専利法第4回改正内容《専利法改正特集号≫【中国】【特許】【改正法】
↓PDF版はこちら
Shangcheng Newsletter専利法改正特集号 Vol.18(2020.10)
Shangcheng Newsletter Vol.18 添付資料専利法(第4次改正法)
≪専利法改正特集号≫
● 専利法第4回改正内容が確定、2021年6月1日から施行に
一.改正の流れ
中国専利法は、1985 年 4 月 1 日に施行されて以来、1992 年、2000 年、2008 年とそれぞれ 8 年ごとに計三回の比較的大きな改正がなされてきた。その後、2011 年 11 月より第 4 回改正の準備作業が開始されたが、その検討には長い時間がかかり、前回改正から実に 12 年を経た 2020 年 10 月 17 日に、第 4 回専利法改正法案が全国人民代表大会常務委員会で可決された。改正後の専利法は、2021 年 6 月 1 日から施行される。
中国専利法の改正は、国家知的財産局で作られた草案が国務院に上げられ、国務院の審議を通過した草案が、全国人民代表大会で検討されて、最終的に内容が決定される。今回の改正では、国家知的財産局、国務院、及び全国人民代表大会が、それぞれの段階で草案の公表やパブリックコメント募集を行い、その度に、改正内容に比較的大きな変更が加えられた。
改正の主な目的は、国内外の企業の要望に応えて、特許・意匠・実用新案権の権利行使における様々な障害を取り除き、中国における専利権の行使をより一層容易で効果的なものとすることにある。具体的には、侵害行為に対する懲罰的賠償の導入、法定賠償額の引き上げ、文書提出命令の明文化等である。また、同時に、行政機関である国家知的財産局の処分権限を拡大し、全国に重大な影響を与えるような侵害行為に対し取り締まりを行えるような改正がなされた。それ以外にも、今回の改正には、部分意匠制度の導入、意匠権の保護期間の延長と国内優先権制度の 創設、薬品特許の存続期間延長、薬品のパテントリンケージ制度、開放式許諾制度の導入など、出願人・権利者にとって重要な内容が多く含まれる。具体的な改正内容を、以下に紹介する。
二.改正内容
1.専利権による権利行使の強化
(1) 故意侵害に対する懲罰的賠償の導入
改正前の専利法では、侵害行為に対する賠償は権利者の損失補填を基本とし、いわゆる懲罰的賠償は導入されていなかった。改正後は、侵害訴訟において裁判所が、重大な故意侵害行為に対し、権利者の被った損失等をもとに算定した賠償金額の最高 5 倍までの金額について、懲罰的な賠償を課すことができるようになった。懲罰的賠償の倍率は、2015 年 12 月に草案が知的財産局から国務院に上げられた段階では 1~3 倍とされていたが、その後の審議により 1~5 倍に引き上げられた。先に行われた商標法及び不正競争防止法の改正では、既に 1~5 倍の懲罰的賠償制度が導入されており、本改正は、それらの流れに沿ったものである。
懲罰的賠償制度の導入は、故意侵害行為の抑制とともに、知的財産権の侵害行為に厳しく望む中国政府の姿勢を内外に示す目的もあると思われる。
また、損害賠償金額の確定方法について、従来は、まず①権利者の損失に基づいて確定し、これが確定できない場合には、②侵害者の利益に基づいて確定し、これも確定できない場合に、③実施料の倍数に基づいて確定すると規定されていた。改正後は、①と②の優先順序がなくなり、いずれを根拠としても良いとの規定になった。現実の訴訟において、権利者の損失が算定できるケースは少なく、また、自らの財務データを開示して逸失利益の算定をすることを望まない権利者が多いことに鑑みた改正と思われる。
第 71 条第 1 項(旧 65 条第 1 項から改正)
専利権侵害の賠償金額は、権利者が権利侵害により被った実際の損失又は権利侵害者が権利侵害により獲得した利益によって確定する。権利者の損失あるいは権利侵害者が獲得した利益の確定が難しい場合、その専利の許諾実施料の倍数を参照して、合理的に確定する。故意に専利権を侵害し、情況が深刻である場合、上記方法で確定した金額の 1 倍以上 5 倍以下で賠償金額を確定することができる。
(2) 法定賠償金額の引き上げ
侵害行為に対する損害賠償金額が、権利者の損失、侵害者の利益、又は実施料のいずれに基づいても確定できない場合、裁判所が諸般の事情を考慮して賠償額を決定する、いわゆる法定賠償が採用される。この法定賠償の金額が、改正前の「1万元以上 100 万元以下」から、「3 万元以上 500 万元以下」へと引き上げられた。
第 71 条第 2 項(旧 65 条第 2 項から改正)
権利者の損失、権利侵害者の 獲得した利益及び専利許諾実施料のいずれもが確定困難である場合、人民法院は専利権の種類、権利侵害行為の性質と情況などの要素に基づき、3 万元以上500 万元以下の賠償を確定することができる。
(3)専利侵害行為に対する国家知的財産局の行政処分権限の拡大
中国の権利行使には、従来、裁判所による司法ルートと、地方の知的財産局(条文では「地方人民政府専利管理部門」と記載)による行政ルートの 2つが設けられていた。本改正の大きなポイントの一つが、この行政ルートにおいて、これまで権利行使については権限を有していなかった中央(北京)の国家知的財産局(条文では「国務院専利行政部門」と記載)に対し、全国に重大な影響をおよぼすような侵害行為に対する処分権が与えられたことである。
また、第 2 項では、地方の知的財産権局が、専利権者又は利害関係人の請求により専利権侵害事件を処理する際、同一行政区域内の同一の専利権に関する侵害事件は併合して処理することができ、同一の専利権に対する区域を跨った侵害事件は、より上級の人民政府の専利管理部門に処理を請求することができると規定されている。
国家知的財産局が処分権限を有する「全国に重大な影響をおよぼす」事件の判断基準は未だ明らかにされていないが、2010 年に国家知的財産局が公表した「専利行政法執行弁法」第 5 条には、「重大な影響を及ぼす専利権侵害紛争事件、専利詐称事件については、国家知的財産局は必要な場合に、関連する専利業務管理部門を組織して処理、取締りをさせることができる。行為発生地が 2 つ以上の省、自治区、直轄市に跨る重大案件については、関連する省、自治区、直轄市の専利業務管理部門は、国家知的財産局に報告してその処理又は取締りを申請することができる。」と規定されており、参考になる。
第 70 条(新設)
国務院専利行政部門は、専利権者又は利害関係人の請求に応じて、全国的に重大な影響を有する専利権侵害紛争を処理することができる。
地方人民政府の専利事務を管理する部門は、専利権者又は利害関係人の請求に応じて専利権侵害紛争を処理するにあたって、本行政区域内において同一の専利権を侵害した事件については併合して処理することができる。地域を跨って同一の専利権を侵害した事件については、上級地方人民政府の専利事務を管理する部門に処理を請求することができる。
(4)専利詐称行為と専利権侵害行為の行政処分主体を分離
従来、地方の知的財産局は、専利権侵害行為と専利詐称行為の両方に対し、行政処分権限を有していたが、改正後は、専利権侵害行為に対しては中央及び地方の知的財産局が、特許詐称行為に対しては、「専利法執行部門」が行政処分を行うことが規定された。
この「専利法執行部門」は、専利詐称行為に対し、従来、地方の知的財産局が持っていたのと同様の処分権限を有する。具体的に、詐称行為の一定の蓋然性を示す証拠に基づいて取り締まりを行う際には、当事者尋問、現場調査、関連する契約書・領収書・帳簿その他関連資料の閲覧・複製、製品の検査及び封鎖・差し押さえが可能である。この「専利法執行部門」には、北京では国家知的財産局の上部組織である国家市場監督管理総局の法執行部門、地方では各地方の市場監督管理局の法執行部門があたると考えられる。
一方、中央及び地方の知的財産局は、専利権侵害行為に対する行政処分権限を有するが、違法の疑いがある行為に関する契約書、領収書、帳簿及びその他の関連資料の閲覧・複製や、製品の封鎖・差押えの権限は有しないことが明記された。
第 68 条(第 63 条から改正)
専利を詐称した場合、法によって民事責任を負う他に、専利法執行部門は改善命令を出し、これを公告し、違法所得を没収する。また、違法所得の5 倍以下の過料に処することができる。違法所得がない又は違法所得が 5 万元以下の場合、25 万元以下の過料に処することができる。犯罪を構成した場合、法により刑事責任を追及する。
第 69 条(第 64 条から改正)
専利法執行部門が、取得した証拠に基づき、専利詐称の嫌疑行為を取り締まる際、次の措置をとる権限を有する。
(1)関係当事者を尋問し、違法の疑いがある行為に関わる状況を調査する。
(2)当事者の違法の疑いがある行為に関わる場所を現場調査する。
(3)違法の疑いがある行為に関わる契約書、領収書、帳簿及びその他の関連資料を調べ、複製する。
(4)違法の疑いがある行為に関わる製品を検査する。
(5)証拠により専利詐称であると証明された製品を封鎖又は差し押さえる。
専利管理業務部門が専利権者又は利害関係人の請求に応じて専利権侵害紛争を処理する際は、前項第(1)号、第(2)号及び第(4)号の措置をとることができる。
専利法執行部門、専利管理業務部門が法に基づき前 2 項に定めた職権を行使するとき、当事者はこれに協力し、支援を提供しなければならず、拒否又は妨害してはならない。
(5)専利詐称行為への罰則の強化
専利詐称行為に対する過料の上限が、従来は違法所得の 4 倍以下とされていたが、5 倍以下へと引き上げられた。また、改正前は、違法所得が無い場合には 20 万元以下の過料と定められていたが、改正後は、違法所得がない又は 5 万元以下の場合、25 万以下の過料と定められた。
第 68 条(上記参照)
(6) 文書提出命令
専利権者にとって、専利侵害行為の立証が極めて難しいという問題を解決するために、改正法では、裁判所が賠償金額の確定にあたり、一定の条件の下に侵害者に対し文書提出命令を出せること、侵害者がこれを提出しない又は虚偽の資料を提出した場合には、権利者の主張及び証拠を参考にして賠償金額を確定できることが規定された。当該内容は、2016 年の最高人民法院による司法解釈「専利権侵害紛争事件の審理における法律適用の若干の問題に関する解釈(二)」第 27 条に既に規定されているが、改めて専利法にも明記されたものである。
第 71 条第 4 項(新設)
人民法院は賠償金額を確定するために、権利者がすでに立証に力を尽くしたにもかかわらず、権利侵害行為に係る帳簿、資料が主に権利侵害者に保有されている状況下で、権利侵害行為に係る帳簿、資料の提供を権利侵害者に命じることができる。権利侵害者がそれを提供せず、又は虚偽の帳簿、資料を提供した場合、人民法院は権利者の主張及び提供した証拠を参考にして賠償金額を判定することができる。
(7) 訴訟前の保全処分に関する規定の整理
改正法の第 72 条及び第 73 条では、訴訟前の財産保全、仮処分、証拠保全について、担保や裁判所の裁定期限等の規定が削除され、一部の文言が変更された。これは、対応する内容が既に民事訴訟法(第 81 条、第 100 条等)で規定されているため、専利法から重複する規定を削除し、規定ぶりを合わせるための改正と思われる。
第 72 条(第 66 条から改正)
専利権者又は利害関係人は、他人がその専利権を侵害する又はその権利の実現を妨害する行為を実施している、あるいは実施しようとしていて、速やかに止めなければその合法的権益が補償の難しいほどの損害を被る恐れがあることを証明できる証拠を持っている場合、起訴前に人民法院に対して財産保全、一定の行為を実施する又は一定の行為を禁止することを命令する措置を講じるよう申請することができる。
(第 2~5 項を削除)
第 73 条(第 67 条から改正)
専利権侵害行為を制止するため、証拠が消失又は今後の取得が困難になる可能性がある場合に、専利権者あるいは利害関係人は、起訴前に法に従って人民法院に証拠保全を申請できる。
(第 2~4 項を削除)
(8) 専利権評価報告書の提出
中国での侵害警告及び侵害訴訟では、評価報告書の提出は必須ではない。改正前の専利法では、実用新案又は意匠に関する侵害紛争が発生した際、裁判所又は専利行政部門が専利権者又は利害関係人に対して評価報告書の提出を要求することができる、と規定されていた。これに加えて、改正法では、専利権者、利害関係人、又は被疑侵害者が自発的に評価報告書を提出してもよいと定められた。
専利法実施細則第 56 条では、評価報告書を請求できるのは、権利者又は利害関係人と規定されている。この利害関係人は、審査指南の規定により、実施許諾を受けた者に限られると解釈されていた。改正条文を見る限り、今後は、侵害訴訟の当事者となった被疑侵害者も評価報告書を請求可能となると思われる。
第 66 条第 2 項(第 61 条第 2 項を改正)
専利権の侵害紛争が実用新案あるいは意匠に関わる場合、人民法院あるいは専利業務管理部門は、専利権者あるいは利害関係人に対して、国務院専利行政部門が係る実用新案又は意匠について検索、分析、評価を行った後に作成した専利権評価報告を提出するよう要求することができる。専利権者、利害関係人又は被疑侵害者は自発的に専利権評価報告書を提示することもできる。
(9) 侵害訴訟の時効 3 年への延長
専利権侵害の訴訟時効は、権利者又は利害関係人が侵害行為を知った日、または知り得べき日から 2 年とされていたが、侵害行為及び侵害者を知った日、または知り得べき日から 3 年へと変更された。また、いわゆる補償金請求権に関する訴訟時効も、同様に 3 年に延長された。これは、2017年の民法総則において民事訴訟の時効が 3 年とされたことに合わせた改正である。
第 74 条(旧 68 条を改正)
専利権侵害の訴訟時効は 3 年とし、専利権者又は利害関係人が権利侵害行為及び侵害者を知った日又は知り得べき日より起算する。
発明専利出願が公開されてから専利権が付与されるまでの間に、当該発明を使用して適切な実施料を支払っていない場合、専利権者が実施料の支払いを要求する訴訟時効は 3 年とし、専利権者が他人がその発明を使用していることを知った日又は知り得べき日より起算する。但し、専利権者が専利付与日以前に知った又は知り得た場合は、専利権付与日より起算する。
(10) 権利濫用禁止条文の導入
改正法では、上記の通り権利行使の容易化が図られる一方、権利の濫用を明確に禁止する条文も盛り込まれた。また、専利権を濫用し競争を排除・制限する独占行為は、独占禁止法による処理の対象となることが明記された。
本条第 1 項に類似する規定として、昨年の商標法改正では、第4条に、使用を目的としない悪意の商標登録を禁じる条文が加えられた。しかしながら、悪意の商標登録が拒絶・無効理由となっているのに対し、改正専利法の第 20 条は、拒絶・無効理由とまではされていない。そのため、本規定の実効性や、実務においてどのような場面で活用されるかは不明である。
また、第 1 項では更に専利権の濫用を禁止しているが、どのような行為が「濫用」とみなされるかの定義が不明である。2017 年に北京市高級人民法院が公表した「専利侵害判定指南」では、専利権濫用の抗弁が認められる状況として、国家標準・業界標準等に含まれる技術であることを知りながら専利出願した場合、実験データや効果等を捏造した場合、外国の特許文書に公開された内容を出願した場合等が挙げられている。また、専利権が訴訟中に無効審判で無効にされたことをもって、安易に専利権の濫用と認定してはならない、とも規定されている。これらの規定を見る限り、不正な出願により取得された権利の行使が問題とされているように思われる。本条については、明らかな無効理由を有する専利権の行使が「濫用」とみなされるかなどの疑問点が残されており、今後の運用が注目される。
第 20 条(新設)
専利出願と専利権の行使は信義誠実の原則を遵守しなければならない。専利権を濫用して公共利益又は他人の合法的な権益に損害を与えてはならない。
専利権を濫用して競争を排除し又は制限し、独占行為を構成した場合、「中華人民共和国独占禁止法」に従って処理する。
2.意匠権による保護の強化
(1) 部分意匠制度の導入
意匠の保護対象に関する規定が、「意匠とは、製品の全体又は部分の形状、図案又はその結合及び色彩と形状、図案の結合」と変更され、部分意匠制度が導入された。現時点では制度の詳細は不明であるが、改正法施行までに関連の審査指南等が整備され、運用ルールが明らかにされるものと思われる。
部分意匠制度は、改正内容の審議過程において、しばらく改正項目から外されていたが、最終段階になって復活し、導入決定に至ったものである。
第 2 条第 4 項(改正)
意匠とは、製品の全体又は部分の形状、図形又はその組み合わせ、及び色彩と形状、図形の組み合わせについて作り出された、美観に富み、工業的応用に適した新しいデザインを言う。
(2) 意匠権の存続期間の延長
意匠権の存続期間が、現行の出願日より 10 年から、出願日より 15 年へと延長された。これは、中国が加盟を検討しているハーグ協定の要求を満たすための改正になる。
第 42 条第 1 項(改正)
発明専利権の期限は20年とし、実用新案は10年とし、意匠権の期限は15年とし、何れも出願日から起算するものとする。
(2)意匠の国内優先権の導入
従来、意匠についてはパリ条約に基づく優先権主張しか認められていなかったが、国内出願と国外出願との公平を図る観点から、意匠の国内優先権制度が導入された。優先権主張のできる期間は、中国で初めて意匠出願をした日から 6 か月以内である。
第 29 条第 2 項(改正)
出願人は発明又は実用新案が中国で初めて出願された日から12ヶ月以内に、又は意匠が中国で初めて出願された日から6ヶ月以内に、国務院専利行政部門に同様の主題について出願する場合、優先権を享有することができる。
3.専利出願制度の調整
(1)新規性喪失の例外の適用要件の追加
新規性喪失の例外の適用要件に、「国家が緊急事態又は非常事態に陥り、公共の利益のために公開した場合」が追加された。これは、2020 年 7 月の全人代によるパブリックコメント募集時に初めて加えられた内容であり、SARS、新型コロナウィルス流行等の緊急事態、非常事態への対応を考慮した規定と考えられる。
第24条(改正)
専利出願する発明創造について、出願日前6ヶ月以内に、以下何れかの状況があった場合、その新規性を喪失しないものとする。
(1)国家に緊急事態又は非常事態が発生し、公共の利益のために初めて公開した場合。
(2)中国政府が主催する又は認める国際展示会で初めて展示された場合。
(3)規定された学術会議或いは技術会議上で初めて発表された場合。
(4)出願人の同意を得ずに、他人がその内容を漏洩した場合。
(2)特許期間調整制度の導入
出願から 4 年以上且つ実体審査請求から 3 年以上たって登録された発明専利権について、出願人の責めによらない不合理な審査の遅延に対し、保護期間の調整を申請できることが規定された。
第 42 条第 2 項(新規)
発明専利の出願日から起算して満 4 年、かつ実体審査請求日から起算して満 3 年後に発明専利権が付与された場合、国務院専利行政部門は、専利権者の請求に応じて、発明専利の権利付与プロセスにおける不合理的な遅延について専利権利期間の補償を与えることができるが、出願人に起因する不合理な遅延は除く。
(3)原子核変換方法が特許対象外に
第 25 条では、従来「原子核変換の方法を用いて取得した物質」が特許権の付与対象外である旨が規定されていたが、改正により、「原子核変換の方法」そのものも対象外であることが明記された。
第 25 条第 1 項(改正)
以下に掲げる各号には専利権を付与しないものとする。
(1)科学上の発見
(2)知的活動の規則及び方法
(3)疾病の診断及び治療方法
(4)動物と植物の品種
(5)原子核変換方法及び原子核変換方法を用いて取得した物質
(6)平面印刷物の図形、色彩あるいは両者の結合によって形成された、主に標識的な機能を有するデザイン
(4)優先権証明書の提出期限の緩和
特許及び実用新案について優先権を主張する場合の優先権証明書の提出期限が、出願から 3 ヶ月から優先日から 16 ヶ月に緩和された。なお、意匠の優先権証明書は、従来通り出願から 3 ヶ月以内に提出する必要がある。
第 30 条第 1-2 項(改正)
出願人が発明、実用新案について優先権を主張する場合、出願時に書面による声明を提出し、かつ最初に出願をした日から 16 ヶ月以内に、最初に出願した出願書類の写しを提出しなければならない。
出願人が意匠について優先権を主張する場合、出願時に書面による声明を提出し、かつ 3 ヶ月以内に、最初に出願した出願書類の 写しを提出しなければならない。
出願人が書面による声明を提出せず、又は期限が過ぎても出願書類の写しを提出しない場合は、優先権を要求しなかったものと見なす。
4.専利技術の実施及び活用の促進
(1)職務発明に関する事業体の権利・義務の明確化
改正後の第 6 条では、職務発明創造に基づき専利出願する権利及び専利権について、事業体が、職務発明創造の実施及び活用を促進すべく、法に則って処分を決定して良いことが明記された。
第 6 条第 1 項(改正)
当該事業体(訳注:企業・機関・学校・軍などの組織を意味する)の職務を遂行し又は主に当該事業体の物質的・技術的条件を利用して完成された発明創造は職務発明創造とする。職務発明創造の専利出願の権利は当該事業体に帰属し、出願が認可された後、当該事業体が専利権者となる。当該事業体は、関連発明の実施と活用を促進するよう、その職務発明創造に関する専利出願をする権利及び専利権を、法に基づいて処分することができる。
(2)職務発明の対価支給方式の多様化
職務発明創造に対する報酬に関する規第15条に、株式やオプション、配当等の方式により発明者・創造者に合理的な対価を与えることを奨励する旨が盛り込まれた。
第15条第2項(新設)
国は、発明者又は設計者が合理的にイノベーションによる収益を共有できるよう、専利権を付与された事業体が株式、オプション、配当等の方式を通じて財産権によるインセンティブを実施することを奨励する。
(3)開放式許諾制度の導入
改正法では、権利者が如何なる者に対してもその専利権の実施を許諾する旨を宣言し、実施料の支払い方法及び基準を明確にした場合、知的財産局はその旨を公告して、開放式許諾を実行することが規定された。なお、実用新案及び意匠について開放式許諾を行うためには、評価報告書の提供が必要である。書面により権利者に通知し、公告された方式及び基準に則って実施料を納めた者は、開放式許諾により当該専利の実施権を得ることができる。
また、開放式許諾の宣言を取り下げる場合、書面を提出し、知的財産局はこれを公告するが、この取り下げは既に与えられた許諾に対しては遡及効を有しない。
開放式許諾を推進するためのインセンティブとして、開放式許諾を宣言した専利権者は、許諾期間中の専利維持年金の減免措置を受けることができる。また、当該専利について、ライセンシーと実施料について協議の上、通常実施権を設定することができるが、独占的実施権または排他的実施権の設定はできない。開放式許諾に関する紛争が発生した場合であって協議により解決しない場合、国家知的財産局に調停を求めることができ、また、人民法院に訴訟を提起することもできる。
この制度は、専利技術の実施率向上のために、中国が諸外国の既存制度を研究した上で導入したものであり、本改正の目玉の一つとして取り上げられている。
第50条(新設)
専利権者は、書面にて国務院専利行政部門に如何なる団体又は個人にもその専利の実施を許諾する意思があると声明し、許諾実施料の支払方式、基準を明確にした場合、国務院専利行政部門はそれを公告し、開放式許諾とする。実用新案、意匠について開放式許諾声明をする場合、専利権評価報告書を提供しなければならない。
専利権者が開放式許諾声明を撤回する場合、その旨を記載した書面を提出し、国務院専利行政部門によって公告されなければならない。開放的許諾声明が公告を経て撤回された場合、それまでに与えた開放的許諾の効力に影響を与えない。
第 51 条(新設)
開放式許諾された専利を実施する意思のある如何なる団体又は個人は、書面にて専利権者に通知し、かつ公告された許諾実施料の支払方式、基準に従って許諾実施料を支払った場合、専利実施許諾を受けたとする。
開放的許諾期間中において、専利権者の納付すべき年金を相応に減免する。
専利権者は被許諾者と許諾実施料について協議した後で通常実施権を与えることができるが、当該専利の独占的実施権又は排他的実施権を与えてはならない。
第 52 条(新設)
当事者は開放式許諾の実施について紛争が生じた場合、当事者間の協議によって解決する。協議する意向がない又は協議しても解決できなかった場合、国務院専利行政部門に調停を請求することができるほか、人民法院に提訴することもできる。
(4)専利情報の公開促進
改正法では、知的財産局が専利情報を公衆に提供するサービスの構築に力を入れ、専利に関する基礎データを提供し、専利情報の伝達と利用を促進することが明記された。
第 21 条第 2 項(改正)
国務院専利行政部門は、専利情報公共サービス体系の構築を強化し、不備のない正確な専利情報を適時に公開し、専利の基礎データを提供し、定期的に専利公報を出版し、専利情報の伝播と活用を促進しなければならない。
5.薬品特許の保護
(1)薬品特許の存続期間延長
中国で販売許可を得た新薬に関連する発明について、販売許可審査にかかった期間を補償するために、特許権者の請求に応じて特許の権利期間を延長する。ただし、延長期間は 5 年を超えず、新薬販売後の有効期間は 14 年を超えないものとする。
第 42 条第 3 項(新設)
新薬の発売審査、評価、承認にかかった時間を補償するために、中国国内での発売許可を得られた新薬に関連する発明専利について、国務院専利行政部門は専利権者の請求に応じて権利期間の補償を与えることができる。補償の期間は 5年を超えないものとし、新薬発売後の専利権の合計有効期間は 14 年を超えないものとする。
(2)パテントリンケージ制度の導入
薬品の販売許可申請者と、関連特許の権利者又は利害関係人との間で、登録申請中の薬品に関連する特許権について紛争が発生した場合、関連当事者は、人民法院に訴訟を提起し、登録申請している薬品が他人の薬品に関する特許権の技術的範囲に属するか否かについて判断を求めることができる旨が規定された。国務院薬品監督管理部門は、規定の期間内に、人民法院の判決に基づいて、当該薬品に対する販売許可を一次停止するか否かを決定することができる。
また、薬品の販売許可申請者と、関連する特許の権利者又は利害関係者とは、当該紛争について、国務院専利行政部門(国家知的財産局)に行政裁決を求めることもできるとも規定された。
本条の新設は、パテントリンケージ制度の構築を意図したものであり、更に第 2 項では、国家薬品監督管理局(条文では「国務院薬品監督管理部門」と記載)と、国家知的財産局とが、薬品の販売許可承認、及び薬品の販売許可申請段階における特許紛争解決の具体的な連携方法を制定し、国務院の同意を経て実施することも明記された。これについては、既に国家薬品監督管理局と国家知的財産局との連名により「薬品特許紛争の早期解決メカニズムに関する実施弁法(試行)」案が公表され、パブリックコメント募集が行われている。
第 76 条(新設)
薬品の発売審査、評価、承認のプロセスにおいて、薬品発売許可の申請者と、関連専利権者又は利害関係人とが、発売許可申請中の薬品に関する専利権について紛争が生じた場合、関連当事者は、人民法院に提訴し、発売許可申請中の薬品の関連技術方案が他人の薬品の専利権の保護範囲に含まれているか否かについて判決を下すよう請求することができる。国務院薬品監督管理部門は、規定された期間内に、人民法院の効力を生じた裁判に基づき、関連薬品の発売許可を一時停止するか否かの決定を下すことができる。
発売許可申請者と関連専利権者又は利害関係人は、発売許可申請中の薬品に関する専利権紛争について、国務院専利行政部門に行政裁決を申し立てることもできる。
国務院薬品監督管理部門は国務院専利行政部門と共同して、薬品発売許可審査と薬品発売許可申請段階の専利紛争解決の具体的な連携方法を制定し、国務院に報告して承認を得てから施行する。
三.所感
第四回の専利法改正は、これまで三回の改正より、はるかに多い年数をかけて準備された。その主な理由は、職務発明関連規定、部分意匠制度、懲罰的賠償、行政部門の権限拡大、パテントリンケージ制度など、各方面からの議論を呼ぶ改正内容が多かったことにある。そうした議論の中で、6-7回にわたり公表された改正案の内容は刻々と変化し、最終的に現在の形に落ち着いた。
改正法の施行時期は 2021 年 6 月 1 日であり、法案の通過から施行までに十分な時間が取られている。これは、専利法改正に伴う実施細則や審査指南の改正、運用体制の整備に必要な時間を見込んでのことと思われる。施行に向けた運用ルールの制定等について、引き続き動向を注視し、情報が入り次第、皆様にお知らせしたい。