Newsletter Vol. 30(2026年5月)

2025年知的財産権保護状況データ/2025年知財典型事例10件/懲罰的賠償の司法解釈【中国】【特許】【商標】【訴訟】

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Shangcheng Newsletter Vol. 30
懲罰的賠償司法解釈和訳新旧対照表日本語

 













<中国知財ニュース>

  • 最高人民法院と知的財産局が2025年の知的財産権保護状況に関するデータを公表
  • 最高人民法院が2025年知財典型事例10件を公表
  • 知的財産権侵害訴訟における懲罰的賠償の適用に関する司法解釈の公表について

<中国知財ニュース>

  • 最高人民法院と知的財産局が2025年の知的財産権保護状況に関するデータを公表

中国では毎年426日の世界知的財産の日前後に、最高人民法院や知的財産局から、前年の知的財産権保護状況に関する統計データが公表される。

 

最高人民法院は420日に「中国法院知的財産権司法保護状況(2025年)」 を、知的財産局は57日に「2025年中国知的財産権保護状況」をそれぞれ公表した。本記事では、これらに基づいて、2025年の司法ルート・行政ルートでの知的財産権の保護状況に関する主なデータを紹介する。

1.司法ルートでの知的財産権の保護状況

(1)民事訴訟に関するデータ

2025年の全国の人民法院が新たに受理した民事訴訟第一審の合計件数は473,411件で、前年比5.22%増加した。その内訳は、著作権関連が259,248件(54.76%)、商標関連が121,133件(25.59%)、専利関連が52,177件(11.02%)、不正競争関連が11,684件(2.47%)、技術契約関連が11,782件(2.49%)、その他が17,387件(3.67%)であった(【表1】【表2】【表3】参照)。商標関連のみ121,133件と、前年比3.03%減少した。専利関連の事件には、特許・実用新案・意匠に関する事件が含まれる。

民事訴訟第二審の合計件数は24,515件で、前年比19.59%減少しており、表1に示すように、2021年以降減少が続いている。

【表1】20212025年全国人民法院の民事訴訟受理件数(単位:件)

  • 審級・事由 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 前年比
    民事一審 550,263 438,480 462,173 449,923 473,411 5.22%
    内訳 専利(特実意) 31,618 38,970 44,711 44,255 52,177 17.90%
    商標 124,716 112,474 131,429 124,918 121,133 -3.03%
    著作権 360,489 255,693 251,687 247,149 259,248 4.90%
    不正競争 8,419 9,388 10,230 10,567 11,684 10.57%
    技術契約 4,015 4,233 6,492 8,320 11,782 41.61%
    その他 21,006 17,717 17,627 14,714 17,398 18.17%
    民事二審 49,084 46,524 37,214 30,486 24,515 -19.59%

【表2】2021年~2025年全国人民法院の民事訴訟第一審受理件数
(単位:件)



  • 【表3】2025年全国民事訴訟第一審の種類別内訳

  • (2)行政訴訟に関するデータ

    2025年全国の人民法院が新たに受理した行政訴訟第一審の合計件数は27,451件で、前年比31.67%増加した。そのうち、商標関連は24,334件で全体の88.65%を、専利関連は3,070件で全体の11.18%を占める。著作権関連は200%増加し、27件となったが、その他は35.48%減の20件にとどまっている。

    一方、2025年全国人民法院が新たに受理した行政訴訟第二審の合計件数は11,097件で、前年比4.88%減少した(【表4】【表5】参照)。

  • 【表4】20212025年全国人民法院の行政訴訟受理件数(単位:件)
    審級・事由 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 前年比
    行政一審 20,563 20,634 20,583 20,849 27,451 31.67%
    内訳 専利(特実意) 1,810 1,876 1,990 1,679 3,070 82.85%
    商標 18,734 18,738 18,558 19,130 24,334 27.20%
    著作権 19 12 11 9 27 200%
    その他 0 8 24 31 20 -35.48%
    行政二審 8,215 5,897 10,053 11,666 11,097 -4.88%
    【表5】2021年~2025年全国人民法院の行政訴訟第一審受理件数推移
  • (単位:件)

  • (3)刑事訴訟に関するデータ

    2025年全国の人民法院が新たに受理した刑事訴訟第一審の合計件数は9,018件で、前年比1.12%減少した。その内訳は、商標関連が7,862(前年比2.69%)、その他(専利関連を含む)が85件(17.65%減)と減少した一方、著作権関連が1,071件(14.18%増)と増加している。また、刑事訴訟第二審の合計件数は1,153件となり、前年比3.69%増加した。

    【表6】20212025年全国人民法院の刑事訴訟受理件数(単位:件)

  • 審級・事由 2021年 2022年 2023年 2024年 2025年 前年比
    刑事一審 6,276 5,336 7,335 9,120 9,018 -1.12%
    内訳 商標 5,869 4,971 6,634 8,079 7,862 -2.69%
    著作権 333 304 627 938 1,071 14.18%
    その他 74 61 74 103 85 -17.65%
    刑事二審 1,050 979 956 1,112 1,153 3.69%

  • 【表7 2021年~2025
    全国人民法院の刑事一審事件受理件数推移

    (単位:件)


  • 2.行政ルートでの知的財産権保護

    (1)専利権に基づく行政ルートでの権利行使

    2025年に全国の市場監督管理局が調査・処理した専利関連の違法事件は881件に上り、侵害品および偽造品の全国統一廃棄処分行動において、総額43,200万元相当の侵害品や偽造品(200種類以上、計3,683トン)が廃棄処分された。また、全国の知的財産局が処理した専利侵害紛争は、受理件数が9,520件、審理終結件数が9,520件であった。

     

    (2)商標権に基づく行政ルートでの権利行使

    2025年に全国の市場監督管理局が調査を行った商標関連の違法事件は3.6万件に上り、うち司法機関に移送された犯罪事件は1,128件であった。

     

    3.まとめ

    昨年は、知的財産権保護に関して、民事訴訟・行政訴訟の第一審受理件数が増加した一方、刑事訴訟は減少した。また、59件の悪質な代理業務機関・個人が重大な違法行為のリストに掲載された。違法・不正な代理行為の厳格な取締りが強化されている。

     

    民事訴訟に関する過去5年間の推移を見ると、不正競争・技術契約に関する事件の第一審受理件数が2021年以降、増加を続けている。これは、不正競争や営業秘密侵害の増加を示しており、それに応じて、2025年には不正競争防止法が改正されるなど、立法・司法による取り組みが強化されている。

     

    また、行政ルートにおいても、知的財産侵害行為に対する罰則が厳格化されている。更に、犯罪を構成するような悪質な商標関連違法行為については、行政ルートでの取締りに続き、司法機関に移送されて刑事事件としても立件することが増えている。中国における権利行使では、司法ルートのみではなく、行政ルートに特有の特徴を理解し、更に刑法による取り締まりも視野に入れるなど、多角的に用意されている権利行使オプションを有効に利用していくことが、権利者にとって、ますます重要になってきていると言える。

    • 最高人民法院が2025年知財典型事例10件を公表

中国最高人民法院は、2025420日に、2025年の知財典型事例を公表した。

 

最高人民法院は、毎年426日の「世界知的財産の日」前後に、前年の知財典型事例を公表している。昨年分としては10件の典型事例が公表され、その内訳は、行政訴訟1件、刑事訴訟1件、民事訴訟7件、民事訴訟の付随する刑事訴訟1件であった。権利種別としては、特許権関連1件、商標権関連4件、著作権関連1件、不正競争関連5件(重複含む)と、昨年に続き不正競争関連事件が多く選ばれた。

 

特許関連では、電源管理ICチップ分野における均等論の適用が争われた民事事件1件が選ばれた(以下に紹介する事件2)。

 

商標関連では、フレーズ(短文)型の商標の登録可否が争われた行政事件(事件1)、回収した中古品から製造した再生品に他人の商標を付けて販売し刑事罰を受けた事業者に対し、更に懲罰的賠償が課された民事事件、及び、模倣品製造・販売により民事訴訟を提起された事業者の刑事責任をも追及した民事・刑事連携事件が選ばれた。

 

著作権関連では、海賊版電子書籍を販売する電子商取引プラットフォームの運営事業者責任が問われた民事事件が選ばれた。

 

不正競争関連では、元従業員による技術秘密の持ち出しが処罰された刑事事件、競合禁止規定を回避したライバル企業社員の引き抜きが問題とされた民事事件、タオバオ/Tモールから不正なクローリングにより取得したデータを販売する行為が問題とされた民事事件、SNS上でライバル企業とその経営者を誹謗・中傷する営業誹謗行為が問題とされた民事事件、及び、他人の商標と類似する商標を繰り返し出願する行為が不正競争とされた民事事件(事件10)が選ばれた。

 

植物新品種や独禁法関連の事件は、昨年に続き今年も選出されなかった。また、例年の典型事例には外国企業関連の事件が比較的多く選ばれているが、今年も、英国のペンハリガン社が当事者となった事件1、米国の半導体大手MPS社の中国子会社が当事者となった事件2が選定された。

 

全体の傾向として、法的に複雑な論点を扱った事例よりは、悪質な侵害行為や、刑事罰の対象となる行為に対する人民法院の厳格な態度を示す事例が多く選ばれた印象である。オンラインでの不正競争行為についても、2024年の典型事例に多かったような最新技術を用いた不正競争行為ではなく、元従業員による営業秘密漏えいや動画による誹謗中傷など、従来から問題とされてきた典型的な行為を取り締まったものが多かった。

 

以下、計10件の2025年知財典型事例のうち、特許・商標と関連する事件12及び10の概要を紹介する。


  • 【事件1】

 「ジョージ卿の悲劇」商標出願拒絶査定不服審判審決取消訴訟事件[i]

本件は、商標の権利付与・権利確定に関する行政紛争事件であり、フレーズ(短文)型の商標の識別性の認定に関する典型的な事件である。

 

原告である英国のPENHALIGON’S LIMITED(以下「ペンハリガン社」という)は、2021624日に「乔治勋爵的悲剧」(「ジョージ卿の悲劇」)という商標を出願し、第3類の香水などの商品を指定した。関連業界では、既に「蓬帕杜夫人的茶杯」(「ポンパドゥール夫人のティーカップ」)、「花花公主的秘密」(「花姫の秘密」)、「莎菲女士的日记」(「サフィー女士の日記」)、「奥德利夫人的秘密」(「オードリー夫人の秘密」)などの商標が香水商品において登録されている。2020年より、ペンハリガン社は中国国内において「乔治勋爵的悲剧」ブランドの香水を販売してきた。国家知的財産局は審査の上、当該商標がフレーズにより構成され、商品出所識別機能を果たしにくいと判断し、商標法第11条第1款第3項に定める識別性欠如の事由に該当するとし、当該商標の登録出願を拒絶する決定を下した。一審・二審法院はいずれも当該拒絶決定を維持したが、ペンハリガン社は不服として最高人民法院に再審を申請した。

 

最高人民法院は、当該フレーズが日常生活における定型的な言葉や語彙に該当せず、その構成、意味、称呼には一定の独創性があり、構成要素も香水業界において汎用または慣用される標識ではないと認定した。また、当該フレーズは当該商品に関連する宣伝用語や記述的な言葉にも該当せず、香水などの商品の機能、用途その他の特徴とも何ら関連性がない。結論として、最高人民法院は、関連業界の商標登録の実情および当該商標の実際の市場における使用状況を総合的に斟酌し、一審・二審判決および被訴拒絶決定を取り消す判決を下した。

 

本件判決は、フレーズ型商標の識別性判断基準を明確にしており、商標出願人の商標戦略に対して以下の3つの指針を与えるものである。(1)ブランドの命名には独創性を重視し、業界の汎用表現をできるだけ避けるべきであるが、創造的なフレーズ商標は積極的に出願してよい。(2)使用証拠を事前に保管しておくことは、商標登録のために有効である。ただし、商標法第10条に違反するおそれのある標識は慎重に使用すべきである。(3)同一分野における先行登録事例は、不服審判及び行政訴訟における有力な証拠として活用できる。

 

  • 【事件2】

電源管理チップ特許侵害事件[ii]

本件は、電源管理チップに関する特許権の侵害判断において均等侵害の成否が争われた事件である。

本件原告の成都芯源システム有限公司は、国際的競争力を有する米国のファブレス半導体メーカであるモノシリックパワーシステムズ(Monolithic Power Systems Inc. :MPS)社の中国子会社であり、「同期整流制御回路および制御方法」に関する特許権を有している。同社は、深圳市のIT企業が製造・販売する電源管理チップが自社の特許権を侵害しているとして、20209月、侵害行為の停止と1,000万元の損害賠償金の支払いを求める侵害訴訟を提起した。一審の成都市中級人民法院は、被告の回路モジュールと原告特許請求項1のパルス信号生成機能とが均等な特徴を構成するとして、被告に侵害行為の停止と120万元の損害賠償金の支払いを命じる判決を下した。被告は判決に不服として上訴した。

 

二審の最高人民法院は、ロジック回路に関する電気分野の請求項の解釈にあたっては、各技術的特徴間の論理的な接続関係、信号の流れおよび制御タイミングを重点的に理解すべきであり、技術的特徴を、その置かれているロジックの流れから切り離して解釈することは避けるべきであると指摘した。そして、本件特許の請求項における「パルス信号生成」の解釈にあたっては、当業者の視点に立ち、請求項全体から把握される発明を出発点として、明細書および図面の内容、当該技術分野における公知常識ならびに請求項の記載上の特徴を踏まえ、総合的に理解すべきであるとした。その上で、一審被告の回路モジュールは、本件特許請求項1におけるパルス信号生成の特徴とは、手段、機能および効果のいずれも異なるため、両者は均等な特徴を構成しないとして、一審判決を取り消す判決を下した。

 

本件の両当事者は、2020年から米国でも特許侵害訴訟及び商標秘密に関する複数の民事訴訟を行っており、米国での和解に続いて中国で出された本件判決は、5年に渡るグローバルな紛争に終止符を打つものとして注目された。本件を典型事例に選定した最高人民法院のコメントには、「本件判決は、関連分野における特許請求の範囲の解釈および均等侵害判断に関する考慮要素を明確にしたものであり、同種案件に対して裁判上の参考例を提供するものである。また、公共の利益の確保とイノベーション促進との両立を図るための有益な試みでもある。」と記載されている。

 

  • 【事件10】 

藍妹ビール関連商標登録に関する不正競争事件[iii]

本件は、「商標法」及び「不正競争防止法」を適用し、継続的かつ反復的な悪意のある商標登録を規制した典型的な事件である。

 

一審原告の藍妹ビール(広州)有限公司(以下「藍妹社」という)は、ビール大手のバドワイザー・グループとジェブセン・グループの合弁会社であり、香港、広東地区を中心に「Blue Girl」ブランドのプレミアムビールを販売している。同社は、「蓝妹」シリーズ商標の権利者であり、当該シリーズ商標は一定の知名度を有する。一審被告の広東省の貿易企業もビールを販売しており、同じく一審被告の広州市の代理事務所に何度も依頼して「蓝味啤酒」(注:中国語の発音は「藍妹ビール」と類似)、「蓝魅啤酒」(注:中国語の発音は「藍妹ビール」と同じ)等の十数件の商標を出願し、そのうちの2件を他人に使用許諾した。これまでの知的財産局による審判及び先行事件における判決により、これらの商標が「蓝妹」シリーズ商標と類似することが認定されており、被告企業が明らかに他人の知名商標を複製・模倣する故意を有し、その他の不正な手段により商標登録を取得した状況に該当することが認定されている。更に、関連商標はいずれも拒絶査定、登録不許可又は無効となっている。藍妹社は、被告企業による悪意のある商標出願行為、及び被告代理事務所による代理業務提供行為が不正競争行為に該当すると主張し、両被告に対し不正競争行為の停止を求め、被告企業に対して経済的損失及び合理的費計100万元の賠償を請求し、被告代理事務所に対してそのうち25万元につき連帯賠償責任を負担するよう訴えを提起した。

 

広州市越秀区人民法院は一審において、被告企業が「蓝妹」シリーズ商標を知りながらそれと類似する商標を継続的かつ反復的に出願した行為は、明らかに正常な生産経営上のニーズを超え、藍妹社の信用に便乗し不正な利益を図る目的を有し、悪意による商標登録行為に該当する。さらにそのうちの2件の商標を他人に使用許諾した行為は、商標を蓄積し利益を図る行為に該当し、それらの行為が不正競争行為を構成すると認定した。また、被告代理事務所は被告企業の悪意を知りながら代理サービスを提供したため、幇助侵害行為を構成すると判断した。一審判決は、被告企業に対し50万元の賠償、被告代理事務所に対し10万元の範囲内で連帯賠償責任を負うことを命じた。被告代理事務所が上訴した後、広州知的財産法院は上訴を棄却し、原判決を維持する判決を下した。

 

本件判決は、先行判決にて悪意の商標登録であると認定されたにもかかわらず、なお大量かつ反復的に商標登録を出願する行為に対し否定的評価を下し、他人の信用に悪意で便乗する正常な経営上のニーズを超えた商標蓄積行為を不正競争行為の規制対象に組み入れた。これにより、悪意の商標登録出願に対する商標行政規制と民事司法救済の連携を確立した。これは商標権者にとって新たな権利保護の道筋を提示するものであり、すなわち、行政手続きにより相手方の商標登録を阻止すると同時に、民事訴訟を通じて損害賠償を請求することが可能であることが示された点で意義深い判決である。
               

(2025)最高法行再200号

(2023)最高法知民终2903号

2025)粤73民終656号

  

  • 知的財産権侵害訴訟における懲罰的賠償の適用に関する司法解釈の公表について

2026年420日、最高人民法院は「知的財産権侵害民事紛争事件における懲罰的賠償の適用に関する解釈」を公表した。同司法解釈は、202651日から施行される。

 

知的財産権侵害に対する懲罰的賠償に関しては、専利法、商標法、不正競争防止法、著作権法にそれぞれ規定があり、例えば、専利法第71条第1項では、「専利権侵害の賠償金額は、権利者が権利侵害により被った実際の損失又は侵害者が侵害により獲得した利益によって確定する。権利者の損失あるいは侵害者が獲得した利益の確定が難しい場合、その専利の実施許諾料の倍数を参照して、合理的に確定する。故意に専利権を侵害し、情状が深刻である場合、上記方法で確定した金額の1倍以上5倍以下で賠償金額を確定することができる。」と規定されている。

 

この懲罰的賠償の適用について、最高人民法院は2021年に司法解釈を公表している。今般公表された司法解釈は、この2021年の司法解釈を変更するものである。主な変更点には、原告が懲罰的賠償を請求せず侵害訴訟が終結した後に懲罰的賠償を請求する別の訴えを提起しても受理されないことが明確にされた点、懲罰的賠償の適用要件である「故意侵害」及び「情状が深刻」の認定事由が拡充された点、懲罰的賠償額算定の基礎額および倍率の決定方法が明確にされた点がある。

 

以下、今般公表された司法解釈の内容を、2021年の司法解釈と対照しつつ紹介する。なお、弊所作成の懲罰的賠償司法解釈和訳新旧対照表日本語も併せて参照されたい。

 

(1)懲罰的賠償の請求要件(第15条)

懲罰的賠償の適用には、従来、原告による請求が要件とされている。原告は、明確な賠償額、計算方法、及び根拠となる事実と理由を提示して、懲罰的賠償の適用を請求しなければならない。原告が一審の法廷弁論終結前に懲罰的損害賠償の請求を追加することが許されるが、二審で追加した場合は、裁判所は和解の働きかけをすることができるに過ぎず、和解が成立しない場合には、原告の請求は支持されない。

 

また、侵害訴訟の原告が損害賠償を請求したが懲罰的損害賠償を請求せず、裁判所による説明の後も、なお請求しなかった場合であって、訴訟終結後に同一の侵害事実に基づいて別訴を提起して懲罰的損害賠償を請求した場合、裁判所はこれを受理しないことが明確にされた。更に、営業秘密侵害以外の不正競争行為について懲罰的損害賠償を請求した場合、裁判所は法律に別段の規定がない限り、これを支持しないことも規定された。

 

(2)「故意侵害」の認定要件(第6条)

上述の専利法第71条第1項では、懲罰的賠償の適用要件として、「故意侵害」および「情状が深刻」の2つが定められている。

 

このうちの「故意侵害」の認定基準について、従来、裁判所は、係争の対象となる知的財産権の権利種別、権利の状態および知名度、被告と原告または利害関係人との関係等の要素を総合的に考慮しなければならないことが規定されている。

 

今回の司法解釈では、「故意侵害」と認定され得る事由の一部が、変更・追加された。即ち、(一)原告または利害関係人からの通知の受領後も侵害行為を継続した場合、(二)被告またはその法定代表者、管理者が、原告または利害関係人の法定代表者、管理者または実質的支配者であり、係争対象の知的財産権を知っている、または知り得たはずである場合、(三)原告または利害関係人との間に労働、役務、協業、許諾、販売、代理、代表等の関係が存在し、かつ当該関係に基づいて係争対象の知的財産権に接触したことがある場合、(四)原告または利害関係人と取引関係がある、または契約締結等のための協議を行ったことがあり、当該関係に基づいて係争対象の知的財産権に接触したことがある場合、(八)その他、故意と認定し得る事由がある場合については、従来も規定されていたが、今般の司法解釈では、(二)の場合について、更に、被告側が係争対象の知的財産権を知っていた、または知り得たはずであることが要件として明確にされた。また、「(五)海賊版行為、登録商標の冒用を実施した場合」に加えて、「他人の専利の冒用行為を実施した場合」が追加された。更に、「(六)原告と和解に達し侵害行為の停止に同意した後に、再び同一または類似の侵害行為を実施した場合」及び、「(七)関連会社の設立、法定代表者または支配株主の変更、名義を隠した会社設立等の方法により実質的支配関係を隠蔽し、または免責合意を締結して、係争知的財産権侵害の法的責任を回避した場合」も追加された。

 

(3)「情状が深刻」の認定要件(第7条)

同時に、「情状が深刻」の認定要件にも変更があった。

従来、「情状が深刻」の認定に際し、裁判所は、侵害手段、回数、侵害行為の継続期間、地域範囲、規模、結果、及び侵害者の訴訟中の行為等の要素を総合的に考慮しなければならないとされていたが、今般の司法解釈では、このうちの「侵害者の訴訟中の行為」が、「侵害者のその侵害行為に対する認識、および基本的態度」と変更された。これは、やや抽象的であった従来の規定を、より具体的でわかりやすい基準に置き換えたものである。

 

また、「情状が深刻」と認定され得る事由にも変更があった。(一)侵害により行政処罰を受け、または裁判所の裁判により法的責任を負うとされた後に、再び同一・類似の侵害行為を実施した場合、(二)正当な理由なく保全決定の履行を拒否した場合、(三)侵害に関する証拠を偽造、毀損または隠匿した場合、(七)その他、情状が深刻であると認定すべき事由については、2021年の司法解釈と実質的に同じである。今般の司法解釈では、従来規定されていた「知的財産権侵害を業としている場合」について、「(四)侵害行為を主たる業務とし、または侵害による利益を主要な利益源とするなど、知的財産権侵害を業としている場合」と説明が追加された。同じく従来の規定にあった、「(五)侵害利益または権利者の損害が巨額である場合」は、「(五)侵害利益が巨額である、または侵害行為により権利者の営業上の信用、市場シェア等が重大な損害を受けた場合」に変更され、「(六)侵害行為が国家安全、公共の利益、又は人身の健康に危害を及ぼし得る場合」は、「(六)侵害行為が国家利益または社会公共の利益に危害を与え、または与えるおそれがある場合」に変更された。

 

(4)算定基礎額の計算方法の明確化(第8~10条)

懲罰的賠償の金額は、専利法第71条第1項の後半部分に規定の通り、通常の方法で確定した賠償金額の15倍として確定される。実務では、通常の方法で確定した賠償金額を「算定基礎額」とし、「算定基礎額×倍率」の公式により懲罰的賠償額を算定するのが一般的である。

 

この算定基礎額の算出にあたり、裁判所は、被告に文書提出命令を出し、侵害行為に関連する帳簿、資料等の提出を命じることができる。被告が正当な理由なく提出を拒否し、または虚偽の帳簿、資料等を提出したときは、人民法院は原告の主張および事件における証拠に基づいて算定基礎額を確定することができる。

 

今般の司法解釈では、権利者の損失、侵害者の利益、及び実施料相当額のいずれも確定できない場合に裁判所が諸般の事情を考慮して決定する法定損害賠償額は、懲罰的賠償の算定基礎額にできないことが明確にされた。これは、従来の裁判所実務で適用されてきた考え方であるが、2021年の司法解釈には明記されていなかった。

 

また、被告の違法所得または侵害による利益を算定基礎額とする場合には営業利益を参照して確定できること、被告が知的財産権侵害を業としている場合には販売利益を参照して計算できること、利益率を確定できない場合には統計部門、業界団体等が公表する同時期・同業種の平均利益率または権利者の利益率を参照して計算できることが明確にされた。

 

(5)倍率の決定方法の明確化(第1113条)

懲罰的賠償金額を算定するための倍率は、従来通り、被告の主観的過失の程度、侵害行為の情状の深刻さ等の要素を総合的に考慮して決定するとされたが、今般の司法解釈では、倍率は法定範囲内(即ち、15倍)であれば、整数でなくても良いことが明記された。

 

また、懲罰的賠償の総額は、最高でも算定基礎額の5倍であり、権利者が侵害行為の制止のために支払った合理的支出は、この総額の外で別途計算することが規定された。この点について、過去の裁判例や地方人民法院のガイドラインでは、懲罰的賠償の総額を、算定基礎額である通常の賠償額と、算定基礎額に倍数をかけた懲罰的賠償額との合計とするものもあった((2021)浙民終294号判決等)。このため、懲罰的賠償の総額は、通常の賠償額+通常の賠償額の15倍、即ち最大で通常の賠償額の6倍になり得るとの理解もあった。今般の司法解釈では、この理解が誤りであり、最大は通常の賠償額の5倍であることが明確にされた。

更に、同一の侵害行為について既に過料または罰金が科され、その執行が完了している場合には、被告の請求がなくても、裁判所が懲罰的損害賠償の倍率を確定する際に、これを考慮しなければならないことが規定された。

 

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