裁判例紹介:他者による無断公開時の新規性喪失の例外適用申請期限-NBA試合中継で出願前意匠が公開された事例

裁判例紹介:他者による無断公開時の新規性喪失の例外適用申請期限

-NBA試合中継で出願前意匠が公開された事例

  • 1.はじめに

 通常、出願より前に公開された従来技術文献は、その後の出願の新規性を否定する材料になるが、特定の状況において、後の出願の新規性を否定しないとする例外的な措置、すなわち、新規性喪失の例外に関する規定が主要各国の特許関連法規に盛り込まれている。

 中国では専利法の第24条にこの例外について規定している。例えば、共同開発や出願前に外部協力者に試作品を提供したことにより、その協力者(=他者)が出願人の知らないところで出願内容を漏洩してしまうこともある。

 そのような状況について、『審査指南』の第一部分第一章「特許出願の初歩審査」の6.3.4節には、新規性喪失の例外の適用を受けるために、「出願人は(出願内容が漏洩したことを)知った日から2ヶ月以内に例外規定の適用を求める声明を提出すべき」との規定がある。

 この規定について、今般、上記規定が無効審判段階でも適用されるか、また、その「知った日」(=基準日)は具体的にいつを指すかについて明らかにした最高人民法院の判決が出された。

以下、事案の概要と裁判所の判断の要旨を紹介する。

 

  • 2.事件情報

事件番号:(2023)最高法知行終490号(最高人民法院による最終判決)

判決日:2024年12月21日

原告:H社(企業)

被告:国家知的財産局

第三者:B社(企業)

結果:全部無効審決⇒一審:維持判決⇒二審:維持判決

 

  • 3.事案の概要

 原告のH社は、係争対象の振動マッサージガンの意匠権を、2019年3月に取得した。当該意匠出願の優先権日は2018222であり、出願日は2018年7月27日であった。

 第三者のB社は2019年7月24日付けで、国家知的財産局に対し、上記係争意匠権の無効を求める無効審判請求を行った。その際に、以下の証拠などが提出された。

 

証拠1.2:
(1)2018212のNBA試合(ネット中継)のビデオクリップ。その画面に、マッサージガンで有名選手レブロン・ジェームズの膝をマッサージするスタッフが映り込んでいる。

(2)省略

(3)H社が2019年4月にSNS上で公開した「レブロン・ジェームズ選手と同じマッサージガンを手に入れよう!」とするPRコメント、同コメントに添付のマッサージガンの写真および同製品を使用しているgif画像。なお、gif画像は上記(1)に由来する。

 

 国家知識産権局は上記B社の無効理由と証拠を20191016にH社に転送した。同年11月18日、H社は「証拠にあるマッサージガンと係争意匠の違いは明確で、係争意匠は開示されていない」旨の答弁書と提出した。

 2020年5月19日、国家知識産権局は係争意匠権の新規性を否定し、意匠権全部無効の審決を下した。

 2020710、H社は専利法第24条を引用し、他者が無断で意匠を公開したことを理由に、新規性喪失の例外の適用を請求したが、国家知識産権局はこの請求を認めなかったため、H社は無効審決の取消訴訟を提起した。

 しかし、一審の北京知財法院と二審の最高人民法院は、いずれもH社の主張を退けた。その理由はいずれもH社が審査指南で規定した基準日から2ヶ月以内に例外適用の声明を提出しなかったため、証拠1.2により係争意匠権の新規性を否定できると認定するものであった。

 

  • 4.主な争点に対する裁判所の判断

 本件の争点は、(1)『審査指南』第一部分の規定は「初歩審査」段階に関する規定であるため、その規定内容が「無効請求」段階に適用されるか?(2)適用される場合、その基準日はいつか?の2点である。

以下、争点に関連する法規定、当事者の主張及び裁判所の判断を紹介する。

 

  • 4.1 関連法規定

『中国専利法』

「(第二十四条)

専利を出願する発明創造について、出願日前6カ月以内に以下の状況のいずれかがあった場合、その新規性を喪失しないものとする。

(一)国家において緊急事態又は非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開した場合。

(二)中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合。

(三)規定の学術会議、又は技術会議上で初めて発表された場合。

(四)他者が出願人の同意を得ずに、その内容を漏洩した場合。

 

『審査指南』の第一部分第一章「特許出願の初歩審査

「(6.3.4節)

他者により出願人の同意なく内容が漏洩されたことによる公開は、他者が明示又は暗示された守秘の約束を守らないことによる発明創造の内容の公開……を含む。

専利出願に係る発明創造が、出願日の6か月前までに、他者が出願人の同意なく当該内容を漏洩したことを、出願人が出願日以前に知っている場合には、専利出願提出時に願書で声明を行い、出願日から2か月以内に証明資料を提出しなければならない。出願人が出願日以降に状況を知った場合、状況を知ってから2か月以内に新規性喪失の例外に関する猶予期間を請求する声明を提出し、かつ証明資料を付さなければならない。(後略)」

 

  • 4.2 当事者の主張

 原告は以下の理由(A)と(B)により、新規性判断から証拠1.2の排除を求めた。

(A)『審査指南』の第一部分はすべて初歩審査に関するものであり、その規定内容も審査段階の出願に対するものであり、すでに設定登録された権利については適用されない。

(B)基準日については、無効審決を受け取った日(2020年5月19日)を基準日とすべきであり、2020710に提出した例外適用の声明は規定期間内に提出されたものである。

 

  • 4.3 裁判所の判断

 最高人民法院は、以下の考えを示したうえで、新規性による係争意匠権を全部無効とする審決を支持した。

 

『審査指南』の規定の適用範囲について

  •  『審査指南』において2ヶ月の期限を設けたのは、出願人(権利者)に対して、自ら例外適用を求める義務の履行を促すものでもある。これにより、出願人(権利者)の合法的権利を保障するとともに、公衆に安定した予見性を提供することができる。この制度設計の本意に立ってみれば、出願中または特許登録済のステータスによって変わるべきではない。
  •  『審査指南』の条文では、出願日だけで線引きしており、その条文が「初歩審査」にだけ適用するとは制限していない。もし登録査定の後に他者による漏洩が発覚した場合でも、条文における「出願日の後に知った」状況に該当する。

 
「基準日」の起算について

  •  『審査指南』の規定における「知った」ということは、客観的事実の発生に対する主観的認知であり、その事実がもたらす法的結果への認知ではない。そのため、基準日は出願人(権利者)が主観的に「他者による無断漏洩」という事実を知った日あるいは知り得るべき日となる。
  •  本案では、2019年10月16日に証拠2はすでにH社に転送されて、H社も同年11月18日に当該証拠1.2に対して意見を述べている。このことから、H社は遅くとも2019年11月18日までには「他者による無断漏洩」を知ったはずである。そのため、例外適用を求める場合、遅くとも2019年11月18日から2か月以内に行うべきであり、2020年7月の申請は規定の期限を過ぎている。

 

  • 5.コメント

 H社がなぜ無効審判の段階で例外措置の適用を求めなかった理由の詳細は不明だが、相手の提出証拠がどのように認定されるか不確定である段階で、その開示内容を認めたくなかった心情は理解できる(あるいは単に審査指南の規定を見落としていたか)。

 しかしながら、判決文と法規条文の内容を見る限り、もしH社が規定の期限内に例外適用を請求していれば、国家知識産権局は例外の適用を認めていた可能性もあったのではないかと考える。

 そのため、やはり漏洩対策としては、まずしっかりと「出願後に公開」の順番を守り、次に他者が無断で発明内容を公開(漏洩)した場合、その事実を知った日から速やかに例外適用の申請を行う必要がある。

 

 『審査指南』では「知った日」と規定している一方、最高人民法院の論述ではこれに「知り得べき日」が付け加えられている。この「知り得べき日」は、専利法の侵害訴訟の訴訟時効の始期等にも用いられており、当事者が実際に知ったことの直接的証拠はないものの、客観的状況に基づいて裁判所により実質的に「知った日」と認定される日を意味する。本件判決では、この「知り得べき日」が証拠が提示された日(本件での2019年10月16日)なのか、それとも権利者がその証拠を詳しく検討したことが確認できた日(本件での2019年11月18日)なのか、完全に明かにされたとは言えないが、無効審判過程で知的財産局から証拠が送達された本件のように、公的機関から関連書類の送達を受けたケースで、「知り得べき日」の認定を覆すのは難しいと思われる。

 中国の専利出願において、新規性喪失の例外適用を受けるのは非常に難しいと言われているが、標準化特許関連などで、例外適用を柔軟に利用させようという動きもある。この点について何か新しい状況があれば追って報告したい。再探再報!

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