Newsletter Vol. 24(2024年12月)

専利法実施細則/特許権の存続期間補償の解説/ 北京知識産権法院 10年裁判業務白書【中国】【特許】

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Shangcheng Newsletter Vol.24(2024.12)

 

<尚誠ニュース>
AIPPI 中国杭州にて開催される
●尚誠の発明特許査定率が全国第 1 位に

<中国知財ニュース>
●北京知識産権法院「白書」が出される ~「白書」から見る復審/無効審判の取消率~

<特集>
●特許法実施細則における特許権の存続期間補償についての解説

 

<尚誠ニュース>
AIPPI 中国杭州にて開催される

 2024 10月、世界知的財産権大会(AIPPI)が開催されました。今年は中国浙江省杭州で開催され、世界各国から知的財産分野の専門家が集まりました。今年は、最新の動向として AI などのテーマがとりあげられ、これからの特許実務がどのように展開されていくか活発な議論がなされました。弊所からは、所長の龍淳、パートナーの楊琦、顧小曼、李巍が参加いたしました。

 

 また、10 21 日の夜には、弊所のレセプションを執り行うことができ、日頃お世話になっている多くの方々にお越しいただきました。杭州は何といっても世界遺産にも登録されている「西湖」という景勝地が有名なので、今回のレセプションでは、まずは遊覧船で西湖をゆっくりと巡り、その後、江南地方の地元のお料理を召し上がっていただくというプランを企画いたしました。


 夜 7 時頃、西湖でレセプションが始まりました。中国古来のドラゴンボートを利用した遊覧船は、隅々までライトアップされ、夜も更けて静かな西湖の上で光り輝いていました。皆でその遊覧船に乗り、いざ出航。船内では、軽快で楽しいジャズが流れる中、シャンパンを楽しみながら楽しいひとときを過ごしました。遊覧船が西湖の中心付近にさしかかったとき、皆で甲板に出て、遠くに見える岸辺の街の夜景を眺めながら、広大な西湖の夜の静けさを味わいました。つかの間の時間ではありましたが、秋の夜の西湖をゆったりと味わうという、特別な体験を皆様と共有できたのではないかと思います。

 

 

 夜の 8 時頃、杭州市内に戻り、シャングリ・ラホテルで引き続き食事会が行われました。所長の龍淳からも、お越しいただいた皆様に感謝と歓迎の意を表し、おかげさまで、とても心温まる賑やかな雰囲気の中で、地元のお料理とお酒を楽しみながら、交流を深めることができました。


 また機会がございましたらこのような会を設けて多くの方々と交流を深めることができればと存じております。


●尚誠の発明特許査定率が全国第 1 位に

 2024 年 10 月 、 商 用 特 許 デ ー タ ベ ー ス(HimmPat) に基づく第三者による統計が発表されました。この統計発表によると、北京尚誠知識産権代理有限公司の 1985 年から 2024 年までの期間全体の特許査定率は 79.2%で、中国の特許事務所(5000 所)の TOP100 の中で第一位を獲得しました。
https://mp.weixin.qq.com/s/AdQqjGRT1MG-OK-6S3TgAg


<中国知財ニュース>
●北京知識産権法院「白書」が出される ~「白書」から見る復審/無効審判の取消率~

 2024 年 11 月 6 日、北京知識産権法院(以下、「北京知財法院」とする)は「北京知識産権法院 10年裁判業務白書(2014-2024) 」(以下、「白書」とする)を発表した。


 北京知財法院は、北京市内の知的財産にする権利侵害訴訟などの民事訴訟を管轄するだけでなく、全国的な専利(特許・実用新案・意匠) 、商標、新植物品種、集積回路配置設計などの知的財産権の権利付与や権利確定に関する復審審決(拒絶査定不服審判審決)取り消し訴訟や無効審決取り消し訴訟などの行政訴訟も管轄している。


 専利(特許・実用新案・意匠)事件の受理件数について、北京知財法院は2014年11月から2024年 10 月までの間に合計 21,976 件を受理したが、その内訳として最も多いのが専利の権利付与(復審審決取り消し訴訟)と権利確定(無効審決取り消し訴訟)をめぐる行政事件で、合計 14,503 件となる。具体的には、発明特許の権利付与・権利確定に係る審事件が 3,615 件)、実用新案の権利付与・権利確定事件が 4,408 件(無効審判事件が 3,998 件、復審事件が 410 件)、意匠の権利付与・権利確定事件が 2,273 件(無効審判事件が 2,230 件、復審事件が 43 件) となっている。このように、この 10 年間で北京知財法院が受理した無効審判事件の件数(合計 10,435 件)が専利の権利付与と権利確定をめぐる行政事件(合計 14,503 件) の約 72%を占めている。


 なお、2014 年 11 月から 2024 年 10 月までの間に北京知財法院が結審した専利の権利付与と権利確定をめぐる行政事件の件数は、合計 13,713 件である。その内訳としては、こちらも無効審判事件の件数が最も多く、合計で 9,830 件(発明特許の無効審判事件が 3,955 件、実用新案の無効審判事件が3,748 件、意匠の無効審判事件が 2,127 件) で、専利の権利付与と権利確定をめぐる行政事件の約71.7%を占めている。


 また、「白書」では、結審した専利行政事件のうち、行政決定(復審審決、無効審決)が取消された事件は合計 852 件で、結審した事件全体の 6.2%しかないことが示された。このデータから、多くのケースで国家知識財産局の審決が北京知財法院によって支持・維持され、審決が取消されることが困難であるということを読み取ることができる。


 さらに、北京知財法院が下した「専利の権利付与と権利確定をめぐる行政事件」に関する判決(一審判決)に対して当事者が不服であった場合、最高人民法院(最高裁)知識産権法廷に控訴審(第二審)を提起することができるが、最高人民法院が発表した2023 年度報告によれば、2019 年から 2023 年の間で、最高人民法院知識産権法廷による、行政事件の控訴審(第二審)の結審件数は合計 3,373件で、その内、一審判決が維持された事件が 2,903件で全体の 86.1%を占め、訴訟が取下げられた事件は 217 件(6.4%)で、一審判決の内容が変更された事件は 241 件(7.1%)である。この内、「専利の権利付与と権利確定をめぐる行政事件」の一審判決の内容が変更された事件は約 217 件(6.4%)となっている。ここから、「専利の権利付与と権利確定をめぐる行政事件」の一審判決が多くの場合において第二審で支持されていることがわかる。


 これらの統計データから、企業が特許戦略を立てる際にとても重要かつ有益な情報が得られる。まず、特許権者であっても無効請求人であっても、必ず国家知識産権局の復審/無効審判の審理が行われている段階で、自らにとって有利な審決を得られるよう、最大限の努力を払わなければならないということである。そして、特許権者としては、特許出願時において、明細書や特許請求の範囲の記載を中国のプラクティスにも適応できるような形で作成するよう努力し、その後の中間処理、復審や無効審判の過程で、このような記載に基づいて適切な補正を行いかつ有効的な主張を展開できるようにすることで、復審での権利の獲得及び無効審判での権利の確保を可能にし、権利の安定性を維持することができ、さらに行政訴訟(審決取消訴訟)においても原審決が維持されるような有益な結果を得ることができるのである。

 

<特集>
●特許法実施細則における特許権の存続期間補償についての解説

 2021 年 6 月 1 日施行の「特許法」第 42 条第 2項には、特許権の存続期間補償(PTA)に関する条項が新設されています。しかし、改正「特許法実施細則」と「特許審査指南」が公布されるまで、補償期間の計算方法は明確に定められていませんでした。


 2023 年 12 月 21 日に公布された改正「特許法実施細則」(2024 年 1 月 20 日発効) では、特許権存続期間補償に関する条項(第 77 条~第 79条、第 84 条)が新設され、特許権補償期間の請求期限と計算方法が明確に示されました。以下では、2023 年 12 月 21 日に公布された改正「特許審査指南」(2024 年 1 月 20 日発効) の第 5 部第 9章第 2 節に記載される関連規定についてご紹介いたします。

 

1. 特許権存続期間補償を受ける条件

 改正「特許法」第 42 条第 2 項では、「発明特許の出願日から 4 年が経過し、かつ実体審査請求日から 3 年が経過した後に発明特許権が付与された場合、国務院特許行政部門は、特許権者の請求に応じて、発明特許の権利付与の過程における不合理な遅延に対して特許権の存続期間を補償することができる。ただし、出願人に起因する不合理な遅延は除く。」と規定されている。このように、特許権存続期間の補償を受けられるのは発明特許のみであり、特許権存続期間補償は出願人による請求によって得られるものであって、自動的に得られるものではない。また、改正「特許法実施細則」第 78 条第 4 項によると、同一出願人が同日に同一の発明について発明特許と実用新案の出願を行い、かつ実用新案権を放棄して発明特許を取得した場合には、特許権の存続期間補償を得ることはできないものとされている。

 

2. 特許権存続期間補償の請求期限

 改正「特許法実施細則」第 77 条によると、特許権存続期間補償の請求は、特許権付与公告日(特許権登録公告日)から 3 ヶ月以内に提出しなければならない(この期限は回復できないので注意が必要である)。請求時には、1 件につき 200 元の費用を納付しなければならない。

 

3. 特許権存続期間補償の補償期間の計算方法

 改正「特許法実施細則」第 78 条および第 79 条に基づき、特許権存続期間補償の実際の補償期間(日数)は、以下の 3 つの要素を考慮して計算される。

(A)特許出願日より 4 年が経過し且つ実体審査請求日より 3 年が経過した日から特許権登録公告日までの間の日数
(B)合理的な遅延日数
(C)出願人に起因する不合理な遅延日数

「(A) -(B) -(C)」で求められた日数が、特許権存続期間補償の補償期間の実際の日数となる。


上記(A) 、(B) 、(C) について、それぞれ以下のとおり説明する。

 

(A)特許出願日より 4 年が経過し且つ実体審査請求日より 3 年が経過した日から特許権登録公告日までの間の日数

 改正「特許法実施細則」と「特許審査指南」の関連規定に基づき、特許出願日より 4 年が経過し且つ実体審査請求日より 3 年が経過した日から特許権登録公告日までの間の日数 A の計算方法は、右上のフローチャートのとおりである。

 

 

(B)合理的な遅延日数
 改正「特許法実施細則」と「特許審査指南」の関連規定によると、「合理的な遅延日数」には、以下のB1~B4が含まれる。


・B1:「特許法実施細則」第 66 条の規定に基づき特許出願書類の補正が行われた復審プロセスにおける遅延日数。

 特許出願が拒絶査定となった後、出願人が復審請求を提出し、かつ復審プロセスで出願書類を補正することによって拒絶理由を克服し、「もとの拒絶査定を取消す」旨の復審決定が下された場合、拒絶査定発行日から復審審決発行日までの間の日数を B1とする。


・B2:「特許法実施細則」第 103 条の規定に基づく特許出願権の権利帰属紛争に起因する審査の中止プロセスによって生じた遅延日数。
 審査を中止するか否か、また中止する場合の中止期間については、国家知識産権局が決定する。具体的には、B2 の日数は、国家知識産権局が発行した「中止請求審理通知書」と「中止請求終了通知書」に基づき確定する。ただし、特許出願権の権利帰属紛争の状況に応じて、中止プロセスの延長又は中止プロセスの早期終了申請が請求された場合は、特定の状況に応じて遅延日数 B2 が調整されるということに注意が必要だ。

・B3:「特許法実施細則」第 104 条の規定に基づく保全措置によって生じた遅延日数。
 国家知識産権局は、裁判所が発行した裁定書と執行協力通知書に基づき、審査した後に裁判所と出願人(または特許権者)に保全手続開始通知書を発行する。保全手続開始通知書には、財産保全の協力執行期間の開始日(通常は民事裁定書の受領日) と終止日が記載されるため、同通知書に基づいて遅延日数 B3を確定する。但し、裁判所が保全期間の延長又は保全措置の早期解除を命じた場合には、特定の状況に応じて遅延日数 B3 が調整されるということに注意が必要だ。

・B4:その他の合理的な状況によって生じた遅延。

 これは、行政訴訟手続などがある場合に備えるための条項であり、遅延日数の具体的な計算方法は、具体的な状況に応じて合理的に確定される。


 合理的な遅延日数 B は、上記 B1、B2、B3、B4 の日数の和である。

C)出願人による不合理な遅延日数
 改正「特許法実施細則」と「特許審査指南」の関連規定によると、出願人による不合理な遅延日数には、以下の C1~C5が含まれる。

・C1: 国務院特許行政部門が発行した通知に所定の期限内に応答しなかったことによる遅延日数。
 遅延日数 C1 は、応答期限日から実際に応答を提出した日までの期間である。

・C2:遅延審査を請求したことによる遅延日数。
 遅延した日数 C2 は、実際に審査が遅延された日数である。発明特許出願の審査遅延可能期間は、1年、2 年または 3 年であるため、遅延日数 C2は、それぞれ 365 日、730 日または 1095 日となる(審査遅延期間に閏月が含まれる場合、これに 1 日が加算される)。ただし、出願人は遅延審査期間満了日の前に遅延審査の請求を取り下げることができるため、その場合には実際の状況に基づいて遅延日数 C2 が決定される。

・C3:改正「特許法実施細則」第 45 条に規定された「引用による補充」による遅延日数。
 遅延日数 C3 は、出願書類の初回の提出日から「引用による補充」で書類を補充提出した日までの期間である。

・C4:権利回復を請求したことによる遅延日数。

 遅延日数C4は、元の期間満了日から権利回復請求を認める旨の通知書の発行日までの期間である(遅延が特許庁により引き起こされたことを証明できる場合は除く) 。

・C5:優先日から 30 ヶ月以内に中国国内段階移行手続を行う国際出願について、繰り上げ処理を請求しなかったことによる遅延日数。
 遅延日数 C5は、中国国内段階移行日から、優先日から 30 ヶ月を満了した日までの期間である。

 

 出願人による不合理な遅延日数 C は、上記 C1、C2、C3、C4、C5の日数の和である。

 これらの要素 A、B、C が確定すると、「A-B-C」で求められた日数が特許権存続期間補償の実際の補償期間となり、その結果が 0 より大きければ、相応の特許権存続期間補償を受けることができ、0 以下の場合は特許権存続期間補償を受けることはできない。

※「特許法」第 42 条第 2 項に規定された特許権存続期間補償(PTA)と、「特許法」第 42 条第 3 項に規定された薬品特許権存続期間補償(PTE)の両方の条件を満たす発明特許については、まず PTAの補償期間を決定し、その後 PTE の補償期間を確定しなければならない。

 

4. 仮想事例を用いた説明
事例 1

PCT 国際出願の中国移行出願】
優先日 : 2015 年 2 月 1 日
国際出願日: 2016 年 2 月 1 日

・2017 年 3 月 1 日
 中国国内段階へ移行
 (審査請求あり(全額納付))
 ※繰り上げ処理の請求はなし。
・2017 年 6 月 1 日
 中国国内公開、実体審査段階に入る。
・2018 年 8 月 1 日
 第一回拒絶理由通知書が発行される(応答期限: 2018 年 12 月 16 日)。
・2018 年 12 月 16 日
 出願人は応答せず、2 ヶ月の応答期間延長を行う。
 →新たな応答期限: 2019 年 2 月 16 日
・2019 年 2 月 16 日
 出願人は応答期間内に応答しなかった。
・2019 年 3 月 25 日
 「取下げとみなす通知書」が発行される。
・2019 年 5 月 20 日
 出願人は、権利回復請求すると同時に「第一回拒絶理由通知書」に対する意見書を提出する。
・2019 年 5 月 27 日
 権利回復が認められ「権利回復請求許可通知書」が発行される。
・2019 年 7 月 1 日
 第二回拒絶理由通知書が発行される(応答期限: 2019 年 9 月 16 日)。
・2019 年 9 月 10 日
 出願人は「第二回拒絶理由通知書」に対する意見書を提出する。
・2019 年 10 月 30 日
 拒絶査定が出される。
・2020 年 2 月 14 日
 復審請求が提出される(補正なし)。
・2021 年 12 月 1 日
 「復審通知書」が発行される (応答期限: 2022 年 1 月 16 日)。
・2022 年 1 月 16 日
 出願人は応答せず、2 ヶ月の応答期間延長を行う。
 →新たな応答期限: 2022 年 3 月 16 日
・2022 年 3 月 10 日
 出願人は「復審通知書」に応答する(補正なし)。
・2022 年 4 月 15 日
 「復審審決」が下される。
 →「拒絶査定を取消し、元の審査部門に差し戻し」の審決
・2022 年 5 月 20 日
 特許査定となる(登録料納付期限: 2022 年 8 月 4 日) 。
・2022 年 8 月 1 日
 登録料納付
・2022 年 9 月 1 日
 特許権が付与され公告される。

 この仮想事例に基づいて、本願が特許権存続期間補償(PTA)を受けることが可能か、また受けられる場合はどのくらいの補償期間が得られるのか計算する。

【ステップ 1】発明特許出願日から 4 年が経過し、かつ実体審査請求日から 3 年が経過した日から特許権登録公告日までの日数 A を確定する。
(1)本願は PCT 国際出願の国内移行出願であるため、中国国内移行日である 2017 年 3 月 1 日が「出願日」で、特許権登録公告日は 2022 年 9 月1 日である。両者の間の期間は 4 年以上であるため、4 年を超えた日数 A1 549 (2021 年 3 月 1日から 2022 年 9 月 1 日)となる。

(2)本願の実体審査請求日は 2017 年 6 月 1 日(実体審査請求日 2017 年 3 月 1 日が国内公開日 2017 年 6 月 1 日より前であるため、国内公開日を「実体審査請求日」とする)で、特許権登録公告日は 2022 年 9 月 1 日である。両者の間の期間は3 年以上であるため、3 年を超えた日数 A2 822 (2020 年 6 月 1 日から 2022 年 9 月 1 日)となる。


(3) A1<A2 であるため、A= A1= 549 日。
 したがって、A 549 となる。

【ステップ 2】合理的な遅延日数 B を確定する。
(1) B1 について、本願は復審請求されたが、復審請求手続において出願書類に対する補正をしなかったため、B1 を差し引く必要はない。


(2) B2、B3、B4 は該当なし。
 したがって、合理的な遅延日数 B 0 となる。

【ステップ 3】出願人による不合理な遅延日数 C を確定する。
(1)本願は、まず第一回拒絶理由通知書に対して応答期限までに応答せず、2 ヶ月の期限延長をしたため、2018 年 12 月 16 日から 2019 年 2 月 16 日までの合計 62 日間の遅延があった。次に、復審通知書に対しても応答期限までに応答せず、2 ヶ月の期限延長をしたため、2022 年 1 月 16 日から実際の応答日 2022 年 3 月 10 日までの合計 53 日間の遅延があった。したがって、C1 62 日+ 53 日= 115 となる。


(2) C2、C3については、該当なし。

(3)本願は、第一回拒絶理由通知書への応答時に権利回復請求が行われたため、もとの期限日である2019 年 2 月 16 日から「権利回復請求許可通知書」の発行日である 2019 年 5 月 27 日までの合計が C4 100 となる。

(4)本願は、優先日から 30 ヶ月以内に中国国内段階移行手続を行った国際出願であるが、繰り上げ処理の請求がなされなかったため、中国国内段階移行日である 2017 年 3 月 1 日から、優先日から 30ヶ月を満了した 2017 年 8 月 1 日までの期間が C5 153 となる。


 したがって、出願人による不合理な遅延の日数は、以下のとおり求められる。
 C C1 C4 C5 115 日+ 100 日+ 153 368


【ステップ 4】実際に受けられる補償期間の日数を確定する。
 実際に受けられる補償期間の日数は、以下のとおり求められる。
 A B C 549 日- 0 日- 368 日= 181

 

 したがって、本願は、181 の特許権存続期限補償(PTA)を受けることができる。

 

事例 2

【日本出願を基礎出願として優先権主張した中国出願】
・優先日: 2018 年 8 月 1 日
・出願日: 2019 年 7 月 30 日

・2019 年 8 月 29 日
 「引用による補充」の規定に基づき明細書の一部の内容を補充する。
・2020 年 2 月 1 日
 公開
・2021 年 7 月 31 日
 実体審査請求・審査請求費用全額納付(実体審査請求と同時に 1 年の遅延審査を請求)
・2022 年 8 月 5 日
 実体審査段階に入る。
・2023 年 1 月 5 日
 第一回拒絶理由通知書が発行される(応答期限: 2023 年 5 月 20 日) 。
・2023 年 4 月 30 日
 出願人が「第一回拒絶理由通知書」に応答する。
・2023 年 6 月 1 日
 拒絶査定が出される。
・2023 年 9 月 10 日
 復審請求が提出される(補正なし)。
・2024 年 2 月 1 日
 「復審通知書」が発行される(応答期限: 2024 年 3 月 1 日)。
・2024 年 3 月 1 日
 出願人は応答せず、2 ヶ月の応答期間延長を行う。
 →新たな応答期限: 2024 年 5 月 1 日
・2024 年 4 月 30 日
 出願人は「復審通知書」に応答し、特許請求の範囲を補正する。
・2024 年 5 月 30 日
 「復審審決」が下される。
 →「拒絶査定を取消し、元の審査部門に差し戻し」の審決
・2024 年 6 月 20 日
 第二回拒絶理由通知書が発行される(応答期限: 2024 年 8 月 20 日) 。

・2024 年 8 月 15 日
 出願人は、「第二回拒絶理由通知書」に対して意見書を提出する。
・2024 年 9 月 1 日
 特許査定となる(登録料納付期限: 2024 年 11 月 1 日) 。
・2024 年 11 月 1 日
 登録料納付
・2024 年 12 月 1 日
 特許権が付与され公告される。

 

 以上の仮想事例に基づいて、本願が特許権存続期間補償(PTA)を受けることが可能か、また受けられる場合はどのくらいの補償期間が得られるのか計算する。

【ステップ 1】発明特許出願日から 4 年が経過し、かつ実体審査請求日から 3 年が経過した日から特許権登録公告日までの日数 A を確定する。

(1)本願はパリルートによる中国出願であるため、実際の出願日である 2019 年 7 月 30 日が「出願日」で、特許権登録公告日が 2024 年 12 月 1 日である。両者の間の期間は 4 年を超えているため、超えた日数 A1 489 (2023 年 7 月 30 日から2024 年 12 月 1 日)となる。

(2)本願の実体審査請求日は 2021 年 7 月 31日(実体審査請求日 2021 年 7 月 31 日が国内公開日である 2020 年 2 月 1 日よりも遅いため、実際の実体審査請求日を「実体審査請求日」とする)で、特許権登録公告日は 2024 年 12 月 1 日である。両者の間の期間は 3 年以上であるため、3 年を超えた日数 A2 123 (2024 年 7 月 31 日から2024 年 12 月 1 日)となる。

(3) A1> A2 であるため、A= A2= 123 日。
 したがって、A 123 日となる。


【ステップ 2】合理的な遅延日数 B を確定する。
(1) B1 について、本願は復審請求され、復審請求手続において出願書類に対する補正したことで拒絶理由を克服したため、拒 絶査定の発行日である2023 年 6 月 1 日から復審審決の発行日である2024 年 5 月 30 日までの間の日数 B1 364 となる。

(2) B2、B3、B4 は該当なし

 したがって、合理的な遅延日数B 364となる。

【ステップ 3】出願人による不合理な遅延日数 C を確定する。
(1)本願は、復審通知書への応答時に 2 ヶ月の応答期間延長を行ったが、すでに復審段階の期間全てを B1 にて「合理的な遅延」として差し引いているため、ここでは復審段階の期限延長による遅延時間を C1 として再度差し引くことはしない。

(2)本願は、1 年間の遅延審査請求がなされたため、遅延日数 C2 365 となる。

(3)本願は、「引用による補充」が行われた。遅延日数 C3 は、出願書類の最初の提出日である 2019年 7 月 30 日から「引用による補充」を行うための書類を提出した日である 2019 年 8 月 29 日までの期間であり、C3 30 となる。

(4) C4、C5 については、該当なし。
 したがって、出願人による不合理な遅延の日数は、以下のとおり求められる。

 C C2 C3 365 日+ 30 日= 395

【ステップ 4】実際に受けられる補償期限の日数を確定する。

 実際に受けられる補償期間の日数は、以下のとおり求められる。
 A- B- C= 123- 364- 395= -636-636<0 であるため、

 本願は、特許権存続期限補償(PTA)を受けることができない。

  1. 考察

 「優先権日から 30 ヶ月以内に中国国内段階移行手続を行う国際出願について、繰り上げ処理を請求しなかったことによる遅延日数(C5) 」が「出願人による不合理な遅延」に分類される規定が合理的であるか否かについては、ある程度の論議を呼ぶことが予想される。このような計算方法で「出願人による不合理な遅延日数」を計算する方法は、不公平さを招く可能性が生じることが考えられるためである。

 

 例えば、仮に、ともに優先日が 2023 年 10 月 1 日である出願 X と出願 Y の 2 件の PCT 出願があり、出願 X は優先日から 20 ヶ月の 2025 年 6 月 1 日に中国国内段階移行手続を行ったが繰り上げ処理を請求していない一方で、出願 Y は、優先日から 30 ヶ月の 2026 年 4 月 1 日に中国国内段階に移行されたとする。両者は優先日から 3 年を満了した日(2026年 10 月 1 日)に実体審査請求を行い実体審査費用を全額納付し、ここで 2 件の出願の国内公開がともに完了したとする(2 件の出願はともに 2030 年 10月 1 日に登録公告された) 。

 上述したフローチャートに基づき出願 X の補償期間を計算すると、A が 1 年であり、出願人による不合理な遅延の日数C5(10ヶ月)を差し引くと、特許権存続期間の補償期間は 2 ヶ月しかないことがわかる。その一方で、Y 出願については、上述したフローチャートに基づき特許権存続期間の補償期間を計算すると、A が 6 ヶ月であり、出願人による不合理な遅延日数C5 を差し引く必要がないため、特許権存続期間補償を受ける期間は 6 ヶ月となる。このように、国内段階に早期に移行された出願 X(仮に X 出願が繰り上げ処理を請求しなかった点を考慮しても、出願 X の 30 ヶ月の移行期間で算出される移行日は、出願 Y と同一日となる)は、出願Yと同時に実体審査段階に入り、同時に特許権が付与されたにもかかわらず、より少ない補償期間しか与えられないことになってしまう。

 

 

 上記から分かるように、国内段階に早期に移行された出願 X(仮に繰り上げ処理を請求しなかった点を考慮し、30 ヶ月の移行期間で移行日を確定しても、移行日は出願 Y と同一日である)は、出願 Y と同時に実体審査段階に入り、同時に特許権が付与されているものの、かえってより少ない補償期間を受け取ることになる。


 中国国内段階に早期に移行したけれども繰り上げ処理は請求していないという出願については、国内段階移行日から、優先日より起算して 30 ヶ月が経過した日までの期間を補償期間から除外するのは無論合理的であるが、当該期間を「出願人による不合理な遅延の日数 C5」として除外するのは明らかに妥当ではない。繰り上げ処理を請求しなかったことによる遅延は、PCT 出願の移行日を確定する際(即ち、上記フローチャートの A1 を確定する際) に除外されるべきであると考える。なぜなら、「特許法実施細則」第 78 条第 2項に規定された特許権付与過程における不合理な遅延の実際の日数(A-B-C) を計算する際に、A 値の決定において、発明特許出願日から 4 年が経過した日から特許権登録公告日までの日数 A1 と、実体審査請求日から 3 年が経過した日から特許権登録公告日までの日数 A2 のうちの小さい方を選択する必要があるが、繰り上げ処理を請求しなかったことは、本来、A1 を計算する際の出願日にのみ影響を与えるものであるにもかかわらず、現在の計算方法では、最終的に A1 または A2 のいずれかを A 値として選択した場合においても、遅延 C5 も「出願人による不合理な遅延」として排除されてしまうため、上述の例のような不合理な状況が生じる可能性があるということである。

 

 

 弊所が考える最も適当な方法は、PCT 出願の移行日を確定する際に、繰り上げ処理を請求しなかったことによる遅延を修正する方法、つまり、移行日が 30ヶ月未満で且つ繰り上げ処理を請求していない場合は、優先日から 30 ヶ月を満了した日を、PCT 出願の特許権登録公告日から 4 年を超えたかどうかを確定するための基準日として、A1 値を計算する方法である。さらに言うと、左に示すフローチャートの手順で A 値を計算し、「優先日から 30 ヶ月以内に中国国内段階移行手続を行う国際出願について、繰り上げ処理を請求しなかったことによる遅延日数C5」については取消した方がより合理的であると考えている。

 もちろん、改正「特許法実施細則」及び「特許審査指南」は公布されたばかりで、かつ 2024 年 1 月 20日に発効したばかりであるため、現段階でこの計算方法について調整を期待するのは現実的ではない。したがって、優先権日から 30 ヶ月未満で PCT 出願の中国国内段階への移行手続を行う場合には、繰り上げ処理請求を申請した方がよいものと考えている。

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