Newsletter Vol.25(2025年5月)

2024年中国知財保護状況統計/特許権存続期間補償の実務の状況/ 2024 年中国知的財産典型事例 【中国】【特許】

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Shangcheng Newsletter Vol.25(2025-5)

 

<中国知財ニュース>
最高人民法院と知的財産局が 2024 年の知的財産権保護状況に関するデータを公開
特許権存続期間補償に関する実務の状況
最高人民法院が 2024 年知財典型事例を公表
専利審査指南の改正案公表、パブリックコメント募集へ(速報)

 

<中国知財ニュース>
最高人民法院と知的財産局が 2024 年の知的財産権保護状況に関するデータを公開

 中国では、毎年 4 26 日の世界知的財産の日前後に、人民法院や知的財産局から、前年の知的財産権保護状況に関する統計データが公表される。

 

 本記事では、2025 4 21 日に最高人民法院が公表した「中国法院知的財産権司法保護状況(2024 年)」、2025 4 27 日に知的財産局が公表した「2024 年中国知的財産権保護状況」に基づき、2024 年の司法ルート・行政ルートでの知的財産権の保護状況に関する主なデータを紹介する。

1. 全国人民法院の訴訟関連データ
(1)知的財産関連訴訟全般に関するデータ
 全国の人民法院による知財関連訴訟の第一審受理件数は、民事が約 45 万件、行政が約 2 万件、刑事が約 9 千件であった。民事、行政訴訟の第一審受理件数は昨年並みであったが、刑事訴訟の第一審受理件数は前年比 24%も増加した(【表1】参照)。

 

【表1】 全国人民法院の知財関連訴訟新規受理件数

 

民事訴訟

行政訴訟

刑事訴訟

一審

二審

一審

二審

一審

二審

新規受理件数

449,923件

-2.65%

30,486件

-18.08%)

20,849件

+1.29%

11,666件

(+16.04%)

9,120件

+24.34%)

1,112件

(+16.32%)

審理終結件数

457,315件

-0.65%)

32,055件

-17.2%

27,745件

(+24.19%)

10,874件

(+17.44%)

9,003件

+29.22%

1,068件

+10.67%

*()内の割合は前年比。

 

(2)民事事件に関するデータ
 全国人民法院が新たに受理した民事訴訟第一審の権利種別ごとの内訳は、著作権関連が 247,149件(54.93%)、商標関連が 124,918 件(27.76%)、専利関連が 44,255 件(9.84%)、不正競争関連が10,567 件(2.35%)、技術契約関連が 8,320 件(1.85%)、その他が 14,714 件(3.27%)であった(【表2】【表3】参照)。専利関連の事件には、特許・実用新案・意匠に関する事件が含まれる。また、故意侵害、且つ状況が深刻な知的財産権侵害行為に対し懲罰的賠償が適用された事件は460 件にのぼり、前年比で 44.2%も増加したことが発表された。

 

【表2】
全国人民法院の知財民事一審新規受理件数の前年との対比
(単位:件)

 

【表3】
全国人民法院の知財民事一審事件の種類別内訳

 

【表4】
全国人民法院の知財行政一審新規受理件数の前年との対比
(単位:件)

 

【表5】
全国人民法院の知財行政一審事件の種類別内訳

 

【表6】
全国人民法院の知財行政二審事件の結果別内訳

 

【表7】
最高人民法院の知財民事事件新規受理件数

 

民事訴訟

行政訴訟

刑事訴訟

二審

再審

二審

再審

新規受理件数

1,289件

1,357件

1,366件

1,442件

9,120件

審理終結件数

3,679件

2,513件

9,003件

2. 最高人民法院の訴訟関連データ
 最高人民法院による知財関連訴訟の受理件数は、二審・再審合計で民事が 2,646 件、行政が 2,808 件、刑事が 9,120 件であった(次頁【表7】参照)。

 

 最高人民法院は、専利(特許・実用新案・意匠)、植物新品種、集積回路に関する行政訴訟の二審・再審事件、及び特許、植物新品種、集積回路に関する契約紛争及び侵害訴訟の二審・再審事件の専属管轄を有しており、更に、一定の条件を満たす他の知財訴訟を審理している。


3. 行政ルートでの知的財産権保護
(1)専利権に基づく行政ルートでの権利行使
 2024 年に全国の市場監督管理局が調査を行った専利関連の違法事件は 2,074 件、全国の知的財産局が処理した専利侵害紛争は 7.2 万件であった。これは、全国人民法院による専利関連の民事訴訟第一審受理件数 4.4 万件を超えており、特許・実案・意匠を含む専利権の侵害紛争では、司法ルートより行政ルートの方が多く活用されていることがわかる。また、医薬品特許に関するパテントリンケージ制度を利用した行政ルートでの権利行使は、受理件数が 68 件、審理終結件数が 43 件であった。


(2)商標権に基づく行政ルートでの権利行使
 2024 年に全国の市場監督管理局が調査を行った商標関連の違法事件は 4.04 万件、うち司法機関に移送された犯罪事件は 1,220 件であった。


4. まとめ
 昨年の知的財産権保護状況について、民事訴訟・行政訴訟の第一審受理件数は前年とあまり変わらない数値となったが、刑事訴訟は、第一審受理件数が前年比で24.34%増加しており、近年の知的財産関連犯罪に対する取締り強化の傾向が明らか
である。

 

 また、行政ルートでは、専利権の権利行使が、2022 年 5.8 万件、2023 年 6.8 万件、2024 年 7.2 万件と、大幅な伸びを見せている。行政ルートによる商標権の権利行使は、2022 年 3.75 万件、2023 年3.5 万件とやや減少気味だったが、2024 年は 4.04万件まで回復している。

 

 全体として、専利・商標権の侵害に対して、民事訴訟はもちろん、行政ルートでの権利行使や、刑事摘発を利用した対応等、権利行使のための 様々なオプションが充実してきたことを示す統計結果となっている。


特許権存続期間補償に関する実務の状況

 審査に一定以上の時間がかかった出願に対する特許権存続期間の補償制度は、2021 6 1 日施行の第 4 回改正により中国専利法に導入された。その後、2024 1 20 日に、専利法実施細則及び専利審査指南の改正により制度の詳細が定められ、更に2024 7 26 日に、オフィシャルフィーに関する通知が出されて、特許権存続期間補償請求に対する審査が開始された。


 本文では、同制度の実際の運用状況、及び弊所の経験に基づく利用時の注意点を紹介する。


1.請求段階の手続き
 特許権存続期間補償の請求は、特許権付与の公告日から3カ月以内に行う必要がある。この期間に、専利法実施細則・審査指南の規定に従って補償期間を計算し、補償が受けられる特許権のみについて、必要に応じて、請求書を提出することを勧める。補償期間は、出願日から4年又は実体審査請求から 3 年のいずれか遅い日から特許権登録の公告日までの間の日数から、出願書類の補正が行われた復審手続きにかかった日数等の「合理的な遅延期間」と、応答期限延長期間等の「出願人による不合理な遅延期間」とを減算して算出される。詳細な計算方法は、弊所ニュースレター Vol. 24 を参照されたい。
https://www.shangchengip.com/home/jp/detailsc.ht
ml?id=160

 申請書には、特許番号、発明の名称、特許権者を記入する欄があるが、補償を求める日数を記入する欄は設けられていない。申請書提出時に、1 件につき200 元の請求料(オフィシャルフィー)を納付する。


2.審査段階の手続き
 知的財産局内にて請求が審査され、不備がある場合には、「審査意見通知書」が発行される。請求人は、通知書の受領日から 1 か月以内に意見書を提出することが可能である。弊所がこれまで受領した審査意見通知書には、以下の二種類がある。

(1)請求料未納
 請求書の提出後、所定の期限までに請求料の納付がなされていない場合、この通知が発行される。特許権存続期間補償請求にかかるオフィシャルフィーの公表前に提出された請求については、追って公表されたオフィシャルフィーを後納する形となり、その段階でオフィシャルフィーを納付せず放棄される請求もあった。そのようなケースでは、一律に、請求料未納を指摘する審査意見通知書が出された。しかしながら、現在は、請求書提出時に請求料を納付する実務が一般的であるため、故意に請求料を納付しなかった等の特別な場合を除いて、このような審査意見通知書が発行されることはない。

(2)補償可能期間不存在
 知的財産局内での審査(計算)の結果、補償可能期間が存在しない、即ち、特許権存続期間補償の条件に当てはまらないと判断された場合に、この通知書が発行される。


 専利法実施細則・審査指南の改正前は、補償期間の具体的な計算方法が公表されていなかったため、その頃に行った一部の請求に対し、弊所も、当該通知書を受領した経験がある。その都度、補償期間の再計算を行ったが、弊所が受領した数件の通知書のうち、知的財産局の認定が誤っていたケースは 1 件もなく、そのため、意見書の 提出も行わなかった。知的財産局の審査結果が誤っていると考える場合には、通知書の受領日から1カ月以内に意見書を提出して反論することが可能である。

 

3.審査結果通知段階の手続き
 知的財産局内の審査において、特許権存続期間の補償が可能であると判断された場合、「特許権存続期間補償審査決定書」が出され、補償日数と、補償後の権利期間満了日、及び補償期間に対する年金が通知される。最近半年ほどの弊所の経験では、補償が認められるケースに対しては、平均 2 週間以内に「特許権存続期間補償審査決定書」が発行されている。

 

 逆に、審査段階において審査意見通知書が発行され、請求人の意見陳述により不備が解消されなかった場合、特許権存続期間の補償を行わない旨の「特許権存続期間補償審査決定書」が発行される。


 いずれの場合も、決定書の結論や記載内容に異議がある場合、受領から 60 日以内に行政復議を提起することが可能である。


4.年金納付段階の手続き
 特許権存続期間の補償が認められた場合、補償期間の年金納付について、下記のように規定されている。


 補償期間が 1 年以下の場合:補償期間の年金納付は不要である。


 補償期間が 1 年以上の場合:補償期間の年金納付が必要である。年金の額は1年につき 8,000 元であり、これは、従来の第 20 年の年金と同額である。納付方法としては、補償前の特許権存続期間(出願日から20 年)の満了日までに、全補償期間分の年金を一括で納付する必要がある。補償期間が 2 年以上に及ぶ場合でも、1 年ごとの年金納付はできず、一括納付が必要である。


5.まとめ
 正式運用開始以前は、補償期間の計算や費用納付をめぐり様々な議論のあった特許権存続期間補償制度だが、現在では、迅速且つ安定した審査がなされている。


 制度利用時の注意点としては、申請書に補償を求める日数を記入する必要はないものの、審査指南の規定に沿って正確に補償期間を計算し、補償可能であることを確認した上で請求を行うことを勧める。また、補償が認められた場合の年金の支払い期限にも注意が必要である。1年以上の補償期間が認められた場合、補償期間の年金は、出願日から 20 年の従来の権利期間満了日までに、一括納付する必要がある。そのため、特に、補償対象の特許権の年金納付を第三者機関に移管した場合等は、確実な申し送りと納付の手配が必要になる。


 このような弊所の実務の経験が皆様のご参考になれば幸いである。

 本制度についてご不明な点等あれば、いつでもお問合せください。

 

最高人民法院が 2024 年知財典型事例を公表

 中国最高人民法院は、2025 4 21 日に、2024年の知財典型事例を公表した。


 最高人民法院は、毎年 4 26 日の「世界知的財産の日」前後に、前年の知財十大判例を公表してきたが、昨年分については、計 8 件の典型事例が公表された。


 8 件の内訳は、民事訴訟が 7 件、民事訴訟の付随する刑事訴訟が 1 件であり、審決取消訴訟等の行政訴訟は含まれなかった。また、権利種別としては、特許権関連が 1 件、商標権関連が 1 件、著作権関連が 3件、不正競争関連が 5 件(重複含む)であり、特許権関連の 1 件(以下に紹介する事件1)は職務発明の権利帰属に関する事件であった。植物新品種や独占禁止法関連の事件は、今年は選出されなかった。更に、過去には国際的ブランド等の外国企業が当事者となる事件が比較的多く選ばれていたのに対し、今年の事例の中で外国当事者が関わる事件は、シンガポールの不動産グループを原告とする商標権侵害及び不正競争事件(以下に紹介する事件2)のみであった。


 全体の傾向として、国内企業同士の不正競争事件が多く、また、バイオ、AI、オンラインゲーム、携帯アプリなどの新しい技術分野に関する事件が多く選出されている。それらの新領域において、新たな技術や発想を利用した、伝統的な著作権侵害や不正競争の類型に収まらない行為を、権利者保護の観点から幅広く不正競争行為と認めた判決が多く集められた点が、2024 年の典型事例の大きな特徴である。


 本記事では、計 8 件の 2024 年知財典型事例のうち、日本企業にとって特に参考になると思われる4件の概要を紹介する。

 

●事件1 mRNA 骨関節炎医薬製剤に関する特許権の帰属紛争事件i

 本件は、職務発明の権利の帰属が問題となったケースである。


 原告は、海外から帰国した 3 名の起業家によって2018 1 月に深セン市に設立され、mRNA 医薬の研究開発と実用化に取り組むハイテク企業である。3 名の創立者のうちの胡氏は、2019 9 月、同じ深セン市に、別のハイテク企業である被告企業を設立した。本件では、この被告が 2021 6 月に出願し、2021 10月に登録された、「mRNA 製剤による骨関節炎医薬製剤、その製造方法および用途」に関する特許権の帰属が争われた。


 原告は、当該特許発明は胡氏が原告在職中に行った職務発明であり、被告による特許出願は、原告の正当な権利を侵害するものであると主張し、当該特許の権利が同社に帰属することの確認を求めて提訴した。一審は、原告の請求を棄却したが、同社はこれを不服として上訴した。二審では、最高人民法院副院長である陶凱元裁判官が裁判長を務める 5 名の大合議により、中国の憲法記念日に本件の公開審理が行われ、多数のメディアの注目を集めた。

 

 最高人民法院は、mRNA 技術の医薬分野における重要性や、帰国した 3 名の研究者の密接な協力により当該分野の研究開発に重要な貢献をしている事実を踏まえ、和解優先の方針を取った。


 結果として、調解(裁判所における和解)が成立し、原告・被告の2年以上にわたる紛争が終結した。


 本件は、バイオ医薬分野の重要な共通基盤技術、かつ最先端のハイテク技術である mRNA 技術に関する事件であり、人民法院のイノベーション奨励の姿勢を示す事例として注目された。また、人民法院は近年、知財紛争において積極的に和解をすすめる方針を取っており、調解により解決された事件が典型事例に選定された点には、和解重視の姿勢が鮮明に示されている。


  • 事件2 不動産分野における商標権侵害及び不正競争事件ii
     本件は、不動産分野において、登録商標と類似する商号の使用が問題となったケースである。

  •  シンガポールの仁恒ランド・グループは、1993 年から上海、南京、成都等に子会社を設立し、名称に「仁恒」を含む不動産物件の開発・販売等を手掛けてきた。

  •  また、同社は、建築や不動産販売等の役務において、「仁恒」商標の登録を受けている。

  •  一方、被告の蘭州仁恒不動産有限公司は、2002年に設立され、蘭州市内で「仁恒国際」、「仁恒晶城」等の「仁恒」を含む名称の不動産物件を、多数開発・販売している。
     原告である仁恒ランド・グループ及びその中国子会社は、被告の行為が自らの商標権を侵害し、不正競争行為を構成するとして、訴訟を提起した。一審は、被告に対し、商標権侵害行為及び不正競争行為の停止、約 1300 万人民元(約 2.7 億円)の損害賠償金の支払い、並びに謝罪広告の掲載を命じたが、被告はこれに不服として上訴した。

  •  二審の最高人民法院は、商標権侵害行為及び不正競争行為が成立するという一審判決を維持した。商標権侵害については、被告による「仁恒」標識の使用行為が蘭州地域に限られるとしても、類似商標の同一・類似役務における使用であること、原告の「仁恒」商標が既に市場において一定の知名度を有していること、原告の提出証拠から一部の消費者に混同が生じている事案が確認できること等の要素を総合的に考慮すれば、消費者に混同が生じる可能性があり、商標権侵害が成立すると判断した。

  •  また、不正競争については、原告の商号である「仁恒」が被告による蘭州仁恒設立時に既に市場において一定の影響力を有していたこと、被告の代表者が蘭州仁恒設立前に上海で原告から「仁恒」ブランドのマンションを購入した経緯があり、原告ブランドを知りながら故意に類似の商号等を使用したことが明らかであること等を考慮し、被告の行為は、不正競争防止法第 6 条第 2 項の「他人の企業名称等を無断で使用する行為」に当たると判断した。

 本件では、不動産分野において、海外著名ブランドと同じ標識を商号、商品名、ドメイン名に使用する行為が、商標権侵害及び不正競争行為に当たると判断された。判決で示された判断基準は従来の裁判例や司法解釈の内容に沿ったものであり、特に目新しいものではない。しかしながら、同様の事案が頻発し、商品価格の高さから社会的影響の大きい不動産分野において、権利者を公平に保護する判断が下された点が注目され、典型事例に選出されたと思われる。


  • 事件3 ゲーム未公開キャラクタ営業秘密侵害事件iii
     本件は、人気オンラインゲーム「崩壊:スターレイル」のバージョンアップ前のベータテストに参加したゲーマーが、機密保持契約に反して未公開キャラクタの情報を盗撮し漏洩させた行為が、不正競争防止法に規定された営業秘密の侵害にあたると判断され、仮処分命令及び侵害判決が下されたケースである。
  •  原告の上海miHoYo 社は、世界的に有名なオンラインゲーム「崩壊:スターレイル」を提供しており、当該ゲームを定期的にバージョンアップしている。被告は、原告による新バージョンリリース前の内部ベータテストに参加した際、機密保持契約に反して新キャラクタやそのスキルデータに関する画面を撮影・録画し、複数回にわたって第三者に漏洩させた。

  •  原告は、被告による侵害行為の即時停止を求める仮処分申請を行い、裁判所は、侵害行為の緊急性に鑑みて、民事訴訟法に規定された48時間の審理時間内に、迅速に侵害行為の停止を命じる仮処分の裁定ivを下した。その後、原告は侵害訴訟を提起し、裁判所は、被告に侵害行為の停止と 50 万元(約 1 千万円)の損害賠償金の支払いを命じた。原告、被告はいずれも上訴せず、一審判決が確定している。

  •  本件では、ゲームの新キャラクタ等の情報が、不正競争防止法上の営業秘密に当たるか否かが争点となった。上海市浦東新区人民法院は、それらの情報は連続した動的なゲーム画面及びスキルデータ等を構成しており、営業秘密に該当すると判断した。更に、実質的に保護すべきなのは、データそのものではなく、一定期間ごとにバージョンアップすることでユーザの注目度を維持するという原告のビジネスモデルと、それによってもたらされる競争上の優位性であるため、被告が漏洩した情報が正式リリースにより既に一般公開されているとしても、被告によるリリース前の漏洩行為は、営業秘密の侵害に当たると判断した。

  •  本件は、ゲームの新キャラクタ等の情報が営業秘密と認定される際の判断基準が示された点、更に、それらを漏洩させる行為が、著作権侵害だけでなく、不正競争防止法上の営業秘密の侵害行為にあたることが示された点で重要な事例である。著名なオンラインゲームに関わる事件であり、世間の注目度が高いこと、また、新分野における公正な競争の保護という人民法院の姿勢を示すのにふさわしい事件であることから、典型事例に選定されたものと思われる。営業秘密の漏洩行為について、当該行為を即座に停止させなければ金銭で補償しきれない重大な被害がもたらされるという緊急性が認められれば、人民法院から迅速な仮処分命令を引き出せることが示された事例としても参考になる。

  • 事件 6 ネットレビューによる不正競争事件v
     本件は、科学的根拠なく原告製品より被告製品の方が高性能であるとのネットレビュー記事を提供した行為が、不正競争防止法上の虚偽宣伝行為に該当すると判断された事例である。

  •  問題となったレビュー記事は、中国で人気の SNS「小紅書(Reb Note)」上に掲載された、8ブランドのUV カットウェアの比較レビュー記事であり、その中には、原告側の「甲ブランド」と、被告の関連会社が展開する「乙ブランド」が含まれていた。記事において、被告は、「甲ブランド」の UV カットウェアについて、「素材はポリエステル 100%。特徴は生地が厚めで、出荷がやや遅いこと。実験データは 0019。」と記載し、「乙ブランド」については、「ナイロン 88%、スパンデックス 12%。涼感が強く、UV カット効果も高い。実験データは 001。」と記載している。(判決文に実験データに関する説明がないため詳細は不明だが、文脈から判断する限り、値が低い方が、UV カット性能が高いことを意味しているようである。)レビュー記事の結論部分では、「素材はナイロン製を選ぶこと。ナイロンはポリエステルよりも UV カット効果が高く、ナイロンの割合が高いほど効果的。」と、素材のナイロン比率が最も高い「乙ブランド」をアピールした上で、筆者自身は UV カット性能を重視し、一桁台の数値(0001)を有する「乙ブランド」等を選択した、と述べている。

  •  原告は、この UV カット性能に関する記載には科学的根拠がないとして、「甲ブランド」及び「乙ブランド」のUV カットウェア、及びレビューで言及された UV カット性能測定機器を法廷内に持ち込み、裁判官の前で、それぞれの性能を測定した。測定では、「甲ブランド」及び「乙ブランド」の UV カットウェアの UV カット性能は、いずれも 0001 又は 0000 であり、「甲ブランド」の性能が「乙ブランド」に劣らないことが示された。そのため、一審裁判所は、被告によるレビュー記事の提供が、不正競争防止法第 8 条第 1 項に「事業者は、その商品の性能、機能、品質、販売状況、ユーザ評価、受賞歴等を偽り、又は関連公衆に誤解を生じさせる商業宣伝を行い、消費者を欺き、誤った方向に導いてはならない。」と規定された、虚偽宣伝行為にあたると判断した。

  •  原告は、被告のレビュー記事が、更に同法第 11 条に規定の名誉棄損行為にあたると主張して上訴した。二審の蘇州市中級人民法院は、レビュー記事は8ブランドを比較するものであって原告の「甲ブランド」のみを対象としたものではなく、内容も「甲ブランド」を貶めるものであるとまでは言えず、実質的に、原告ブランドに対する市場評価の低下や競争力の喪失をもたらすものではないことを理由に、被告レビュー記事は虚偽宣伝行為のみにあたる、という一審判決を維持した。

  •  本件は、SNS 上のユーザレビューという、一般的に対抗手段の取りづらい行為に対し、原告が改めて測定を行ったことにより、不正競争行為であるとの判決を勝ち取ったケースである。SNS 上の記事が消費者の選択に与える影響力が増大している現代において、不正競争防止法の目的に立ち返り、レビューの適法性を判断する基準が示された点、更に、こうしたネット上のレビューの健全な発展と適法性の維持にコミットする人民法院の姿勢が明らかになった点において、意義深い事例である。


専利審査指南の改正案公表、パブリックコメント募集へ(速報)

 2025 年 4 月 30 日、国家知的財産局は専利審査指南の改正案を公表し、2025 年 6 月 15 日を期限にパブリックコメント募集を開始した。


 改正案は、新旧審査基準の対照表で 50 頁におよぶ内容を含んでおり、特に、人工知能(AI)等に関する発明や、ビットストリームを含む発明の審査基準と事例が追加された点や、種子法との整合をとりつつ植物品種の保護が強化された点が注目される。それ以外にも、形式面・実体面の様々な点について、審査基準の変更が行われている。


 弊所では、改正内容の詳細について、次号のニュースレターに掲載させて頂く予定です。

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