最高人民法院が2025年知財典型事例10件を公表


中国最高人民法院は、2025420日に、2025年の知財典型事例を公表した。

最高人民法院は、毎年426日の「世界知的財産の日」前後に、前年の知財典型事例を公表している。昨年分としては10件の典型事例が公表され、その内訳は、行政訴訟1件、刑事訴訟1件、民事訴訟7件、民事訴訟の付随する刑事訴訟1件であった。権利種別としては、特許権関連1件、商標権関連4件、著作権関連1件、不正競争関連5件(重複含む)と、昨年に続き不正競争関連事件が多く選ばれた。

 

特許関連では、電源管理ICチップ分野における均等論の適用が争われた民事事件1件が選ばれた(以下に紹介する事件2)。

 

商標関連では、フレーズ(短文)型の商標の登録可否が争われた行政事件(事件1)、回収した中古品から製造した再生品に他人の商標を付けて販売し刑事罰を受けた事業者に対し、更に懲罰的賠償が課された民事事件、及び、模倣品製造・販売により民事訴訟を提起された事業者の刑事責任をも追及した民事・刑事連携事件が選ばれた。

 

著作権関連では、海賊版電子書籍を販売する電子商取引プラットフォームの運営事業者責任が問われた民事事件が選ばれた。

 

不正競争関連では、元従業員による技術秘密の持ち出しが処罰された刑事事件、競合禁止規定を回避したライバル企業社員の引き抜きが問題とされた民事事件、タオバオ/Tモールから不正なクローリングにより取得したデータを販売する行為が問題とされた民事事件、SNS上でライバル企業とその経営者を誹謗・中傷する営業誹謗行為が問題とされた民事事件、及び、他人の商標と類似する商標を繰り返し出願する行為が不正競争とされた民事事件(事件10)が選ばれた。

 

植物新品種や独禁法関連の事件は、昨年に続き今年も選出されなかった。また、例年の典型事例には外国企業関連の事件が比較的多く選ばれているが、今年も、英国のペンハリガン社が当事者となった事件1、米国の半導体大手MPS社の中国子会社が当事者となった事件2が選定された。

 

全体の傾向として、法的に複雑な論点を扱った事例よりは、悪質な侵害行為や、刑事罰の対象となる行為に対する人民法院の厳格な態度を示す事例が多く選ばれた印象である。オンラインでの不正競争行為についても、2024年の典型事例に多かったような最新技術を用いた不正競争行為ではなく、元従業員による営業秘密漏えいや動画による誹謗中傷など、従来から問題とされてきた典型的な行為を取り締まったものが多かった。

 

以下、計10件の2025年知財典型事例のうち、特許・商標と関連する事件12及び10の概要を紹介する。

  • ●事件1

 「ジョージ卿の悲劇」商標出願拒絶査定不服審判審決取消訴訟事件[i]

本件は、商標の権利付与・権利確定に関する行政紛争事件であり、フレーズ(短文)型の商標の識別性の認定に関する典型的な事件である。

 

原告である英国のPENHALIGON’S LIMITED(以下「ペンハリガン社」という)は、2021624日に「乔治勋爵的悲剧」(「ジョージ卿の悲劇」)という商標を出願し、第3類の香水などの商品を指定した。関連業界では、既に「蓬帕杜夫人的茶杯」(「ポンパドゥール夫人のティーカップ」)、「花花公主的秘密」(「花姫の秘密」)、「莎菲女士的日记」(「サフィー女士の日記」)、「奥德利夫人的秘密」(「オードリー夫人の秘密」)などの商標が香水商品において登録されている。2020年より、ペンハリガン社は中国国内において「乔治勋爵的悲剧」ブランドの香水を販売してきた。国家知的財産局は審査の上、当該商標がフレーズにより構成され、商品出所識別機能を果たしにくいと判断し、商標法第11条第1款第3項に定める識別性欠如の事由に該当するとし、当該商標の登録出願を拒絶する決定を下した。一審・二審法院はいずれも当該拒絶決定を維持したが、ペンハリガン社は不服として最高人民法院に再審を申請した。

 

最高人民法院は、当該フレーズが日常生活における定型的な言葉や語彙に該当せず、その構成、意味、称呼には一定の独創性があり、構成要素も香水業界において汎用または慣用される標識ではないと認定した。また、当該フレーズは当該商品に関連する宣伝用語や記述的な言葉にも該当せず、香水などの商品の機能、用途その他の特徴とも何ら関連性がない。結論として、最高人民法院は、関連業界の商標登録の実情および当該商標の実際の市場における使用状況を総合的に斟酌し、一審・二審判決および被訴拒絶決定を取り消す判決を下した。

 

本件判決は、フレーズ型商標の識別性判断基準を明確にしており、商標出願人の商標戦略に対して以下の3つの指針を与えるものである。(1)ブランドの命名には独創性を重視し、業界の汎用表現をできるだけ避けるべきであるが、創造的なフレーズ商標は積極的に出願してよい。(2)使用証拠を事前に保管しておくことは、商標登録のために有効である。ただし、商標法第10条に違反するおそれのある標識は慎重に使用すべきである。(3)同一分野における先行登録事例は、不服審判及び行政訴訟における有力な証拠として活用できる。

 

  • ●事件2

電源管理チップ特許侵害事件[ii]

本件は、電源管理チップに関する特許権の侵害判断において均等侵害の成否が争われた事件である。

本件原告の成都芯源システム有限公司は、国際的競争力を有する米国のファブレス半導体メーカであるモノシリックパワーシステムズ(Monolithic Power Systems Inc. :MPS)社の中国子会社であり、「同期整流制御回路および制御方法」に関する特許権を有している。同社は、深圳市のIT企業が製造・販売する電源管理チップが自社の特許権を侵害しているとして、20209月、侵害行為の停止と1,000万元の損害賠償金の支払いを求める侵害訴訟を提起した。一審の成都市中級人民法院は、被告の回路モジュールと原告特許請求項1のパルス信号生成機能とが均等な特徴を構成するとして、被告に侵害行為の停止と120万元の損害賠償金の支払いを命じる判決を下した。被告は判決に不服として上訴した。

 

二審の最高人民法院は、ロジック回路に関する電気分野の請求項の解釈にあたっては、各技術的特徴間の論理的な接続関係、信号の流れおよび制御タイミングを重点的に理解すべきであり、技術的特徴を、その置かれているロジックの流れから切り離して解釈することは避けるべきであると指摘した。そして、本件特許の請求項における「パルス信号生成」の解釈にあたっては、当業者の視点に立ち、請求項全体から把握される発明を出発点として、明細書および図面の内容、当該技術分野における公知常識ならびに請求項の記載上の特徴を踏まえ、総合的に理解すべきであるとした。その上で、一審被告の回路モジュールは、本件特許請求項1におけるパルス信号生成の特徴とは、手段、機能および効果のいずれも異なるため、両者は均等な特徴を構成しないとして、一審判決を取り消す判決を下した。

 

本件の両当事者は、2020年から米国でも特許侵害訴訟及び商標秘密に関する複数の民事訴訟を行っており、米国での和解に続いて中国で出された本件判決は、5年に渡るグローバルな紛争に終止符を打つものとして注目された。本件を典型事例に選定した最高人民法院のコメントには、「本件判決は、関連分野における特許請求の範囲の解釈および均等侵害判断に関する考慮要素を明確にしたものであり、同種案件に対して裁判上の参考例を提供するものである。また、公共の利益の確保とイノベーション促進との両立を図るための有益な試みでもある。」と記載されている。

 

  • ●事件10 

藍妹ビール関連商標登録に関する不正競争事件[iii]

本件は、「商標法」及び「不正競争防止法」を適用し、継続的かつ反復的な悪意のある商標登録を規制した典型的な事件である。

 

一審原告の藍妹ビール(広州)有限公司(以下「藍妹社」という)は、ビール大手のバドワイザー・グループとジェブセン・グループの合弁会社であり、香港、広東地区を中心に「Blue Girl」ブランドのプレミアムビールを販売している。同社は、「蓝妹」シリーズ商標の権利者であり、当該シリーズ商標は一定の知名度を有する。一審被告の広東省の貿易企業もビールを販売しており、同じく一審被告の広州市の代理事務所に何度も依頼して「蓝味啤酒」(注:中国語の発音は「藍妹ビール」と類似)、「蓝魅啤酒」(注:中国語の発音は「藍妹ビール」と同じ)等の十数件の商標を出願し、そのうちの2件を他人に使用許諾した。これまでの知的財産局による審判及び先行事件における判決により、これらの商標が「蓝妹」シリーズ商標と類似することが認定されており、被告企業が明らかに他人の知名商標を複製・模倣する故意を有し、その他の不正な手段により商標登録を取得した状況に該当することが認定されている。更に、関連商標はいずれも拒絶査定、登録不許可又は無効となっている。藍妹社は、被告企業による悪意のある商標出願行為、及び被告代理事務所による代理業務提供行為が不正競争行為に該当すると主張し、両被告に対し不正競争行為の停止を求め、被告企業に対して経済的損失及び合理的費計100万元の賠償を請求し、被告代理事務所に対してそのうち25万元につき連帯賠償責任を負担するよう訴えを提起した。

 

広州市越秀区人民法院は一審において、被告企業が「蓝妹」シリーズ商標を知りながらそれと類似する商標を継続的かつ反復的に出願した行為は、明らかに正常な生産経営上のニーズを超え、藍妹社の信用に便乗し不正な利益を図る目的を有し、悪意による商標登録行為に該当する。さらにそのうちの2件の商標を他人に使用許諾した行為は、商標を蓄積し利益を図る行為に該当し、それらの行為が不正競争行為を構成すると認定した。また、被告代理事務所は被告企業の悪意を知りながら代理サービスを提供したため、幇助侵害行為を構成すると判断した。一審判決は、被告企業に対し50万元の賠償、被告代理事務所に対し10万元の範囲内で連帯賠償責任を負うことを命じた。被告代理事務所が上訴した後、広州知的財産法院は上訴を棄却し、原判決を維持する判決を下した。

 

本件判決は、先行判決にて悪意の商標登録であると認定されたにもかかわらず、なお大量かつ反復的に商標登録を出願する行為に対し否定的評価を下し、他人の信用に悪意で便乗する正常な経営上のニーズを超えた商標蓄積行為を不正競争行為の規制対象に組み入れた。これにより、悪意の商標登録出願に対する商標行政規制と民事司法救済の連携を確立した。これは商標権者にとって新たな権利保護の道筋を提示するものであり、すなわち、行政手続きにより相手方の商標登録を阻止すると同時に、民事訴訟を通じて損害賠償を請求することが可能であることが示された点で意義深い判決である。
                

(2025)最高法行再200号

(2023)最高法知民终2903号

(2025)粤73民終656号

 

 

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