。原告は、明確な賠償額、計算方法、及び根拠となる事実と理由を提示して、懲罰的賠償の適用を請求しなければならない。原告が一審の法廷弁論終結前に懲罰的損害賠償の請求を追加することが許されるが、二審で追加した場合は、裁判所は和解の働きかけをすることができるに過ぎず、和解が成立しない場合には、原告の請求は支持されない。

 

また、侵害訴訟の原告が損害賠償を請求したが懲罰的損害賠償を請求せず、裁判所による説明の後も、なお請求しなかった場合であって、訴訟終結後に同一の侵害事実に基づいて別訴を提起して懲罰的損害賠償を請求した場合、裁判所はこれを受理しないことが明確にされた。更に、営業秘密侵害以外の不正競争行為について懲罰的損害賠償を請求した場合、裁判所は法律に別段の規定がない限り、これを支持しないことも規定された。

 

(2)「故意侵害」の認定要件(第6条)

上述の専利法第71条第1項では、懲罰的賠償の適用要件として、「故意侵害」および「情状が深刻」の2つが定められている。

 

このうちの「故意侵害」の認定基準について、従来、裁判所は、係争の対象となる知的財産権の権利種別、権利の状態および知名度、被告と原告または利害関係人との関係等の要素を総合的に考慮しなければならないことが規定されている。

 

今回の司法解釈では、「故意侵害」と認定され得る事由の一部が、変更・追加された。即ち、(一)原告または利害関係人からの通知の受領後も侵害行為を継続した場合、(二)被告またはその法定代表者、管理者が、原告または利害関係人の法定代表者、管理者または実質的支配者であり、係争対象の知的財産権を知っている、または知り得たはずである場合、(三)原告または利害関係人との間に労働、役務、協業、許諾、販売、代理、代表等の関係が存在し、かつ当該関係に基づいて係争対象の知的財産権に接触したことがある場合、(四)原告または利害関係人と取引関係がある、または契約締結等のための協議を行ったことがあり、当該関係に基づいて係争対象の知的財産権に接触したことがある場合、(八)その他、故意と認定し得る事由がある場合については、従来も規定されていたが、今般の司法解釈では、(二)の場合について、更に、被告側が係争対象の知的財産権を知っていた、または知り得たはずであることが要件として明確にされた。また、「(五)海賊版行為、登録商標の冒用を実施した場合」に加えて、「他人の専利の冒用行為を実施した場合」が追加された。更に、「(六)原告と和解に達し侵害行為の停止に同意した後に、再び同一または類似の侵害行為を実施した場合」及び、「(七)関連会社の設立、法定代表者または支配株主の変更、名義を隠した会社設立等の方法により実質的支配関係を隠蔽し、または免責合意を締結して、係争知的財産権侵害の法的責任を回避した場合」も追加された。

 

(3)「情状が深刻」の認定要件(第7条)

同時に、「情状が深刻」の認定要件にも変更があった。

従来、「情状が深刻」の認定に際し、裁判所は、侵害手段、回数、侵害行為の継続期間、地域範囲、規模、結果、及び侵害者の訴訟中の行為等の要素を総合的に考慮しなければならないとされていたが、今般の司法解釈では、このうちの「侵害者の訴訟中の行為」が、「侵害者のその侵害行為に対する認識、および基本的態度」と変更された。これは、やや抽象的であった従来の規定を、より具体的でわかりやすい基準に置き換えたものである。

 

また、「情状が深刻」と認定され得る事由にも変更があった。(一)侵害により行政処罰を受け、または裁判所の裁判により法的責任を負うとされた後に、再び同一・類似の侵害行為を実施した場合、(二)正当な理由なく保全決定の履行を拒否した場合、(三)侵害に関する証拠を偽造、毀損または隠匿した場合、(七)その他、情状が深刻であると認定すべき事由については、2021年の司法解釈と実質的に同じである。今般の司法解釈では、従来規定されていた「知的財産権侵害を業としている場合」について、「(四)侵害行為を主たる業務とし、または侵害による利益を主要な利益源とするなど、知的財産権侵害を業としている場合」と説明が追加された。同じく従来の規定にあった、「(五)侵害利益または権利者の損害が巨額である場合」は、「(五)侵害利益が巨額である、または侵害行為により権利者の営業上の信用、市場シェア等が重大な損害を受けた場合」に変更され、「(六)侵害行為が国家安全、公共の利益、又は人身の健康に危害を及ぼし得る場合」は、「(六)侵害行為が国家利益または社会公共の利益に危害を与え、または与えるおそれがある場合」に変更された。

 

(4)算定基礎額の計算方法の明確化(第8~10条)

懲罰的賠償の金額は、専利法第71条第1項の後半部分に規定の通り、通常の方法で確定した賠償金額の15倍として確定される。実務では、通常の方法で確定した賠償金額を「算定基礎額」とし、「算定基礎額×倍率」の公式により懲罰的賠償額を算定するのが一般的である。

 

この算定基礎額の算出にあたり、裁判所は、被告に文書提出命令を出し、侵害行為に関連する帳簿、資料等の提出を命じることができる。被告が正当な理由なく提出を拒否し、または虚偽の帳簿、資料等を提出したときは、人民法院は原告の主張および事件における証拠に基づいて算定基礎額を確定することができる。

 

今般の司法解釈では、権利者の損失、侵害者の利益、及び実施料相当額のいずれも確定できない場合に裁判所が諸般の事情を考慮して決定する法定損害賠償額は、懲罰的賠償の算定基礎額にできないことが明確にされた。これは、従来の裁判所実務で適用されてきた考え方であるが、2021年の司法解釈には明記されていなかった。

 

また、被告の違法所得または侵害による利益を算定基礎額とする場合には営業利益を参照して確定できること、被告が知的財産権侵害を業としている場合には販売利益を参照して計算できること、利益率を確定できない場合には統計部門、業界団体等が公表する同時期・同業種の平均利益率または権利者の利益率を参照して計算できることが明確にされた。

 

(5)倍率の決定方法の明確化(第1113条)

懲罰的賠償金額を算定するための倍率は、従来通り、被告の主観的過失の程度、侵害行為の情状の深刻さ等の要素を総合的に考慮して決定するとされたが、今般の司法解釈では、倍率は法定範囲内(即ち、15倍)であれば、整数でなくても良いことが明記された。

 

また、懲罰的賠償の総額は、最高でも算定基礎額の5倍であり、権利者が侵害行為の制止のために支払った合理的支出は、この総額の外で別途計算することが規定された。この点について、過去の裁判例や地方人民法院のガイドラインでは、懲罰的賠償の総額を、算定基礎額である通常の賠償額と、算定基礎額に倍数をかけた懲罰的賠償額との合計とするものもあった((2021)浙民終294号判決等)。このため、懲罰的賠償の総額は、通常の賠償額+通常の賠償額の15倍、即ち最大で通常の賠償額の6倍になり得るとの理解もあった。今般の司法解釈では、この理解が誤りであり、最大は通常の賠償額の5倍であることが明確にされた。

 

更に、同一の侵害行為について既に過料または罰金が科され、その執行が完了している場合には、被告の請求がなくても、裁判所が懲罰的損害賠償の倍率を確定する際に、これを考慮しなければならないことが規定された。

 

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