Newsletter Vol. 26(2025年7月)

中国専利審査指南改正案(2025 年 4 月 30 日公表)の詳細【中国】【特許】

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Shangcheng Newsletter Vol. 26(2025-7)

 

<尚誠ニュース>
●尚誠スタッフで「仙居」に所員旅行に行ってきました

<中国知財ニュース>
●2025 年 4 月 30 日に公表された「専利審査指南改正案」の詳細について

 

<尚誠ニュース>
●尚誠スタッフで「仙居」に所員旅行に行ってきました

 弊所では、2025 年 6 月、チームビルディングの一環として、中国浙江省「仙居」への 3 日間の所員旅行を実施しました。「仙居」は、浙江省南東部に位置し、かつては「楽安」「永安」とよばれていた古都ですが、「神仙居(天姥山)」などの豊かな自然に囲まれていることから、グリーンツーリズムの拠点として近年とても注目されている景勝地です。

 

 初日は仙居名物「ヤマモモ摘み」をしました。スタッフ全員で、山の斜面を登っていき、協力してヤマモモを摘みました。その後、農家民宿で地元の食文化を体験しながらスタッフ同士で意見交換をしました。


 二日目には、「神仙居(天姥山)」へハイキングに行きました。神仙居は火山流紋岩からなる独特な地形が美しい場所で、山峡に様々な珍しい形をした橋が架けられていることでも有名です。その 1 つの「如意橋」は、橋の床が透明なガラスでできており、そのガラスの床から遥か下に峡谷の奇景を見ることができるスリリングな橋なのですが、この橋をスタッフ皆で声を掛け、手を取り合いながら協力して渡りました。


 今回の所員旅行を通じて、大自然の中でリラックスすると同時に、弊所の北京・上海・東京のスタッフ全体のチームワークを高めることができました。尚誠は今後も定期的にこのような活動を実施して、より良いチームを作ってまいりたいと考えております。

 

 

<中国知財ニュース>
●2025 年 4 月 30 日に公表された「専利審査指南改正案」の詳細について

  • 1.改正案の概要

 中国の「専利審査指南」は、特許・実用新案・意匠の審査・審判における運用ルール及び審査基準を定めたものであり、比較的頻繁に改正されている。国家知識産権局は、本年 1 月より次回改正のための準備作業を開始し、4 月 30 日に改正案を公表して、6月 15 日までパブリックコメント募集を行った。そこでの議論を踏まえた最終的な改正内容は、今後、発表される。本稿では、この改正案の内容を紹介する。

  • 2.主な改正ポイント

 改正案は、形式審査、実体審査、PCT 出願、審判、手続き関連の全分野におよび、主に以下の17項目の改正ポイントを含む。人工知能(AI) 等に関する発明やビットストリームを含む発明の審査基準・審査事例が追加されたことが、特に注目される。また、願書に記載すべき発明者情報の追加や、進歩性の審査基準の追加、特許期間調整の延長期間算定ルールの一部変更等も、実務への影響が比較的大きな項目と言える。


 以下のリストでは、各項目の詳細説明へのリンクを設けた。関心のある項目をクリックして、詳細を確認頂ければ幸いである。


【形式審査部分】

(1)願書に記載すべき発明者情報の追加
(2)分割出願の優先権主張に関する運用の整理
【実体審査部分】
(3)保護対象外となる「植物品種」の定義の明確化

(4)特実同日出願制度の一部改変
(5)進歩性の審査基準・審査事例の追加
(6) AI 等関連発明の審査基準・審査事例の追加
(7)ビットストリームを含む発明の審査基準・審査事例の追加
【PCT 出願関連】
(8)国内移行時の優先権譲渡証への署名者の明確化
【復審・無効審判関連】
(9)審決における記載の簡略化・省略
(10)他人名義での無効審判請求の禁止
(11)無効理由の「一事不再理」範囲の明確化
(12)無効審判中の訂正に関する運用の明確化
【手続き関連】
(13)配列表のページ加算の廃止
(14)オフィシャルフィー返還請求のルール変更
(15)加速審査の明文化
(16)国際出願の登録証への記載内容の明確化
(17)特許期間調整の延長期間算定ルールの一部変更

 

3.改正内容
【形式審査部分】
1)願書に記載すべき発明者情報の追加
 現行の願書では、第一発明者についてのみ、身分情報として、国籍と、中国籍の場合には身分証明書番号の記入が求められている。改正案では、発明者全員について身分情報の記入が必要となることが規定された。この改正が正式に実施された場合、中国出願をするためには、発明者全員の国籍情報と、中国籍の発明者全員の身分証明書番号とを把握する必要が生じるため、発明者情報の管理負担が増加する。


 同時に、願書に記載する発明者の身分情報、出願人の身分情報及び連絡先情報の真実性・有効性について、代理機構(訳注:特許事務所)が責任をもって確保すべきであることが規定された。

2)分割出願の優先権主張に関する運用の整理
 改正案では、優先権主張を伴う親出願から分割された分割出願において、出願時に優先権主張がなされなかった場合、「優先権主張をしなかったとみなす」旨の通知書が発行されることが規定された。出願人は、当該通知書の受領日から 2 か月以内に所定の回復料を納付し、優先権の回復を請求することができる。

 

 従来の実務でも、親出願が優先権主張を伴う場合、分割出願で優先権主張をしなかったとしても、後日に優先権の回復が認められていた。本改正は、こうした既存のルールを変更するものではなく、回復プロセスを明確化したものに過ぎない。

【実体審査部分】
3) 保護対象外となる「植物品種」の定義の明確化
 専利法第25条第1項第4号では、「動物及び植物品種」は特許権による保護の対象外と規定されている。改正案では、この「植物品種」について、「特異性、一致性及び安定性を備える植物グループである」と定義し、更に、「特異性、一致性、安定性」について、「当該植物グループが他の植物グループと明確に識別可能であり、繁殖後も形態的特徴および生物学的性質の一致性を保ち、かつ遺伝形質が安定していることを指す」と規定した。


 特異性(Distinctness)、一致性(Uniformity)及び安定性(Stability)を備える、という「DUS 基準」は、植物新品種として保護されるための要件として、「国際植物新品種保護条約」により確立され、既に中国の「種子法」及び「植物新品種保護条例」にも取り入れられている。


 本改正案は、「種子法」及び「植物新品種保護条例」との間で用語の定義を統一すると同時に、「DUS基準」を満たす植物新品種は、「種子法」に規定された植物新品種権による保護の対象となる一方、「DUS 基準」を満たさない育種の中間材料等は、専利法の保護対象になり得るという、両法の補完関係を明確にしたものである。

 

 改正案では、更に具体的に、自然界において発見された、技術的処理を経ていない天然の野生植物は、専利法第 25 条第 1 項第 1 号に規定される「科学上の発見」に該当し、特許権による保護の対象外だが、野生植物が人工的な選抜育種または改良を経ており、産業上の利用価値を有する場合には、「科学上の発見」には属さず、保護対象となり得ることが明記されている。

(4)特実同日出願制度の一部改変
 同一出願人が同じ発明・考案について同日に特許・実用新案の両方を出願することを認める、いわゆる特実同日出願制度は、2010 年の専利法実施細則改正により導入され、現在も利用されている。同制度では、実用新案出願が設定登録された後、特許出願の審査において、その他の登録要件が全て満たされていると判断された際に、出願人に対し、実用新案権と特許権のいずれかの選択を求める通知が発行される。従来、通知を受け取った出願人には、実用新案登録を放棄して同内容について特許権の設定登録を受けるか、実用新案登録を維持したまま特許出願の内容を補正して両方を権利化するか、の2つの選択肢があった。これに対し、改正案では、当該通知の受領後、出願人が実用新案登録を放棄しなければ、特許出願は却下されると規定されている。よって、改正後は、特許出願を補正して特許・実用新案の両方を権利化することは許されず、出願人は必ず、実用新案権又は特許権のいずれかを選択しなければならない。


 また、改正案では、更に、同制度を利用して出願された発明・考案が「同じ発明・考案」に属するか否かは、出願人の声明に基づいて認定することが規定された。これは、同制度を利用する旨を声明してなされた特許・実用新案出願について、出願人・権利者が後日に、「同じ発明・考案ではない」と主張することを許されない規定と理解できる。


 本改正案と同時に公表された「改正案の解説」によれば、これらのルール変更の目的は、同日出願された特許・実用新案出願の両方が登録された場合にもたらされる権利維持・権利行使に関する問題の軽減とともに、審査リソースの節約、出願人の負担軽減、更に審査結果に対する社会の予見性の向上とされている。

(5 )進歩性の審査基準・審査事例の追加
 進歩性審査基準の中に、「技術的課題の解決に寄与しない特徴は、たとえ請求項に書き入れたとしても、通常、発明の進歩性に影響を与えることはない。」との一文が追加され、以下の具体例が追加された。「改正案の解説」では、この点について、「技術的課題の解決に寄与しない特徴」は、発明に進歩性をもたらしたり、進歩性の程度を上げたりするものではないと説明している。

【例】

 あるカメラに関する発明において、発明が解決しようとする技術的課題は、「より柔軟なシャッター制御の実現」であり、この技術的課題は、カメラ内部の関連する機械構造および電気回路構造の改良によって実現されるものである。審査官が請求項に記載の発明は進歩性を有しないと指摘した後、出願人は、請求項に、カメラ外装の形状、ディスプレイの大きさ、バッテリー収納部の位置などの特徴を追加した。
 しかし、明細書には、請求項に追加されたこれらの特徴と、上述の技術的課題の解決との間に何らかの関連があることは記載されていない。追加されたこれらの特徴は、請求項の主題(訳注:カメラ) に暗示的に含まれる通常の構成要素であるか、又は当業者が通常の技術的知識や通常の実験手段により容易に得られるものであり、出願人は、これらの技術的特徴が請求項に記載の発明にいかなる更なる技術的効果をもたらすかについての証拠も提出しなかった。
 よって、これらの技術的特徴は、当該技術的課題の解決に寄与しておらず、請求項に記載の発明に進歩性をもたらすものではない。

 上記の改正は、現在の進歩性の審査基準を踏襲するものではあるが、今後の進歩性の審査に少なからぬ影響を与える可能性がある。


 中国の進歩性審査において、ある技術的特徴に基づく進歩性が認められるためには、通常、当該特徴により優れた技術的効果がもたらされることが求められる。更に、化学分野では、当該効果が実験データ等により証明されていることが求められる。即ち、従来の進歩性審査においても、審査官は、発明の技術的課題の解決に寄与する特徴を重視する審査を行ってきた。上記の審査基準の改正は、このような従来の審査方針に明文の根拠を与えるものである。改正後、審査官は、より大きな裁量権をもって、発明による技術的課題の解決に寄与する技術的特徴と、寄与しない技術的特徴とを区別し、前者のみを対象に進歩性の審査を進めることが可能になる。


 改正後の審査基準に基づき、請求項に記載された特定の技術的特徴が、発明による課題の解決に寄与しないと判断された場合、出願人は、まず、審査官が認定した技術的課題の妥当性を検討し、認定が誤っていると考えた場合には、これに反論する必要がある。次に、当該技術的特徴が発明による課題の解決に寄与しないとの認定に対し、明細書の記載や補充の実験データ等を用いて反論することができる。そのため、
改正後の実務では、明細書に、それぞれの技術的特徴とそれによる効果の関係を説明しておくことが、一層重要になる。


 更に、上記の規定は、発明の解決課題と関係のない特徴を追加する補正が行われた出願を、審査官が拒絶する際の根拠ともなり得る。例えば、進歩性欠如の拒絶理由に応答する際、直接拒絶査定となることを避けるために、請求項に重要ではない特徴を付け加える補正を行った上で、意見書で審査官の認定に反論することは、実務上、比較的頻繁に行われている。改正後は、上記の規定を根拠に、このような出願が直接拒絶される可能性が高まることも考えられる。知的財産局は現在、審査期間の短縮に積極的に取り組んでおり、本改正の目的には、審査資源の節約と審査スピードの向上も含まれることが明らかである。


(6 )AI 等関連発明の審査基準・審査事例の追加
 今回の改正案で最も注目されるポイントの一つは、AI 等関連発明の審査基準が拡充されたことである。


 従来、審査指南第二部分第九章第6節に設けられていた「アルゴリズム特徴又はビジネスの規則及び方法特徴を含む特許出願の審査関連規定」と言うセクションの名称が、「人工知能等に関する特許出願の審査関連規定」へと変更され、更に、公序良俗要件、進歩性、実施可能要件に関する審査基準や審査事例が拡充された。今回追加された内容の一部は、2024 年 12 月に知的財産局が公表した「AI 関連発明の特許出願ガイドライン(意見募集稿)」に記載されていた内容を踏襲している。


 改正案の具体的な内容は、以下①~④の通りである。


審査原則の明確化
 従来、AI 等関連発明の審査の対象は請求項に記載された発明であると規定されていたが、更に、「必要時には明細書の内容に対して審査すべき」との規定が
追加された。この変更は、これまでの審査の原則を明確化するものに過ぎない。


公序良俗違反要件の審査基準・審査例の追加
 新たに、専利法第 5 条第 1 項に規定の公序良俗要件に関する審査基準が設けられ、「アルゴリズム特徴又はビジネスルール・方法特徴を含む特許出願が、法律、社会道徳に反する、又は公共の利益を害する内容を有する場合、例えば、データ収集、ラベル管理、ルール設定、推薦・意思決定等に法律違反、公平正義違反、差別偏見等が存在する場合、専利法第 5条第 1 項に基づき、特許権は付与されない」ことが規定された。


 更に、専利法第 5 条第 1 項違反の例として、以下の2つの審査事例が追加された。AI 等関連発明に限らず、中国の特許審査では、「個人情報保護法」等の現行の中国の他の法規に反する発明は、公序良俗要件違反と判断される点に注意が必要である。

【例1】 ビッグデータに基づく商業施設内のマットレス販売支援システム
出願の概要:
 出願に係る発明は、ビッグデータに基づく商業施設内でのマットレス販売支援システムであり、カメラモジュールおよび顔認識モジュールを通じて、顧客に知らされていない状況でその顔の特徴情報を取得し、顧客の身元情報を特定する。そして、収集した情報をデータ分析により処理し、事業者による精度の高いマーケティングを支援するものである。

請求項:

ビッグデータに基づく商業施設内でのマットレス販売支援システムであって、マットレス展示装置および管理センターを含み、
 前記マットレス展示装置は、制御モジュールおよび情報収集モジュールを備え、マットレス製品の展示および販売支援を行い、顧客データを収集するために用いられ、
 前記制御モジュールは、前記管理センターとの間でデータのやり取りを行うために用いられ、
 前記情報収集モジュールは、カメラモジュールおよび顔認識モジュールを備え、顧客に知らされていない状況でその顔の特徴情報を取得し、キーポイント検出アルゴリズムにより顔の姿勢を補正して正規化された顔画像を得、正規化された顔画像に対して、顔検出アルゴリズムにより認識対象となる顔領域を特定し、さらに主成分分析(PCA)手法を用いて顔領域から顔特徴量を抽出することで、顧客の身元情報を取得し、前記管理センターは、管理サーバおよび分析支援システムを備え、
 前記管理サーバは複数のマットレス展示装置を管理し、
 前記分析支援システムは、前記顧客の身元情報に基づき、マットレス展示装置により収集されたデータを利用して顧客の好みを分析し、その分析結果を管理センターにフィードバックすることを特徴とする、
 販売支援システム。

分析及び結論:
「個人情報保護法」の関連条項においては、公共の場所に画像収集装置や個人身分識別装置を設置する場合、公共の安全を維持するために必須な場合に限られ、更に、国家の関連規定を遵守しなければならず、かつ明確な注意表示を設けなければならないと規定されている。収集された個人の画像や身分識別情報は、個人の明示的な同意を得た場合を除き、公共の安全を維持する目的にのみ使用することができ、その他の目的には使用してはならない。本発明は、画像収集および顔認識の手段を、商業施設などの営業場所において、マットレスの精度の高いマーケティングに利用するものであり、これは明らかに「公共の安全を維持するために必須」な場合には該当しない。さらに、顧客の顔情報を収集し、身元情報を取得する行為は、顧客に知らされていない状況で行わ
れており、顧客本人の同意も得ていない。したがって、本発明は法律に反するものであり、専利法第 5 条第 1 項の規定に基づき、特許権を付与することはできない。

【例2】 無人運転車両の緊急時意思決定モデルの構築方法
出願の概要:
 出願に係る発明は、無人運転車両の緊急時意思決定モデルの構築方法であり、歩行者の性別および年齢を障害物データとして用い、訓練された意思決定モデルを通じて、障害物の回避が不可能な状況において、保護対象と衝突対象とを判定するものである。


請求項:
 無人運転車両の緊急時意思決定モデルの構築方法であって、無人運転車両の履歴環境データおよび履歴障害物データを取得するステップであって、前記履歴環境データは、車両の走行速度、同一車線上の障害物との距離、隣接車線上の障害物との距離、同一車線上の障害物の移動速度および移動方向、隣接車線上の障害物の移動速度および移動方向を含み、前記履歴障害物データは、歩行者の性別および年齢を含む、ステップと、前記履歴環境データおよび履歴障害物データに対して特徴抽出を行い、これを意思決定モデルの入力データとし、障害物を回避不能な状況における車両の履歴走行軌跡を意思決定モデルの出力データとして、履歴データに基づいて意思決定モデルを訓練するステップであって、前記意思決定モデルはディープラーニングモデルである、ステップと、リアルタイムの環境データおよび障害物データを取得し、無人運転車両が回避不可能な障害物に直面した場合に、訓練済みの意思決定モデルを用いて、当該無人運転車両の走行軌跡を決定するステップと、を備える方法。

分析及び結論:
 本発明は、無人運転車両の緊急時意思決定モデルの構築方法に関するものである。人の生命は、年齢や性別にかかわらず、同等の価値と尊厳を有している。無人運転車両の緊急時意思決定モデルが、回避不能な事故の場面において、歩行者の性別や年齢に基づいて「保護される対象」と「衝突する対象」を選択するとしたら、すべての人の生命は平等であるという公衆の倫理・道徳的観念に明らかに反している。さらに、このような意思決定方式は、社会に存在する性別や年齢に関する偏見を強化するだけでなく、公共の移動手段に対する安全性への公衆の不安を引き起こし、科学技術および社会秩序に対する信頼を損なうおそれがある。したがって、本発明は社会道徳に反する内容を含んでおり、専利法第 5 条第 1 項の規定に基づき、特許権を付与することはできない。

進歩性の審査例の追加
 AI 等関連発明の進歩性の審査例として、以下の二例が追加された。審査基準そのものには、特に変更はなく、事例のみの追加である。

 

 中国のコンピュータソフトウェア関連発明の審査では、請求項に記載された特徴が技術的特徴と非技術的特徴に分けられ、非技術的特徴については、「技術的特徴と機能的に相互に支持し合い、相互作用関係がある」場合のみ、技術的特徴と一体のものとして、進歩性判断時に考慮される。AI等関連発明について言えば、主に、①AI アルゴリズム・モデルが具体的な技術分野に応用され、具体的な技術的課題を解決可能な場合、②AI アルゴリズム・モデルとコンピュータシステムの内部構造に特定の技術的関連性が存在し、コンピュータシステムの内部性能の改善を実現した場合、③AI アルゴリズム・モデルと技術的特徴が共同してユーザ体験の向上を実現した場合に、アルゴリズムの特徴が、技術的特徴と合わせて考慮される。今回の改正案で追加された2例は、いずれも上記①の、AI アルゴリズム・モデルを特定の技術的分野に応用するものである。


 このうち、例 18 の「画像から船舶の数を識別する方法」では、引用文献に開示された樹上の果実の数を識別する方法と比べ、画像情報のマーキング、データセットの区分け、モデルの訓練等のステップが特に変更されていないため、船舶分野に特有の具体的な技術的課題を解決しているとは言えず、進歩性を有しないと判断された。


 例19の「鉄スクラップの等級を分類するためのニューラルネットワークモデルの構築方法」は、実際の裁判例に基づく例である。例 19 の方法では、引用文献に記載の発明とは異なる課題を解決するために、モデル訓練過程において畳み込み層およびプーリング層の経路数や階層設定を調整している。そのため、AI アルゴリズムやモデルを調整して、特定の応用分野の技術的課題を解決し、有利な効果を得るものであり、進歩性を有すると判断されている。

【例 18 船舶の数を識別する方法
出願の概要:
 出願に係る発明は、船舶の数を識別する方法を提案するものであり、船舶の画像データを取得し、深層学習によって検出データモデルを訓練することで、現在の海域における船舶数を正確に識別するという技術的課題を解決するものである。

請求項:
船舶の数量を識別する方法であって、
 船舶の画像データセットを取得し、データセット中の画像情報を前処理して、画像中における船舶の位置と境界情報をマーキングし、当該データセットを訓練データセットとテストデータセットに区分けするステップと、
 上記訓練データセットを用いて深層学習を行い、訓練モデルを構築するステップと、
上記テストデータを訓練モデルに入力して訓練を行い、船舶のテスト結果データを得るステップと、上記船舶のテスト結果データに所定の誤差パラメータを乗算することにより、実際の船舶数を特定するステップと、を備える方法。

分析と結論:
引用文献 1 では、樹上の果実の数を識別する方法が開示されており、画像情報の取得、果実の位置と境界のマーキング、データセットの区分け、モデルの訓練、実際の果実数の特定といったステップが具体的に開示されている。
 本願発明と引用文献 1 記載の発明との違いは識別対象のみである。船舶と果実は、外観、体積及び存在する環境等が異なるが、当業者にとっては、実際の数量を識別するために必要な情報のマーキング、データセットの区分け、モデル訓練等のステップは、いずれも画像上の識別対象の位置関係に基づいており、請求項中にも、識別対象の違いにより深層学習やモデル訓練における訓練手法やモデル構造等に変更を加えたことは示されておらず、画像上の船舶データに対するマーキングと、画像上の果実データに対するマーキングを行って訓練用データセットを取得し、モデル訓練を行うという一連の手法については、ディープラーニングの手法、モデルの構築、訓練過程等において調整や改良がなされていない。したがって、請求項に記載の発明は、進歩性を有しない。

【例 19 鉄スクラップの等級を分類するためのニューラルネットワークモデルの構築方法
発明の概要:
 鉄スクラップは、回収・保管の際に鋼材の平均寸法に基づいて等級分類を行う必要があるが、実際には雑然と積み重ねられて保管されるため、人手による寸法測定および等級判定は効率が低く、分類の正確性にも限界がある。
 出願に係る発明は、鉄スクラップの等級分類用ニューラルネットワークモデルの構築方法を提案するものであり、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)による学習を通じて、等級分類の出力を有する分類モデルを構築することで、鉄スクラップの等級分類における作業効率と分類精度の向上を図るものである。

請求項:

 鉄スクラップの等級を分類するためのニューラルネットワークモデルの構築方法であって、前記モデルは貯蔵された鉄スクラップの等級分類に用いられ、
 複数の画像を取得し、複数の画像の異なる鉄スクラップ等級を特定し、前記画像に対して前処理を行い、異なる等級の画像データの特徴を抽出し、抽出された異なる等級の画像データの特徴を畳み込みニューラルネットワーク(CNN)により学習させ、等級分類出力を有する等級分類ニューラルネットワークモデルを形成するステップと、
 当該画像データ特徴の抽出は、画像画面の画素点マトリックスデータに対して畳み込みニューラルネットワークの畳み込み計算を行う集合を抽出するものであり、集合から出力される複数の経路の畳み込み層または畳み込み層とプーリング層の計算から構成される、画像中の物体の色、エッジ特徴、およびテクスチャ特徴の抽出と、画像中の物体のエッジとテクスチャとの間の関連特徴の抽出とを含み、
 そのうち、当該画像中の物体の色、エッジ特徴の抽出は、3 つの経路の畳み込み層とプーリング層により計算して出力する集合出力から構成され、左から右へ、第一の経路の一層のプーリング層、第二の経路の二層の畳み込み層、および第三の経路の四層の畳み込み層を含み、当該画像中のテクスチャ特徴の抽出は、上述した物体の色、エッジ特徴の抽出集合の出力から抽出するものであり、3 つの経路の畳み込み層により計算して出力する集合から構成され、左から右へ、第一の経路の 0 層の畳み込み層、第二の経路の二層の畳み込み層、および第三の経路の三層の畳み込み層を含み、
 前記エッジおよびテクスチャ間の関連特徴の抽出の畳み込み層の演算経路の数は、画像中の物体の色、エッジ、テクスチャ特徴の抽出の経路の数より多いことを特徴とする、
 ニューラルネットワークモデルの構築方法。


分析及び結論:
 引用文献 1 は、再生資源の由来が複雑で種類が多く、材質の差異も大きく、鉄スクラップが「料豆」「プレス材の残材」「ブロック状スクラップ」等又はその他の種類であるかを正確に識別することで、再生資源の回収利用率を向上させる必要があるという課題を解決するために、畳み込みニューラルネットワーク(CNN)モデルに基づいて鉄スクラップの種類を識別する方法を開示している。具体的には、既に種類が特定されている複数の鉄スクラップの画像データを取得し、当該画像データに前処理を施して特徴を抽出し、CNN による訓練を通じて分類モデルを構築するステップが示されている。
 本発明と引用文献1との相違点は、訓練に用いるデータおよび抽出される特徴が異なる点、並びに畳み込み層およびプーリング層の経路数および階層設定が異なる点である。
 引用文献1に対して、本発明が実際に解決しようとする技術的課題は、鉄スクラップの等級分類の精度を向上させることにある。引用文献1 では、既に種類の確定した鉄スクラップの画像データを用いて特徴抽出およびモデル訓練を行っているのに対し、本発明は鉄スクラップの平均寸法に基づく等級分類を行うために、保管状態が雑然としており、かつ相互に積み重なっている鉄スクラップ画像に対し、鉄スクラップの形状や厚みを識別する必要があり、画像中の鉄スクラップの色、エッジ、テクスチャ等の特徴を抽出するために、モデル訓練過程において畳み込み層およびプーリング層の経路数や階層設定を調整しており、これらのアルゴリズム的特徴と技術的特徴とは機能的に相互に支持し合い、相互作用関係を有することで、鉄スクラップ等級分類の精度を向上させることができるため、このようなアルゴリズム的特徴の発明に対する貢献を考慮すべきである。

 上記のような畳み込み層およびプーリング層の経路数や階層設定の調整等内容は、他の引用文献に開示されておらず、当該技術分野における公知常識でもない。従来技術には、全体として、上記引用文献1を改良して本発明に至るための示唆がないため、請求項に記載された発明は、進歩性を備える。

実施可能要件に関する審査基準・審査事例の追加
 AI 等関連発明の明細書の記載要件について、発明が AI モデルの構築または学習に関わる場合には、一般に、明細書において、モデルに必要なモジュール、階層構成または接続関係、訓練に必要な具体的ステップやパラメータ等を明記載する必要があることが規定された。更に、具体的な技術分野や場面に AI モデルやアルゴリズムを応用する発明に関しては、一般に、明細書において、モデルまたはアルゴリズムがどのようにその技術分野や応用場面と結びついているか、アルゴリズム又はモデルの入出力データがどのように設定されているかを明確に記載することで、その内在的な関連性を示し、当業者が明細書の記載内容に基づいて当該発明を実施可能とする必要があることが規定された。


 これらは、AI 等関連発明の明細書のブラックボックス問題を解決するための規定である。


 また、これに関連し、以下の2つの審査事例が追加された。

【例 20 顔特徴の生成方法
発明の概要:
 本発明は、空間変換ネットワークを備えた第 1 の畳み込みニューラルネットワークによって生成された特徴領域画像集合を、各第 2 の畳み込みニューラルネットワークに情報共有することにより、メモリリソースの使用を削減するとともに、顔画像生成結果の精度を向上させるものである。

請求項:
 顔特徴を生成する方法であって、
 識別される顔画像を取得するステップと、
 前記識別される顔画像を第一の畳み込みニューラルネットワークに入力し、前記識別される顔画像の特徴領域画像集合を生成するステップであって、前記第一の畳み込みニューラルネットワークは顔画像から特徴領域画像を抽出するために用いられる、ステップと、
 前記特徴領域画像集合中の各特徴領域画像を対応する第二の畳み込みニューラルネットワークに入力し、当該特徴領域画像の領域顔特徴を生成するステップであって、前記第二の畳み込みニューラルネットワークは、対応する特徴領域画像の領域顔特徴を取得するために用いられる、ステップと、
 前記特徴領域画像集合中の各特徴領域画像の領域顔特徴に基づいて、前記識別される顔画像の顔特徴集合を生成するステップと、
を含み、
 前記第一の畳み込みニューラルネットワークには、更に、顔画像の特徴領域を特定するために用いられる、
空間変換ネットワークを備え、
 前記識別される顔画像を前記第一の畳み込みニューラルネットワークに入力し、前記識別される顔画像の特徴領域画像集合を生成する前記ステップは、
 前記識別される顔画像を前記空間変換ネットワークに入力し、前記識別される顔画像の特徴領域を特定するステップと、
 前記識別される顔画像を前記第一の畳み込みニューラルネットワークに入力し、特定された特徴領域に基づいて、前記識別される顔画像の特徴領域画像集合を生成するステップと、を含む方法。

 

明細書の関連段落:
 本出願の実施例は、顔特徴の生成方法であって、まず取得した識別される顔画像を第一の畳み込みニューラルネットワークに入力することで、当該識別される顔画像の特徴領域画像集合を生成することができる。第一の畳み込みニューラルネットワークは、顔画像から特徴領域画像を抽出するために用いることができる。次に、特徴領域画像集合中の各特徴領域画像を、対応する第二の畳み込みニューラルネットワークに入力し、当該特徴領域画像の領域顔特徴を生成する。第二の畳み込みニューラルネットワークは、対応する特徴領域画像の領域顔特徴を抽出するために用いることができる。その後、特徴領域画像集合中の各特徴領域画像の領域顔特徴に基づき、当該識別される顔画像の顔特徴集合を生成することができる。すなわち、第一の畳み込みニューラルネットワークが生成する特徴領域画像集合の、それぞれの第二の畳み込みニューラルネットワークに対する情報共有を実現することができる。そのため、データ量が削減され、メモリリソースの消費を抑制するとともに、生成効率の向上に寄与する。
 生成結果の精度を向上させるため、第一の畳み込みニューラルネットワークに、顔画像の特徴領域を特定するための空間変換ネットワークを設置することもできる。このとき、電子機器は、識別される顔画像を空間変換ネットワークに入力し、当該識別される顔画像の特徴領域を特定することができる。これにより、第一の畳み込みニューラルネットワークは、入力された識別される顔画像に対し、空間変換ネットワークが特定した特徴領域に基づき、特徴層上で特徴領域に合致する画像を抽出し、識別される顔画像の特徴領域画像集合を生成することができる。第一の畳み込みニューラルネットワークにおける空間変換ネットワークの具体的な設置位置は、本出願では限定されない。空間変換ネットワークは、継続的な学習により、様々な顔画像の異なる特徴の特徴領域を特定することができる。

分析及び結論:
 出願に係る発明は、顔特徴を生成する方法であり、顔画像生成結果の正確性向上のために、第一の畳み込みニューラルネットワーク中に空間変換ネットワークを設けて顔画像の特徴領域を特定させる。しかしながら、明細書には、当該空間変換ネットワークの、第一の畳み込みニューラルネットワークにおける具体的な設置位置が記載されていない。
 しかしながら、当業者は、空間変換ネットワークを全体として、第一の畳み込みニューラルネットワークの任意の位置に挿入して、畳み込みニューラルネットワークの入れ子構造を形成できること、例えば、空間変換ネットワークを第一の畳み込みニューラルネットワークの第1層としても中間層としてもよく、上記の位置は画像特徴領域の識別能力に影響を及ぼさないことを理解している。訓練により、空間変換ネットワークは、異なる顔画像の異なる特徴の所在する特徴領域を特定することができる。そのため、空間変換ネットワークは、第一の畳み込みニューラルネットワークが特徴領域を切り出すのを指導するだけでなく、入力データに対して簡単な空間変換を行い、第一の畳み込みニューラルネットワークの処理性能を向上させることができる。以上より、本出願におけるモデルの階層構成は明確であり、各階層間の入出力、並びにその間の関係も明確である。ここで、畳み込みニューラルネットワークおよび空間変換ネットワークはいずれも周知のアルゴリズムであるため、当業者は上記記載に基づき対応するモデルの構築を行うことができる。したがって、請求項に記載の発明は明細書に十分に開示されており、専利法第 26条第 3 項の要件を満たす。

【例 21 生物情報に基づく癌予測方法
発明の概要:
 本発明は、生物情報に基づく癌予測方法を提供するものであり、訓練済みの悪性腫瘍強化スクリーニングモデルに対し、血液一般検査値、血液生化学検査指標および顔画像の特徴をスクリーニングモデルの入力として与え、悪性腫瘍罹患予測値を算出することにより、悪性腫瘍の予測精度を向上させるという技術課題を解決する。

請求項:
 生物情報に基づく癌予測方法であって、
 被検者の血液一般検査結果および血液生化学検査結果を取得し、当該血液一般検査結果および血液生化学検査結果に含まれる検査指標、年齢および性別を識別するステップと、
 被検者の素顔の正面顔画像を取得し、当該顔画像の特徴を抽出するステップと、
 悪性腫瘍強化スクリーニングモデルに基づいて、対応する被験者の悪性腫瘍罹患予測値を予測するステップと、を含む方法であり、
 悪性腫瘍強化スクリーニングモデルの訓練過程は、

大規模な人サンプル集合を構築するステップであって、前記サンプルは、同一個人についての血液一般検査結果、血液生化学検査結果、および顔画像を含むステップと、
 血液一般検査結果、血液生化学検査結果、および顔画像特徴を利用して学習サンプルを作成するステップと、
 学習サンプルを利用して機械学習アルゴリズム・モデルを訓練し、悪性腫瘍強化スクリーニングモデルを取得するステップと、
 を含む方法。


明細書における対応の記載:
 従来、腫瘍マーカーによる悪性腫瘍の識別では、腫瘍マーカーの値が閾値を超えていても必ずしも悪性腫瘍と判定できず、閾値以下であっても悪性腫瘍を否定できないため、腫瘍マーカーに基づく癌予測の精度は高くなかった。本出願では、血液一般検査および血液生化学検査の複数指標、および顔画像を用いて、多種の悪性腫瘍識別の精度を向上させる。本出願は、血液検査データを利用すると同時に、顔画像が反映する被検者の健康状態情報を参考にすることにより、より高精度に悪性腫瘍罹患確率を予測することができる。ここで悪性腫瘍強化スクリーニングモデルが計算する特徴の選択は、血液一般検査データおよび血液生化学検査の全指標または一部指標を利用することができる。

分析及び結論:
 本発明が解決しようとする技術的課題は、いかにして悪性腫瘍の予測精度を向上させるかである。このため、本発明は、訓練済みの悪性腫瘍強化スクリーニングモデルを利用し、血液一般検査、血液生化学検査の指標および顔画像特徴を併せてスクリーニングモデルに入力し、悪性腫瘍罹患予測値を得ることを図っている。しかしながら、血液一般検査および血液生化学検査は各々数十種類もの検査指標を含むにもかかわらず、明細書にはいずれの指標が腫瘍予測精度に影響を与える重要な指標であるか、あるいは全指標を参考にして各指標に異なる重み付けを行うかについて具体的な記載がなく、当業者はどの指標を悪性腫瘍の判定に利用すべきかを確定できない。さらに、現時点の科学的知見によれば、顔の皮膚がん等のごく一部の数種類の腫瘍を除き、顔特徴と悪性腫瘍罹患とに関連性があるか否かは明確ではなく、明細書にも「判断の根拠となる要因」と「判断結果」との因果関係を示す記載または証明がない。加えて、明細書には、本発明を採用した場合の多種類の悪性腫瘍に対する識別精度が、腫瘍マーカーによる識別精度を上回ること、あるいは悪性腫瘍罹患確率をランダムに判断する場合の精度を明らかに上回ることを証明する何らかの実験データも提供されていない。したがって、当業者は明細書の開示内容のみから本発明がその解決すべき技術的課題を解決できることを確定できない。よって、本出願の請求項に記載の発明は明細書に十分に開示されておらず、専利法第 26 条第 3 項の要件を満たさない。

(7)ビットストリームを含む発明の審査基準・審査事例の追加
 改正案では、上記(6)で紹介した第二部分第九章第6節の「人工知能等に関する特許出願の審査関連規定」に続く第7節として、「ビットストリームを含む発明の審査基準」が設けられた。

保護適格性に関する審査基準の追加
 まず、保護適格性について、単純なビットストリームの請求項や、請求項の主題以外の実質的な全ての内容が単純なビットストリームに過ぎない請求項は、専利法第 25 条第 1 項第 2 号の「知的活動のルール及び法則」に該当し、特許保護の対象にならないことが規定された。


 これに対し、デジタル映像のエンコード/デコード分野において、ある特定のビットストリームを生成する動画エンコード/デコード方法が、専利法第 2 条第 2 項に規定された「発明」に該当する場合、当該エンコード/デコード方法によって特定される、当該ビットストリームを記録・伝送する方法や、それを記録するコンピュータ可読記録媒体は、記録・伝送リソースの最適な配置などを実現し得るものであるため、専利法第 2 条第 2項に規定の「発明」に該当し、特許保護の対象となることが明記された。

実施可能要件に関する審査基準の追加
 特定の動画エンコード/デコード方法によって生成されたビットストリームを含む発明特許出願の明細書は、当該特定の動画エンコード/デコード方法について、当該技術分野の技術者が実施できる程度に明確かつ完全に説明しなければならないことが規定された。また、当該ビットストリームの保存または伝送方法、ならびに当該ビットストリームを保存するコンピュータ可読記録媒体を保護対象とする場合には、明細書においてそれに対応する説明を行い、請求項を裏付ける必要があることも規定された。

請求項の記載方法に関する審査基準の追加
 特定の動画エンコード/デコード方法によって生成されたビットストリームを含む発明特許出願は、方法、装置、およびコンピュータ可読記録媒体の請求項として作成することができること、また、一件の出願の中では、一般に、それらの請求項を基礎とし、当該特定の動画エンコード/デコード方法の請求項を引用する、またはその全ての特徴を包含する形式で、これに対応する保存方法、伝送方法、および/またはコンピュータ可読記録媒体に関する請求項を作成するべきことが規定された。

 

 改正案の説明によれば、上記の改正は、コンテンツの生成、保存、伝送など、複数の段階や主体が存在するストリーミングメディア業界において、各段階に関連する発明を適切に保護することを目的としている。


 更に、改正案では、「動画エンコード方法」の発明を例に、許容される請求項の具体例が示された。

【例1】
【請求項1】
 動画符号化方法であって、
 現在の符号化対象のフレーム画像を取得し、前記現在のフレーム画像を複数の画像ブロックに分割するステップと、
 符号化済みのフレームから少なくとも 1 つの参照フレームを選択するステップと、
 各画像ブロックについて、前記参照フレーム中から最適なマッチングブロックを探索し、前記画像ブロックと前記最適マッチングブロックとの間の動きベクトルを算出するステップと、
 前記動きベクトルに基づいて、前記参照フレームから予測ブロックを取得するステップと、
 前記画像ブロックと前記予測ブロックとの間の残差を算出するステップと、
 前記残差に対して変換および量子化処理を行い、量子化係数を生成するステップと、
 前記量子化係数および前記動きベクトルに対してエントロピー符号化を行い、ビットストリームを生成するステップと、
 を含むことを特徴とする方法。


【請求項 2
 動画符号化装置であって、
 現在の符号化対象のフレーム画像を取得し、前記フレーム画像を複数の画像ブロックに分割するフレーム画像分割ユニットと、
 符号化済みのフレームから少なくとも 1 つの参照フレームを選択する参照フレーム選択ユニットと、
 各画像ブロックについて、前記参照フレーム中から最適なマッチングブロックを探索し、前記画像ブロックと前記最適マッチングブロックとの間の動きベクトルを算出する動きベクトル算出ユニットと、
 前記動きベクトルに基づいて、前記参照フレームから予測ブロックを取得する予測ブロック取得ユニットと、
 前記画像ブロックと前記予測ブロックとの間の残差を算出する残差算出ユニットと、
 前記残差に対して変換および量子化処理を行い、量子化係数を生成する変換・量子化ユニットと、
 前記量子化係数および前記動きベクトルに対してエントロピー符号化を行い、ビットストリームを生成するエントロピー符号化ユニットと、
 を備えることを特徴とする装置。


【請求項3】
 ビットストリームを記憶する方法であって、前記ビットストリームを記憶媒体に記憶することを含み、
 前記ビットストリームが、請求項 1 に記載の方法によって生成されたことを特徴とする方法。

【請求項4】
 ビットストリームを送信する方法であって、前記ビットストリームを送信することを含み、
 前記ビットストリームが、請求項 1 に記載の方法によって生成されたことを特徴とする方法。

【請求項5】
 ビットストリームが記憶されている、コンピュータ可読記録媒体であって、
 前記ビットストリームが、請求項 1 に記載の方法によって生成されたことを特徴とするコンピュータ可読記録媒体。

PCT 出願関連】
(8)国内移行時の優先権譲渡証への署名者の明確化
 PCT国際出願時に行われた優先権主張について、現在の審査基準では、当該 PCT 出願の出願人が、優先権基礎出願の出願人に含まれず、PCT 出願の出願人が優先権基礎出願の出願人の譲渡・贈与等により優先権を得た場合、PCT 出願人は、中国国家知的財産局に対し、「譲渡人」が署名・捺印した証明書類を提出すべきであると規定している。改正案では、この署名・捺印者を、「譲渡人」から「優先権基礎出願の出願人全員」に修正した。この改正は、審査基準の他部分と記載を統一するものに過ぎず、実務の変更を伴うものではない。

【復審・無効審判関連】
(9)審決における記載の簡略化・省略
 復審(拒絶査定不服審判)及び無効審判の審決について、現行の審査基準では、(1)書誌事項、(2)根拠条文、(3)審決の要点、(4)案件の経緯、(5)審決の理由、(6)結論、(7)添付図面の各部分を含むこと、更に、拒絶査定不服審判での取消審決では、(4)の案件の経緯部分を簡略化又は省略してよいことが規定されている。改正案では、「通常は、(1)~(7)の各部分を含むが、状況により簡略化又は省略してよい」と、より合議体の裁量にまかせた審決の記載の簡略化・省略ができることが規定された。

10)他人名義での無効審判請求の禁止
 無効審判請求の不受理事由として、「無効審判請求が審判請求人の真実の意思表示でない」場合が追加された。改正案の説明によれば、これは、実際に他人名義で無効審判請求がなされた事案を受けて追加された項目であり、このような行為は、信義誠実の原則に反し特許無効制度の公信力や市場の競争秩序を損なうものとされている。しかしながら、本要件が当事者の申し立てにより審理されるか、合議体の職権により審理されるか、どの程度まで審理されるか、改正後もいわゆるダミーによる審判請求は可能か等については、不明な点が多い。

11)無効理由の「一事不再理」範囲の明確化
 既に無効審判の審決が出された無効理由と「同じ理由」だけでなく、「実質的に同じ理由」に基づく無効審判請求についても、一事不再理により不受理処分とすることが規定された。「実質的に同じ理由」に基づく無効審判請求の例として、改正案の説明には、無効理由及び証拠を形式的に調整、並び替えるだけで、法的事実は実質的に同じ状況が挙げられている。これも、審査リソースの節約と効率化を目的とする改正である。

12)無効審判中の訂正に関する運用の明確化
 無効審判中の訂正に際しては、全文差し替えページ及び訂正対照表の提出が必要であることが明記された。


 更に、同一無効審判中に複数回の訂正書を提出し、そのいずれもが訂正の要件を満たす場合、最後に提出された訂正書を審理対象とし、それ以前の訂正書は放棄したものとみなすことが規定された。

 

【手続き関連】
13)配列表のページ加算の廃止
 所定の形式の電子データで提出された配列表については、明細書のページ数として計算せず、出願料金のページ加算の対象とならないことが規定された。ただし、紙媒体で提出された配列表については、従来通りに追加費用の計算がされる点に注意すべきである。

 

 上記の変更と合わせて、PCT 出願の国内段階のオフィシャルフィーの一覧から、「核酸配列および/またはアミノ酸配列表が明細書の独立した一部として 400ページを超える場合、その配列表は 400 ページとして計算する」との項目が削除された。

14)オフィシャルフィー返還請求のルール変更
 現在の審査基準において、専利局側から費用返還を行うと規定されている以下①~③の状況について、返還には当事者の請求が必要とのルールに変更された。理由は、費用返還の正確性及び迅速性を担保し、当事者の利益を守るためとされている。したがって、①~③の状況において、改正後は、当事者が請求を行わなければオフィシャルフィーが返還されない点に注意が必要である。

①実体審査段階移行通知発行前に出願がみなし取り下げとなった場合、又は出願人による取下書が認められた場合、当事者は審査請求料の返還を請求できる。


②当事者は、特許権利期間の満了後、又は権利全部無効の審決の公告後に収めた年金について、返還を請求できる。


③権利回復請求が却下された場合、当事者は、既に納付した権利回復請求料及び関連費用の返還を請求できる。

15)加速審査の明文化
 出願人の請求により、出願に対して優先審査、加速審査、又は遅延審査を行ってよいことが明記された。

 

 また、知的財産権保護センター、迅速権利維持センターでの予備審査合格後に行われた特許出願については、加速審査に関する規定を満たす場合、加速審査を行ってよいことも規定された。


 この優先審査、加速審査については、中国国内の出願人を中心に利用が拡大しており、本改正は、これを明確に規定したものである。

16)国際出願の登録証への記載内容の明確化
 国際出願及びその分割出願の登録証に記載される、「出願時の発明者・設計者・出願人」は、「国際出願の中国国内移行時又は分割出願提出時の発明者・設計者・出願人」であることが明記された。

17)特許期間調整の延長期間算定ルールの一部変更
 専利法実施細則第 78 条第3項第1号では、「実施細則第66条の規定に従い専利出願書類を補正した後に専利権が付与された場合の、復審手続きに起因する遅延」は、「合理的な遅延」期間であるため、特許期間延長の対象にならないと規定している。

 

 改正案では、復審中に補正しなかった場合でも、審判請求人が拒絶査定受領後に提示した新たな理由や証拠により拒絶査定が覆された場合には、復審に要した期間が、特許期間延長の対象にならないことが明記された。ただし、出願人が復審段階で、審査段階の手続きの違反を申し立て、合議体が当該手続きの違反を理由に拒絶査定を取り消した場合には、「新たな理由」とはみなされない。

4.最後に
 本改正案については、6 月 15 日までに寄せられたパブリックコメントに基づいて再度の調整が行われ、調整後の最終的な改正内容が発表される見込みです。発表の時期は未だ明らかにされていませんが、弊所では、新たな情報が入り次第、皆様に報告させて頂きます。

 

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