専利権付与・権利確定に関する行政事件の審理における若干の問題に関する規定/過去の判例の参照に関する指導的意見/2019年知的財産権10大事件/商業秘密侵害に関する司法解釈【中国】【特許】【商標】【判例】【最高人民法院】
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Shangcheng Newsletter Vol.17 (2020.09)
Shangcheng Newsletter Vol.17 添付資料(最高院権利付与・権利確定に関わる司法解釈)
<中国知財ニュース>
●国家知識産権局が 2020 年上半期の統計データを発表
●最高人民法院による商業秘密侵害に関する司法解釈の公表について
●国家知識産権局商標局 年末まで商標の審査期間を 4 ヶ月以内に短縮
●国家知識産権局が 2019 年専利 10 大審決を公表
●最高人民法院が過去の判例の参照に関する指導的意見を公表
●最高人民法院が 2019 年の知的財産権 10 大事件を公表
●専利法第四回改正の新たな改正案を公表
<特集>
●最高人民法院による「専利権利付与・権利確定に関する行政事件の審理における若干の問題に関する規定(一)」の公表について
<中国知財ニュース>
●国家知識産権局が 2020 年上半期の統計データを発表
2020 年 7 月 9 日に、国家知識産権局は、2020年上半期の特許・実用新案・意匠、商標、地理的表示、集積回路に関する統計データを発表した。
2020 年 1~6 月の中国における発明特許・実用新案・意匠の出願件数は合計 228.4 万件あり、うち中国国内の出願人による出願は 219.5 万件、国外出願人による出願件数は 8.9 万件であった。また、発明特許の出願件数は合計 68.3 万件で、登録件数は合計 21.7 万件であった。その内、国内出願人による発明特許の登録件数は合計 17.6 万件で、職務発明が 16.9 万件で全体の 96.0%を占め、非職務発明が 0.7 万件で 4.0%を占めた。
2020 年 1 月~6 月に国家知識産権局が受理した PCT 国際特許出願件数は 2.95 万件で、前年同時期に比べて 22.6%増加した。そのうち、国内出願人によるもの及び国外出願人によるものは、それぞれ 2.68 万件、0.27 万件であった。拒絶査定不服審判の請求件数は 2.62 万件、結審件数は2.57 万件で、無効審判の請求件数は 0.26 万件、結審件数は 0.43 万件となった。また、発明特許、実用新案及び意匠の審査期間は、それぞれ 20.3か月、6.4 か月、3.2 か月となった。
2020 年 1 月~6 月の商標登録出願件数は合計428.41 万件、商標登録件数は合計 262.9 万であった。商標登録の平均審査期間は 4.5 か月以内にとなった。また、2020 年 6 月末までの中国における有効商標登録件数は 2741.4 万件となった。中国出願人によるマドリッドプロトコルに基づく商標国際登録出願件数は 3875 件で、前年同時期に比べて 36.0%増加した。また、商標の各種審判事件の請求件数は 16.6 万件、結審件数は 19.2 万件となった。
2020 年 1 月~6 月に地理的表示商標が認められた件数は 364 件で、地理的表示製品専用標識を利用できる企業としては 322 社が新たに認可された。2020 年 6 月末までに、累計 2385 個の地理標識製品が承認され、8811 社の専用標識使用企業が認可され、累計 5682 件の地理的表示商標が登録された。
2020 年 1 月~6 月の集積回路配置設計登録出願件数は 5176 件で、前年同時期に比べて 78.2%増加し、また、5262 件の証明書が発行され、前年同時期に比べて 111.6%増加した。
●最高人民法院による商業秘密侵害に関する司法解釈の公表について
2020 年 9 月 11 日、最高人民法院は「商業秘密侵害の民事事件における法律適用に関する若干の問題の規定」を公表した。該司法解釈は、2020年 9 月 12 日より施行となった。
該司法解釈は全 29 条から成り、商業秘密の司法による保護の全体について規定している。主な内容としては、商業秘密として保護される情報の種類、商業秘密と認められるための要件、機密保持義務、侵害判断基準、侵害責任、民事と刑事の関係、及び関連手続きについて規定されている。
該司法解釈は、最高人民法院が 2007 年に公表した「不正競争防止法民事事件における法律適用の若干の問題に関する解釈」における商業秘密に関する規定を吸収して、より完全な規定として整理したものである。また、2019 年に改正された不正競争防止法において、商業秘密侵害の損害賠償に関する規定が拡充されたことを受けて、侵害行為の停止や、損害賠償額の算定等について、より詳細な規定を設け、商業秘密の司法による保護の強化をはかっている。なお、懲罰的賠償については、最高人民法院において関連の司法解釈を準備中のため、今回の司法解釈では触れられていない。
●国家知識産権局商標局 年末まで商標の審査期間を 4 ヶ月以内に短縮
国家知識産権局商標局局長は、7 月 28 日に開かれた商標登録制度の利便性向上に関するイベントにおいて、近年の中国における商標登録制度の改革により、商標の審査効率が大幅に向上し、審査の質が向上したことについて述べた。現時点では、25 種類の商標手続きについてオンラインで直接行うことができる上、全国 212 か所の商標受理窓口で手続きをすることも可能であり、そのうち103 か所の窓口では商標権に対する質権設定・融資業務を取り扱っている。
また、商標登録出願の平均審査期間は既に 4 ヶ月 11 日に短縮されており、これは、同様の商標登録制度を採用する国家の中でも高いレベルに達している。商標局は、年末までに商標出願の審査期間を 4 ヶ月以内に短縮し、異議申立の審査期間を法定審査期間より 1 か月早くし、拒絶査定不服審判及び他の業務の審査期間をさらに短縮することを目標としている。また、年内に商標の異議申立、無効審判などのオンライン申請機能をオープンする予定である。同時に、商標の悪意の登録行為に対しては引き続き強く取り締まる姿勢を保ち、市場における公平な競争秩序の維持を図る。
●国家知識産権局が 2019 年専利 10 大審決を公表
国家知識産権局は、毎年、その年に出された審決の中からモデル的なケースを選んで、各年度の10 大審決として公表している。
4 月 26 日、国家知識産権局は、2019 年の専利10 大審決を公表した。10 大審決には 9 件の無効審判審決と 1 件の拒絶査定不服審判審決が含まれ、9 件の無効審判審決のうち、6 件は発明特許、2 件は実用新案、1 件は意匠に関するものであった。
毎年の 10 大審決の公表は、選出された審決の模範的な役割を十分に発揮させるものであり、拒絶査定不服審判・無効審判に関する審査基準の理解を深め、その判断基準をより正確に把握することによって、特許代理業務の全体的な品質向上にも役立つものである。
●最高人民法院が過去の判例の参照に関する指導的意見を公表
2020 年 7 月 27 日、最高人民法院は「統一的法律的適用の強化のための類似事件検索に関する指導的意見(試行)」を公表した。この「意見(試行)」の規定は、7 月 31 日より試行が開始された。
今回の「意見(試行)」が公表された背景として、類似の事件に対し異なる裁判所により異なる判断が下される事象がしばしば起こり、広く社会の注目を集めていたことがある。そのため、中国は米国のような判例法をとってはいないものの、最高人民法院では、2010 年以降、各地の裁判所の事件審理において過去の判例を参照し、判断を統一しようとする方針を打ち出して来た。具体的に、2010 年に公表された「判例による指導に関する規定」、及び2015 年に公表された同規定の実施細則では、事件を審理する裁判官が、最高人民法院が選定し公表した指導的判例を検索し、類似の事件については指導的判例を参照して判断した上で、判決理由中にその旨を記載することが求められている。また、最高人民法院及び一部の地方人民法院では、近年、類似判例検索機構が設立され、事件審理時に過去の判例を検索することが行われてきた。
7 月に公表された「意見(試行)」は、このような判例検索制度を更に拡充し、以下のような統一的基準を設けるものである。
1.判例検索を行うべき事件
まず、判例検索を行うべき事件について、主席裁判官会議又は裁判委員会で討論される事件、明確な裁判ルールがない又は未だ統一的な裁判ルールが形成されていない事件、人民法院長・法廷長が権限に基づき検索を要求した事件、及び、その他検索が必要な事件であると定められた(第 2条)。特に「その他検索が必要な事件」は幅広い判例を含み得る規定であり、実務において、どの程度の事件に対し検索が行われるかは注目に値する。
2.検索すべき判例
次に、この検索は、中国裁判文書ネット、裁判判例データベース等を利用して行われ(第 3 条)、以下の順序で実施されることが規定された(第 4 条)。
(1)最高人民法院の公表した指導的判例
(2)最高人民法院の公表した典型的判例、及び既に発効した判決
(3)当該地域の高級人民法院が公表した参考判例及び既に発効した判決
(4)上級人民法院又は当該法院の発効した判決
ここで、(1)の指導的判例以外は、直近 3 年間の判例を優先して検索し、類似判例が見つかった場合、検索順序がそれより後の判例については検索しなくて良いとされた。
従来の「判例による指導に関する規定」では、最高人民法院の指導的判例についてのみ、検索・参照が求められていたが、今回の「意見(試行)」では、最高人民法院の典型判例やその他の判例、更に、検索を行う裁判所の所属地域の判例等が検索対象に加えられた。
3.検索された判例の扱い
「意見(試行)」では、検索された類似判例が上記(1)の最高人民法院の指導的判例である場合、新たな法律、行政法規、司法解釈と矛盾する場合や、新たな判例により置き換えられた場合を除き、その判旨を参照して判断を行うべきとされた。また、検索された類似判例が上記(2)~(4)に属する場合には、審理の参考としてよいことが定められた(第 9 条)。
この規定については、主に2つの論点が存在する。
一つめは、検索された判例との類否の判断基準である。「意見(試行)」では、基本的事実、争点、法律適用等の面で類似性を有する判例を、類似判例とすると規定している(第 1 条)。また、検索された判例と審理中の事件とが類似するか否かは、担当裁判官が決定するとされている(第 6 条)。今後の訴訟実務においては、裁判官が検索した、又は当事者側が提出した判例と、審理中の事件との類否判断が争点になることが増加すると考えられる。
二つめは、判例の拘束力である。中国が判例法をとっていない以上、いかなる判例も法的な拘束力は有しない。しかしながら、最高人民法院は、先に出された「判例による指導に関する規定」から今回の「意見(試行)」まで一貫して、最高人民法院の指導的判例と類似する事件については、当該判例を「参照」して判断すべきと定めている。この「参照」のレベルについては、中国国内でも議論となっているが、「意見(試行)」において、指導的判例以外の判例は審理の「参考」としてよいと規定されていることを考えれば、指導的判例に一定の事実上の拘束力があることは明らかである。なお、最高人民法院の「意見(試行)」制定の責任者も、記者会見において、「指導的判例は明らかに拘束力を有する」と述べている。
4.当事者による判例の提出
「意見(試行)」によれば、訴訟当事者及びその代理人等が、(1)の指導的判例に基づく主張を行った場合、人民法院は判決文に、当該判例を参照したか否か、及びその理由を記載しなければならない。訴訟当事者及びその代理人等が、(2)~(4)の判例を挙げた場合には、釈明等の方法で回答することができる(第 10 条)。
従って、今後の訴訟実務においては、自らに有利な判例を検索し、証拠として裁判所に提出するという現在も行われている手法が、より有効になると考えられる。ただし、当事者が(2)~(4)に属する判例を提出した場合の釈明等による回答は義務ではなく、また、「釈明」は書面ではなく口頭でも良いとされる可能性もある。提出した判例が、実際にどの程度まで裁判官に考慮してもらえるかは、今後の運用で明らかになるであろう。
5.まとめ
上述の通り、今回の「意見(試行)」では、これまで検索・参照が求められていた最高人民法院の指導的判例に加え、最高人民法院及び地方の人民法院の幅広い判例が、検索対象に加えられた。審理中に検索を行うべき事件には一定の条件があり、全ての事件において判例検索が行われるわけではないが、人民法院の審理における判例重視の傾向が一層強まることが予測される。また、当事者の過去の判例に基づく主張・抗弁が、これまで以上に効果的となり、過去の判例の検索と利用が訴訟戦略において更に重要になっていくものと思われる。
●最高人民法院が 2019 年の知的財産権 10 大事件を公表
4 月 26 日、最高人民法院は 2019 年の知的財産権 10 大事件を公表した。知的財産権 10 大事件には、行政訴訟と刑事訴訟それぞれ 1 件と、民事訴訟 8 件とが含まれる。以下に、そのうちで特に注目に値する、本田技研工業株式会社(以下、本田社とする)と重慶恒勝鑫泰貿易有限公司(以下、恒勝鑫泰社とする)、重慶恒勝グループ有限公司(以下、恒勝グループとする)との間で争われた商標権侵害紛争事件について、簡単に紹介させて頂く。
2016 年 9 月、本田社は、恒勝鑫泰社、恒勝グループがその商標権を侵害していることを理由とし、雲南省德宏タイ族チンポー族自治州中級人民法院(以下、中級人民法院と称する)に訴えを提起し、被告 2 社が直ちにその商標権侵害行為を停止し、且つ自社の経済的損失 300 万元を賠償することを命じるよう求めた。被告 2 社は、その行為が OEM加工であり、権利侵害にならないと主張した。
中級人民法院は、審査を経て、被告 2 社が本田社の登録商標と同一又は類似する商品において「HONDAKIT」の 文字及び図形商標を使用し、且つ「HONDA」の文字部分を突出して使用しているため、原告の登録商標の専用権を侵害していると判断した。これに基づき、中級人民法院は、被告 2社が原告の侵害行為を直ちに停止し、原告の経済損失 30 万元を賠償する旨の判決を下した。
恒勝鑫泰社、及び恒勝グループは一審判決を不服として、2017 年に雲南省高級人民法院に上訴した。雲南省高級人民法院は、審査を経て、恒勝グループ(恒勝鑫泰社は恒勝グループの子会社である)による OEM 製品の製造行為は、ミャンマーで商標に関する権利を有する者からの合法的な許諾を得ているため、本田社の商標専用権を侵害していない。また、中国商標法は、法律に基づき中国で登録された商標権のみを保護するものであり、本件に係る製品はミャンマーで流通しているため、「HONDAKIT」における「HONDA」部分の文字が突出して使用されたか否か、ミャンマー国内の関連公衆に商品の出処に対する誤認を引き起こさせやすいか否かなどの 問題は、中国商標法の評価の範囲外である。従って、雲南省高級人民法院は、一審判決を取り消し、本田社の訴訟上の請求を却下した。
本田社は二審判決を不服として、最高裁に再審を請求し、二審判決を取り消し、一審判決を維持するよう求めた。最高裁は、審査を経て、恒勝グループの行為は OEM 加工であると認定した。しかし、電子商取引やインターネットの発展により、例えイ号品が国外へ輸出されたとしても、国内市場に還流する可能性も存在する。また、中国経済の発展に伴い、海外にいて旅行や消費を行う中国消費者の人数も多いため、OEM 製品の場合でも、中国消費者が接触し、誤認を生じる可能性が存在する。また、恒勝グループは、その 製造、販売した被疑侵害オートバイで使用された「HONDAKIT」文字及び図形商標について、「HONDA」の文字部分を大きくし、「KIT」の文字部分を小さくしたとともに、字母「H」と翼状に近い部分に赤色を付しているため、本田社の 3 つの商標と同一又は類似する商品における類似商標の使用と見なされ、関連公衆の混同と誤認を引き起こす可能性がある。上記の理由に基づき、最高裁は、雲南省高級人民法院による二審判決を取り消し、中級人民法院による一審判決を維持する判決を下した。
インターネット時代において中国経済が絶え間なく発展している現状を背景に、本判決では、従来の最高裁の「OEM 加工行為は商標権侵害行為とならない」との見解が、「OEM加工も商標権侵害行為になる」へと変更された。この変化は、今後の裁判所の関連事件における判決でも踏襲されることになるだろう。
●専利法第四回改正の新たな改正案を公表
2020 年 7 月、中国全国人民代表会議は、専利法の新たな改正案(第二次審議案)を公表し、パブリックコメントを募集した。
専利法の第四回改正は、 2011 年 11 月から準備作業が開始され、 国家知識産権局で作成した改正案が国務院に送られて、全国人民代表会議で検討される段階まで進んだ。その後、全国人民代表会議は、 2019 年 1 月に審議稿を公表してパブリックコメント募集を行ったが、改正内容が確定せず、今般、全国人民代表会議による第二次審議案の公表と、再びのパブリックコメント募集が行われることとなった。
第二次審議案における主な改正点は以下の通りである。今回の改正案では、特に、前回の審議案では削除されていた部分意匠制度を導入する改正案が復活したこと、コロナウィルス問題等に関連して新規性喪失の例外規定が拡充されたこと、薬品特許のパテントリンケージ制度が導入されたこと、特許期間調整制度が導入されたこと等が注目される。
なお、以下の括弧書きにおいて、「新設」は、前回 2019 年 1 月の審議案には含まれていなかった項目、「継続」は、 2019 年 1 月の審議案から特に変更のない項目、「変更」は、 2019 年 1 月の審議案から内容に変更のあった項目を示す。
(1) 意匠制度の改革
・意匠の保護対象が、「製品の全体又は部分の形状、図案又はその結合及び色彩と形状、図案の結合」へと変更され、部分意匠制度が導入される(第 2 条:新設)。
・意匠の国内優先権制度が創設され、優先権主張可能期間は最初の国内意匠出願から 6 ヶ月とされる(第 29 条:継続)。
・意匠権の保護期間が、現行の 10 年から 15 年へと延長される。なお、いずれも出願日から起算される(第 42 条:継続)。
(2) 専利権による保護に関する改正
・原子核変換方法及びそれにより得られた物質は特許権付与の対象外であることが明記される(第 25 条:継続)。
・新規性喪失の例外適用要件に、「国家が緊急事態又は非常事態に陥り、公共の利益のために公開した場合」が追加される(第 24 条:新設)。
・優先権証明書提出期限の延長。現行では出願から 3 カ月以内である優先権証明書の提出期限が、特許・実用新案については、出願から 16 カ月以内に延長される。意匠については、現行通り、出願から 3 カ月以内に提出することとされる(第 30 条:継続)。
・特許期間調整制度の導入。出願から 4 年以上且つ実体審査請求から 3 年以上たって登録された専利権について、出願人の責めによらない不合理な審査の遅延に対し、保護期間の調整を申請できるとする(第 42 条:新設)。
(3) 薬品特許に関する改正
・中国で販売許可を得た新薬の発明について、販売許可審査にかかった期間を補償するために、特許権者の請求に応じて特許期間を延長する。ただし、延長期間は 5 年を超えず、新薬販売後の有効期間は 14 年を超えないものとする(第42 条:継続)。
・パテントリンケージ制度の導入。特許権者又は利害関係人は、(後発薬品申請者により)販売申請された薬品に関する技術が、中国薬品販売特許情報登録プラットフォームに掲載された関連の特許権の権利範囲に入ると考える場合、国務院薬品監督管理部門が薬品の販売許可申請を公布した日から 30 日以内に、人民法院に訴訟を提起するか、国務院特許行政部門に行政裁決を請求できる。また、特許権者又は利害関係人が当該期間内にそれらのアクションを起こさなかった場合、薬品の販売許可申請者が、自らの販売申請した薬品に関する技術が、当該特許権の権利範囲に入らないことを、人民法院又は国務院特許行政部門に確認できる。(第 75 条:新設)
・人民法院又は国務院特許行政部門は、上記の提訴・請求を受理してから 9 か月以内に判決又は裁決を下し、国務院薬品監督管理部は、技術審査を通過した化学薬品の販売許可申請に対し、当該判決又は裁決に基づいて、許可するか否かを決定してよい。当事者が国務院特許行政部門の裁決に不服である場合、裁決の受領から 15 日以内に人民法院に起訴することができる。(第75 条:新設)
・国務院薬品監督管理部門は、国務院特許行政部門と、薬品の販売許可承認、及び薬品の販売許可申請段階における特許紛争の解決の具体的な連携方法を制定し、国務院の同意を経て実施する(第 75 条:新設)。
(4) 権利行使に関する改正
・懲罰的賠償の導入。故意に専利権を侵害し、その状況が深刻である場合、裁判所は、権利者が受けた損害、侵害者が得た利益又はラインセス料の数倍の額のいずれかに基づいて算出された金額の 1~5 倍の懲罰的賠償を課して良いことが規定される(第 71 条:継続)。
・権利者が受けた損害、侵害者が得た利益又はラインセス料に基づく賠償額の算定が困難な場合に裁判所が状況に基づいて決定するいわゆる法定賠償額が、現行の 1 万元以上 100 元以下から、 500 万元以下へと引き上げられる。ただし、下限額は定められない(第 71 条:変更)。
・人民法院は、賠償額の算定にあたり、権利者が既に挙証に尽力しており、且つ、侵害行為に関する帳簿や資料が主に侵害者により保持されている状況下において、侵害者に侵害行為に関する帳簿や資料を提供するよう命じることができるようにする。侵害者が提供しない場合や、虚偽の帳簿や資料を提供した場合には、権利者の主張及び提供した証拠を参考にして賠償額を決定してよいとされる(第 71 条:継続)。
・権利行使における信義誠実の原則、権利濫用の禁止が明記される。また、特許権を濫用し競争を排除・制限する独占行為は、独占禁止法の対象となることが明記される(第 20 条:変更)。
・実用新案及び意匠権の侵害をめぐる行政ルート又は司法ルートにおける審理の証拠として、権利者、利害関係人又は被疑侵害者が、自発的に専利権評価報告を提出してもよいことが明記される(第 66 条:変更)。
・民法改正において訴訟時効が 3 年に延長されたことに伴い、専利権侵害の訴訟時効が、侵害行為及び侵害者を知った日又は知り得べき日から 3 年へと延長される(第 74 条:変更)。
(5) 開放許諾制度の創設
・専利権者が書面により国務院専利行政部門に自らの専利権の実施を何人にも許諾する旨を声明し、使用料の支払い方式及び基準を明確にした場合、国務院専利行政部門はこれを公開して、開放許諾を行う。実用新案及び意匠に関する開放許諾の声明には、技術評価書の添付が必要である(第 50 条:継続)。
・何人も、権利者に書面で通知を行い、公告された方式及び基準に従って許諾使用料を支払いさえすれば、 開放許諾された専利権の実施許諾を得ることができる。また、開放許諾期間中に協議を行い通常実施権を与えてもよいが、独占的又は排他的実施権を与えることはできない(第 51 条:変更)。
・開放許諾に関する紛争が協議で解決しない場合、人民法院に起訴することができる(第 52 条:変更)。
(6) 行政権限の拡大
・国務院専利行政部門(即ち、北京の国家知的財産権局)は、専利権者又は利害関係人の請求により、全国に重大な影響力を有する専利権侵害事件を処理することができ、地方の専利管理部門(即ち、地方の知的財産権局)は、専利権者又は利害関係人の請求により、専利権侵害事件を処理することができる。また、同一行政区域内の同一の専利権に関する侵害事件は併合して処理することができ、同一の専利権に対する区域を跨った侵害事件は、より上級の人民政府の専利管理部門に処理を請求することができる(第 70 条:継続)。
<特集>
●最高人民法院による「専利権利付与・権利確定に関する行政事件の審理における若干の問題に関する規定(一)」の公表について
最高人民法院は、2020 年 9 月 10 日、「専利権利付与・権利確定に関する行政事件の審理における若干の問題に関する規定(一)」を公表した。該司法解釈は、2020 年 9 月 12 日から施行された。
司法解釈の名称にある「専利権付与に関する行政事件」は拒絶査定不服審判の審決取消訴訟、「専利権利確定に関する行政事件」は無効審判の審決取消訴訟をそれぞれ意味する。従って、本司法解釈は、特許・実用新案・意匠の審決取消訴訟全般に関するものである。
本司法解釈については、2018 年 6 月 1 日と2020 年 4 月 28 日に二度のパブリックコメント募集が行われ、二度目のパブリックコメントの締め切りから数か月後に正式版が公表された。最終的に公表された司法解釈の内容には、二度のパブリックコメント募集時に示された草案のいずれとも異なる部分があり、検討過程で比較的大きな調整がなされたことが伺える。特に意見募集時に各界から反対意見が出されたり、議論の焦点となった文言については、最終稿において削除されたり、曖昧な表現へと変更された部分もある。
本司法解釈の内容において特に注目されるのは、行政訴訟における請求項の用語解釈の原則、明細書の実施例等における捏造・変造に対する扱い、補充実験データの扱い等に関する規定である。また、特許の権利化・無効過程における人民法院の権限が拡大したことも大きな特徴である。無効審判の審決取消訴訟において、特定の条件下で、人民法院が事件を審判段階に差し戻すことなく、直接審決を取り消す判決を出せるようになった。
以下、本司法解釈のうち特に重要と思われる内容を紹介する。また、添付に司法解釈全文の和訳を掲載する。
1.請求項の用語の解釈について
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第 2 条:人民法院は、所属技術分野の技術者が専利請求の範囲、明細書及び添付の図面を閲読した後に理解する通常の概念により請求項の用語を解釈すべきである。請求項の用語について、明細書及び添付の図面に明確な定義又は説明がある場合は、それに従って解釈する。 第 3 条:人民法院が専利の権利確定に関わる行政事件において請求項の用語を解釈するにあたっては、専利権侵害民事事件の効力を生じた判決において採用された専利権者の関連する陳述を参照することができる。 |
第 2 条では、審決取消訴訟における請求項中の用語の解釈に関する原則が示された。初期の草案では、拒絶査定不服審判に対する審決取消訴訟と無効審判に対する審決取消訴訟について、異なる規定が設けられていたが、最終稿では統一された原則が示された。即ち、請求項の用語の解釈にあたっては、当業者が請求項、明細書及び図面から理解する通常の観念がもっとも重視され、それによって解釈できない場合には、教科書等の外部資料が参照される。なお、草案では更に出願包袋を参照してよいとの文言があったが、最終稿からは削除された。
また、第 3 条では、無効審判の審決取消訴訟において、当該特許の侵害訴訟における権利者の陳述も参考にできることが規定された。侵害訴訟に関する 2016 年の司法解釈では、既に、侵害訴訟において審決取消訴訟の陳述を参照できることが規定されており、相互参照の体制が整ったと言える。
2.明細書における捏造・変造について
|
第 5 条:当事者は、専利出願人、専利権者が信義誠実の原則に違反し、明細書及び添付の図面における具体的な実施形態、技術的効果及びデータ、図表等に関連する技術内容を捏造、変造したことを証明できる証拠があり、これに基づいて係る請求項が専利法の関連規定に合致しないと主張した場合、人民法院はこれを支持しなければならない。 |
第 5 条は、明細書及び図面中の実施形態、技術的効果及びデータ、図表等において捏造や変造があった場合、人民法院において当事者がその事実を立証すれば、専利法の関連規定の違反と判断されることが規定された。
この「専利法の関連規定」について、草案段階では、捏造や変造が専利法第 26 条第 3 項の十分な開示要件違反にあたると明記されていた。最終稿で採用された「専利法の関連規定」との表現について、最高人民法院の知財法廷責任者は、専利法第 26 条第 3 項の十分な開示要件、並びに専利法改正後に含まれる関連条文を含むと述べている。また、同責任者は、「専利法の関連規定」に違反する場合、無効理由にも拒絶理由にもなると述べており、第 5 条が拒絶査定不服審判及び無効審判の両方に適用されることがわかる。
なお、草案には、出願人又は権利者の「悪意」の捏造・変造との要件があったが、最終版からはこれが削除された。ただし、「信義誠実の原則に反して」との要件は残っており、本条の適用が認められるために、どのような内容・程度の立証が求められるかについては、今後の運用が注目される。
3.実施可能要件について
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第 6 条:明細書において特定の技術内容が十分に公開されていないため、専利出願日に次に掲げるいずれかの状況がある場合、人民法院は明細書及び当該特定の技術内容と関連する請求項は、専利法第 26 条第 3 項の規定に合致しないと認定しなければならない。 |
第 6 条第 1 項では、専利法第 26 条第 3 項の明細書による十分な開示を求める実施可能要件違反とされる類型が整理された。また、第 2 項において、明細書のサポート要件(特許法第 26 条第 4 項)と実施可能要件(特許法第 26 条第 3 項)との関係が示された。即ち、請求項に記載された発明が実施可能なまでに開示されていない場合、いずれの要件も満たさないと判断される。
4.実験データの補充について
| 第 10 条:薬品の専利出願人が出願日以降に補充実験データを提出し、当該データに基づき専利出願が専利法第 22 条第 3 項、第 26 条第 3 項等の規定に合致すると主張した場合、人民法院はこれを審査しなければならない。 |
第 10 条では、薬品に関する特許の審決取消訴訟において、人民法院が、進歩性、実施可能要件等を満たすために出願過程で補充された実験データを審理の対象とすることが規定されている。当該規定は、米中第一段階貿易協議の第 1 章第 3 節「薬品に関する知的財産」の第 1.10 条において、薬品特許の出願人が補充データにより実施可能要件及び進歩性を含む特許要件を満たすことを認めるとの規定と一致する。
また、本条の初期の草案では、化学発明全般が対象となっていたが、最終稿では薬品特許に限定された。一方、草案では、実験データ補充の目的が実施可能要件及び進歩性のみに限定されていたが、最終稿では「専利法第 22 条第 3 項、第 26条第 3 項等」として、適用範囲を広げる余地が残された。
5.進歩性判断における課題の確定
| 第 13 条:区別的技術特徴が請求項で記載された技術方案において果たすことができる技術的効果が、明細書及び添付の図面に明確に記載されていない場合、人民法院は、所属する技術分野の公知常識を結合し、区別的技術特徴と請求項におけるその他の技術的特徴との関係、請求項に記載された技術方案における区別的技術特徴の役割等を踏まえ、所属技術分野の技術者が確定可能な当該請求項の実際に解決する技術的課題を認定することができる。 訴えの対象となった審決が、請求項の実際に解決する技術的課題を認定していない又は誤って認定している場合、人民法院が法に基づき請求項の進歩性に対して行う認定に影響を与えない。 |
第 13 条第 1 項は、進歩性判断にあたり、人民法院が技術的課題を認定する権限を有することを規定し、その際の判断原則を示している。また、第2 項では、審決における課題の認定に不備がある場合、人民法院が改めて課題を認定する権限があることを強調した。
6.意匠の創作非容易性審査におけるデザインの余地について
| 第 14 条:人民法院は、意匠製品に関する一般消費者の知識水準及び認識能力を認定するにあたり、出願日における意匠製品のデザインの余地を考慮しなければならない。デザインの余地が大きい場合、人民法院は、「異なるデザインの間の小さな相違は、通常、一般消費者に注意されがたい」と認定できる。デザインの余地が小さい場合、人民法院は、「異なるデザインの間の小さな相違は、通前項にいうデザインの余地の認定について、人民法院は次に掲げる要素を総合的に考慮することができる。 (一)製品の機能、用途。 (二)先行デザインの全体的状況。 (三)慣用デザイン。 (四)法律、行政法規の強行規定。 (五)国家、業界の技術標準。 (六)考慮すべきその他の要素。 |
第 14 条は、意匠の創作非容易性の判断においてしばしば焦点となる「デザインの余地」の決定時に考慮すべき要素を列挙している。審査指南には「デザインの余地」に関する規定がないため、このような原則が示されたことには意味がある。ただし、列挙された考慮要素に目新しいものはなく、また、「(六)その他の考慮すべき要素」という包括規定もあるため、実務の大きな変更を伴うものではないと思われる。
7.意匠の創作非容易性について
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第 20 条:先行意匠から与えられるデザイン上の示唆により、一般消費者がデザイン特徴の転用、組み合わせ又は置換により、意匠の全体的な視覚効果と同一、又は局部の微細な相違しかないなどの実質的に同一な意匠を取得し、かつ独特の視覚効果を有さない場合、人民法院は、当該意匠と先行デザインの特徴の組み合わせとの比較において、専利法第 23 条第 2 項に定められた「顕著な相違」がないと認定しなければならない。
第 21 条:人民法院は、この規定の第 20 条にいう独特の視覚効果を認定するにあたり、次に掲げる要素を総合的に考慮することができる。 |
第 20 条では、意匠の創作非容易性を満たさない類型が列挙されている。審査指南にも類似の記載があるが、本条では類型がわかりやすく整理されている。また、第 21 条では、創作非容易性の判断における一般的な原則が示されており、デザインの余地、製品種類の関連度、転用・組合せ・置換されたデザイン特徴の数及び組み合せ難しさと合わせ等を考慮することが規定されている。
8.無効審決の取消判決について
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第 24 条:訴えを受けた審決が次の各号のいずれかに該当する場合、人民法院は行政訴訟法第70 条の規定に基づき、一部取り消しの判決を下すことができる。 第 25 条:訴えを受けた審決が当事者の主張する全ての無効理由及び証拠についての評価を記載した後に請求項の無効を宣告しており、人民法院が、訴えを受けた審決が当該請求項を無効と認定した理由がいずれも成立しないと認定した場合、当該審決の取り消し又は一部取り消しの判決をするべきであり、状況によって、被告に当該請求項について再び審決を出すよう判決を下すことができる。 |
第 24 条では、審決の一部に誤りがある場合、人民法院が事件を審判段階に差し戻さず、直接に部分取消の判決を行ってよいことが規定された。具体的には、審決に含まれる請求項のうちの一部の請求項に関する結論のみに誤りがある場合、多意匠一出願制度を利用した意匠出願の一部の意匠に関する結論のみに誤りがある場合、及び、その他の部分取消判決が可能な場合が規定されている。このうち、第 3 号の「その他の部分取消判決が可能な場合」は、適用範囲の広い包括的な規定となっている。
また、第 25 条では、審判請求人が主張した全ての無効理由及び証拠について審決にコメントした上で請求項を無効とする審決を下した場合であって、人民法院が、当該請求項に対する全ての無効理由が成立しないと判断した場合、審決の全部又は一部を取り消す判決を下すべきことが規定されている。
この条文に対しては、行政処分である特許・実用新案・意匠の登録の有効性を人民法院が判断し、判決により直接に対世効を有する決定ができることの是非が、大きな議論を呼んだ。特に草案段階では、国家知識産権局への差戻し判決は行わない旨が明記されたため、多くの反論が出された。最終的な条文では、この点について、「状況により被告(国家知識産権局)が当該請求項について改めて審決を下すよう判決してもよい」との文言が加えられている。なお、本条により直接に判決を下すことができるのは、無効の審決を受けた請求項を有効と判断する場合に限られ、権利維持の審決を覆して権利無効を判断する場合には、これまで通り審判段階への差戻しが必須である。
また、第 26 条では、差戻し判決を受けて再度出された審決に対し、新たな事実や理由を追加することなく再び訴訟が提起された場合には、訴えを却下することが規定された。これは、差戻し判決による審判と審決取消訴訟のループ現象を防止することを意図している。
9.訴訟段階で新たに提出された証拠の扱いについて
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第 29 条:専利出願人、専利権者が専利の権利付与・権利確定に関わる行政事件において、専利出願が拒絶されるべきではない又は専利権が有効に維持されるべきであることを証明するために新たな証拠を提出した場合、人民法院は一般的に審査すべきである。 (一)無効審判請求手続きにおいて既に主張した公知常識又は通常設計を証明するためのもの。 (二)所属技術分野の技術者又は一般消費者の知識水準及び認識能力を証明するためのもの。 (三)意匠製品のデザインの余地又は先行デザインの全体的状況を証明するためのもの。 (四)専利無効審判の審査手続きにおいて採用された証拠の証明力を補強するためのもの。 (五)他の当事者が訴訟において提出した証拠に反論するためのもの。 |
第 29 条及び第 30 条では、審決取消訴訟において出願人・権利者が新たに提出した証拠は原則として審理され、無効審判請求人が新たに提出した証拠は、公知常識を示す証拠や反証等の例外的なものを除き、審理されないことが規定された。これは、出願が拒絶されたり、権利が無効とされたりした場合、出願人・権利者が当該証拠について人民法院の判断を仰ぐ機会が失われるのに対し、無効審判請求人は改めて無効審判を請求すれば良いことを考えれば、納得できるものである。また、現在の実務でも、概ねこの方針に沿って証拠が扱われており、大きな変更を伴うものではないと思われる。
10.所感
本司法解釈は、専利の審決取消訴訟について公表された初めての司法解釈であり、その意義と影響力が大きい。各登録要件に関する規定には、既に公表されている侵害訴訟に関する司法解釈の規定を踏襲しているものもあるが、本司法解釈において新たな判断基準が示されたものも少なくない。
また、本司法解釈では、専利権の権利化及び無効に関する審判段階での実体的な判断に対する人民法院の権限が、大きく拡大されている(特に第13 条、第 24 条及、25 条等)。現在審議中の専利法第四回改正では、逆に、侵害事件の処分等における国家知識産権局の権限拡大が図られており、これらの動向は今後の注目に値する。