Newsletter Vol. 31(2026年10月)

  • 商標法司法解釈意見募集稿の公表/製品使用者に先使用権の援用認定(裁判例紹介)【中国】【特許】【商標】【訴訟】
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  • Shangcheng Newsletter Vol. 31 (2026-10)

<中国知財ニュース>                                             

  • ●商標法に関する2件の司法解釈意見募集稿の公表について
  • ●裁判例紹介:製品使用者にも先使用権の援用が認められた事件

<中国知財ニュース>                                             

  • ●商標法に関する2件の司法解釈意見募集稿の公表について

1.はじめに

2026年9月、最高人民法院は商標に関する2件の司法解釈の意見募集稿を同時に公表した。一つは、既存の司法解釈を改正する『商標の権利付与・権利確定に係る行政案件の審理における若干問題に関する規定(改正決定意見募集稿)(以下、『権利付与・権利確定の規定に関する意見募集稿』とする)、もう一つは、新たに作成された『〈中華人民共和国商標法〉の時間的効力の適用に関する若干規定(意見募集稿)』(以下、『時間的効力に関する意見募集稿』とする)である。

 

両文書は、2027年1月1日に施行される新『商標法』に付随して用意された司法解釈案である。前者の『権利付与・権利確定の規定に関する意見募集稿』は、長年の商標審判実務を踏まえ、既存の審決取消訴訟のルールを整備・最適化するものであり、商標の拒絶査定不服審判、商標登録不許可決定に対する不服審判、商標取消決定に対する不服審判、商標無効審判、商標無効審判不服審判の取消訴訟に適用される。後者の『時間的効力に関する意見募集稿』は、新たに制定される司法解釈であり、新旧『商標法』の過渡期において、条件ごとにいずれを適用すべきかのルールを明確にするものである。これらの司法解釈は、商標の出願戦略や審判・審決取消訴訟実務に影響を与えるため、出願人にとって重要である。

 

本稿では、両司法解釈の主な条文を紹介し、実務への影響を分析した上で、実務での対応について検討する。

 

2.『権利付与・権利確定の規定に関する意見募集稿』について

本意見募集稿は、2017年の『最高人民法院による商標の権利付与・権利確定に係る行政案件の審理における若干問題に関する規定』に対する体系的な改正を行うものである。『商標法』改正に合わせた条文番号や用語の修正に加えて、実体的な裁判ルールも更新・最適化し、司法解釈と新『商標法』の体系を整合させている。主な改正内容は以下の通りである。

 

(1)商標絶対的登録禁止事由に関する条項の詳細化

2017年司法解釈

権利付与・権利確定規定意見募集稿

第3条:

商標法第10条第1項第1号に定める中華人民共和国の国家名称等と「同一又は類似」とは、標章が全体において国家名称等と同一又は類似であることをいう。

 

 

 

 

 

中華人民共和国の国家名称等を含むが、全体においては同一又は類似ではない標章については、当該標章を商標として登録することで国家の尊厳を損なう可能性がある場合に、人民法院は商標法第10条第1項第8号に定める状況に該当すると認定することができる。

第3条: 

商標法第15条第1号に規定する「中国共産党の名称、党旗、党章、勲章若しくは重要な理論的成果、歴史的事件に関連する標識的要素等と同一又は類似するもの」及び同条第2号に規定する「中華人民共和国の国名、国旗、国章、国歌、軍旗、軍章、軍歌、勲章等と同一又は類似するもの」とは、標章が全体において前記の名称等と同一又は類似であることをいう。

 

商標法第15条第1号及び第2号に規定する名称等を含むが、全体においては同一又は類似ではない標章については、当該標章を商標として登録することで国家の尊厳を損なう可能性がある場合に、人民法院は商標法第15条第9号に定める状況に該当すると認定することができる。

 ①   改正のポイント

今回の改正は、新『商標法』の立法趣旨に合わせて、絶対的登録禁止事由の適用範囲と裁判基準を整備するものである。従来の商標法では、国家の名称、国旗、国章などが絶対的登録禁止事由とされていたが、新『商標法』では、党の名称、党旗、党章、勲章、重要な理論的成果及び重大な歴史的事件に係る象徴的要素が規制対象に追加された。ルール上は商標の全体対比原則を引き続き採用し、一部の要素が規制対象と同一又は類似であることだけを理由に商標登録を否定しないとの構えである。しかしながら、全体として同一又は類似ではない状況であっても、国家の尊厳を損なう恐れがある状況については登録が禁止されることが明確にされている。

 

  • ②    実務での対応

商標の構想・デザイン段階において、誤って中国共産党や国家の象徴的要素に類似する文字・図形等が含まれることがないよう、事前に調査・確認する。

 

(2)欺瞞的標章に関する条項における誤認対象範囲の拡大

2017年司法解釈

権利付与・権利確定規定意見募集稿

第4条:  

商標標章又はその構成要素が欺瞞性を帯び、容易に公衆に商品の品質等の特徴又は産地の誤認を生じさせ、商標審査委員会がこれを2001年改正の商標法第10条第1項第7号に定める状況に該当すると認定する場合、人民法院は、これを支持する。

第4条: 

商標標章又はその構成要素が欺瞞性を帯び、容易に公衆に商品の品質、製法、原材料等の特徴又は産地の誤認を生じさせ、国務院商標管理部門がこれを商標法第15条第8号に定める状況に該当すると認定する場合、人民法院は、これを支持する。

① 改正のポイント

従来の2017年の司法解釈では、欺瞞的標章に係る公衆の誤認対象は、商品の品質と原産地のみに限られていた。今回の改正では、これに製法・原料を追加して公衆誤認の保護範囲を拡張するとともに、引用する条文番号を調整した。

 

原料・製法が欺瞞的標章の審査対象に組み入れられることにより、従来の実務の原料・製法に関する誤認の認定基準が曖昧であった状況を改善し、事案の判断基準が統一された。

 

② 実務での対応

企業は商標をデザインする際、原料や製法に関する記述的用語を慎重に使用する必要がある。商標に当該表現が含まれる場合、審査過程の欺瞞的であるとの疑義に対応するために、原料・製法が商標で記述された通りであることを裏付ける証拠資料を事前に準備しておくことを推奨する。これら証拠資料を、実体審査段階で必ず考慮してもらえる保証はないものの、出願と同時に提出することも一案である。また、実体審査段階で審査官に考慮されなかった場合にも、不服審判段階において活用することができる。

(3)馳名商標の保護条項に反希釈化ルールを正式に導入

2017年司法解釈

権利付与・権利確定規定意見募集稿

第13条:  

当事者が商標法第13条第3項により、係争商標はそのすでに登録した馳名商標の複製、模倣又は翻訳にあたり、登録すべきではない旨、又は無効にすべきである旨を主張する場合、人民法院は、次の各号に掲げる要素を総合的に考慮し、係争商標の使用が、関連公衆にそれと馳名商標に相当程度の繋がりがあると認識させ、これにより公衆を誤った方向に導き、馳名商標登録者の利益が損害を被り得るに足るか否かを認定しなければならない。

 

 

 

(一)引用商標の識別性及び知名度

(二)標章が十分に類似しているか

(三)指定商品に関する状況

(四)関連公衆の重複度及び注意の程度

(五)引用商標に類似する標章がその他市場主体により適法に使用されている状況又はその他の関連要素

第13条: 

当事者が商標法第21条第2項により、係争商標はそのすでに登録した馳名商標の複製、模倣又は翻訳にあたり、登録すべきではない旨、又は無効にすべきである旨を主張する場合、人民法院は、以下の各号に掲げる要素を総合的に考慮し、係争商標の使用が、関連公衆にそれと馳名商標に相当程度の繋がりがあると認識させ、これにより馳名商標の識別力が希釈され、その市場における名声が毀損され、又はその市場における名声が不正に利用されることで公衆が誤認し、馳名商標保有者の利益が損害を被り得るに足るか否かを認定しなければならない。

 

(一)保護を求める商標の識別性及び知名度

(二)標章が十分に類似しているか

(三)指定商品に関する状況

(四)関連公衆の重複度及び注意の程度

(五)保護を求める商標に類似する標章がその他市場主体により適法に使用されている状況又はその他の関連要素

  • ① 改正のポイント

従来の2017年の司法解釈第13条では、馳名商標に区分を超えた保護を与えるか否かは、公衆を誤導するか否かを唯一の基準として認定されていた。今回の改正は、更に、馳名商標の顕著性を希薄化させること、馳名商標の市場的信用を毀損すること、馳名商標の市場的信用を不正に利用することという3類型に対する反希釈化規制事由を追加した。引用条文の番号は調整されているが、従来の5項目の考慮要素は、そのまま維持されている。

 

今回の改正により、反希釈化ルールが商標の権利付与・権利確定手続に導入された。馳名商標の保護は従来の混同・誤認という単一の基準から更に拡張され、中国の馳名商標司法の保護体系がさらに整備された。

 

  • ② 実務での対応

一般の事業者にとって、馳名商標の保護範囲が大幅に拡大するため、使用する商標を決定する時点で、知名度の高い馳名商標を自発的に回避する必要がある。商品または役務の区分が非類似であっても、他人の商標の顕著性を希薄化させたり他人の信用を不当に利用したりすることで、馳名商標の希釈化に該当すると判断される法的リスクに留意しなければならない。

 

馳名商標を保有する企業にとっては、区分を超えた保護を求める際に、新たな反希釈化ルールを利用することができ、混同・誤認の主張に限らず、自社ブランドの顕著性と市場的信用を全方位的に守ることが可能となる。

 

(4)先に使用され一定の影響力を有する商標の保護ルールの最適化

2017年司法解釈

権利付与・権利確定規定意見募集稿

第23条:  

先使用者が、商標出願人は当該先使用者がすでに使用しかつ一定の影響を有する商標について不正な手段で先取り登録している旨を主張するとき、先に使用している商標がすでに一定の影響を有し、商標出願人が当該商標を明らかに知り又は知るべきであった場合は、当該商標出願人が「不正な手段で先取り登録した」と推定することができる。ただし、商標出願人が先に使用されている商標の信用を利用する悪意がない旨を立証する場合は、この限りでない。

先使用者がその先に使用している商標に一定の持続した使用期間、地域、販売量又は広告宣伝がある旨を立証する場合、人民法院は、一定の影響を有すると認定することができる。

 

先使用者が、出願人は先使用者とは類似でない商品において、先使用者が先に使用しかつ一定の影響を有する商標を登録出願し、商標法第32条の規定に違反している旨を主張する場合には、人民法院は、これを支持しない。

第23条: 

先使用者が、商標出願人は当該先使用者がすでに使用しかつ一定の影響を有する商標について故意に先取り登録している旨を主張するとき、先に使用している商標がすでに一定の影響を有し、商標出願人が当該商標を明らかに知り又は知るべきであった場合は、当該商標出願人が「故意に先取り登録した」と推定することができる。ただし、商標出願人が、先に使用されている商標の信用を利用する悪意がない旨を立証する場合は、この限りでない。

 

 

先使用者がその先に使用している商標に一定の継続した使用期間、地域、販売量又は広告宣伝がある旨を立証する場合、人民法院は、一定の影響を有すると認定することができる。

 

 

先使用者が、出願人は先使用者とは類似でない商品において、先使用者が先に使用しかつ一定の影響を有する商標を登録出願し、商標法第24条の規定に違反している旨を主張する場合には、人民法院は、これを支持しない。

  • ① 改正のポイント

2017年司法解釈第23条では、規制対象を「不正な手段による先取り登録」と規定していた。本意見募集稿では当該行為を故意による先取り登録へ改め、条項番号を併せて調整している。なお、商標が「一定の影響力を有する」と認定されるための挙証の内容や、区分を超えた保護の制限ルールについては変更ない。

 

旧条文と比較し、「故意による先取り登録」は、行為の構成要件をより正確に表現している。本条は、主観的故意を有する先取り登録行為を規制することを明確にしており、司法実務における先取り登録行為の認定基準の統一に資する。

 

  • ② 実務での対応

企業が既に使用しているものの未登録の標章を有する場合、紛争に備えて、標章の継続的な使用、商品販売、ブランド宣伝などの証拠資料を計画的に保管しておく必要がある。紛争になった際は、相手が当該先使用標章を知っていた、または知り得たことを中心に挙証し、相手方の先取り登録の主観的故意を立証する必要があるが、一定の知名度を有する標章の場合には、相手の出願より前に当該標章が使用されメディアに露出しており、同業者である相手が知り得たことなどにより故意の主張・立証が認められるケースもある。

 

(5)事実認定時点のルールに2つの改正案を設置

2017年司法解釈

権利付与・権利確定規定意見募集稿

第28条:  

人民法院が商標権付与・確定行政案件を審理する過程において、商標審査委員会が係争商標に対して拒絶査定、登録不許可又は無効を決定した事由が存しないことが明らかになった場合、人民法院は、新たな事実により商標審査委員会の関連裁定を取り消し、かつ変更後の事実に基づき改めて裁定を下すよう命じる判決を下すことができる。

第28条: 

人民法院は、国務院商標管理部門が商標法第20条に基づいて行った拒絶査定不服審判の決定、商標登録拒絶査定不服審判の決定又は無効宣告の裁定を審理する場合、当該決定又は裁定が行われた時点の事実状態を基準としなければならない。

 

(第2案:国務院商標管理部門が係争商標の拒絶、登録不許可又は無効宣告の理由とした事由が、人民法院による商標の登録査定・権利確定に係る確定判決が出される前に消滅した場合、人民法院は、新たな事実に基づいて国務院商標管理部門の関連裁決を取り消し、変更後の事実に基づいて改めて裁決を行うよう命じることができる。確定判決が出された後に当該事由が消滅した場合、当事者がそのことのみを理由として再審を申し立てても、人民法院はこれを受理しない旨の裁定をする。)

  • ① 改正のポイント

従来の2017年の司法解釈第28条によれば、商標の審決取消訴訟において、商標審査委員会が裁定を行う根拠となった事由が消滅した場合、人民法院は新たな事実に基づき当該裁定を取り消し、行政機関に再裁定を命じることができるとされている。そのため、例えば商標登録の拒絶審決確定後に引用商標が不使用取消になった場合、審決取消訴訟において、その旨を主張して審決を覆すことができた。今回の意見募集稿第28条では、当該規定を改正する2つの案が提示され、広く意見を募集している。

 

案1(保守的な案):人民法院は事件を審理する際、対象となる行政決定がなされた時点の事実状態を基準とし、決定後に生じた事実の変動は考慮しない。

 

案2(現行ルールを継承し補完する案):人民法院が有効な判決を確定させる前に、裁定の根拠となる事由が消滅した場合、人民法院は新たな事実に基づいて、対象となる裁定を取り消し、再裁定を命じることができる。一方、有効な判決確定後に事由が消滅した場合、当事者は当該理由により再審を申し立てることはできない。

 

この2つの改正案は、業界で広く注目されている。案1は裁定時点の事実を判断基準として固定するため、判決の法的予測可能性が高い。案2は現行の仕組みに再審の制限を追加して、事案を蒸し返すことができる時間的な制限を明確にし、判決確定後の事実変動を理由とした再審申立てを防止することで、司法資源の節約を図っている。2つの改正案の価値観は大きく異なり、最終的に採用される内容は今後の実務戦略に直接影響する。

 

  • ② 実務での対応

案1が正式に施行された場合、現在実務で広く利用されている方法——行政訴訟段階で不使用取消・無効審判により引用商標を消滅させ、拒絶査定不服審判の決定を覆すこと——は実施できなくなる。その場合、拒絶査定不服審判の審理係属中に中止を申請し、不使用取消・無効審判などの審理結果を待つほかなく、商標の権利化のための戦略の見直しが必要となる。知的財産局が拒絶査定不服審判の審決を出した後は、訴訟段階で引用商標を消滅させても事件結果を変えることはできなくなる。

 

案2が正式に施行された場合、訴訟手続中に引用商標の権利が消滅すれば裁定の基礎事由が存在しなくなったものとみなされ、法院は当該新事実を採用して元の決定を取り消すことができるため、現行の実務上の戦略を引き続き活用可能である。

 

3.『時間的効力に関する意見募集稿』について

本意見募集稿は新旧『商標法』の過渡期における法律適用の問題を専門的に解決するものであり、異なる類型の商標事件に旧法・新法のいずれを適用すべきかを明確にしている。具体的な規定は以下の通りである。

 

  • (1)商標民事紛争事件(第1条)

- 法律事実が新法施行後に発生した場合、新『商標法』を適用する。

 

- 法律事実が新法施行前に発生した場合、当時の『商標法』及び司法解釈の規定を適用する。ただし、法律・司法解釈に別段の定めがある場合はこの限りではない。

 

- 法律事実が新法施行後まで継続する場合、新『商標法』を適用する。ただし、法律・司法解釈に別段の定めがある場合はこの限りではない。

 

(2)商標の権利付与・権利確定に関する行政訴訟(第2条~第4条)

- 商標拒絶査定不服審判及び商標不登録決定不服審判の取消訴訟:審決時に施行されていた『商標法』を適用する。(第2条)

 

- 商標無効審判及び無効審判不服審判の取消訴訟:登録査定時に施行されていた『商標法』を適用する。(第3条)

- 商標取消決定不服審判の取消訴訟:請求人が係争商標の取消を請求した時点、または国務院商標管理部門が職権により取消手続を開始した時点に施行されていた『商標法』を適用する。(第4条)

 

(3)商標行政処罰関連行政訴訟(第5条)

違法行為発生時に施行されていた『商標法』を適用する。ただし、行政処罰決定作成時に施行されていた『商標法』の罰則が軽い、または当該行為を違法としない場合、当該法律を適用する。

 

(4)その他

- 商標行政行為の手続的事項を審理する場合:当該行政行為時に施行されていた『商標法』を適用する。(第6条)

 

- 無効審判請求が審判請求期限を超過しているか審理する場合:登録査定公告日に施行されていた『商標法』を適用する。(第7条)

 

- 異議申立事件:初歩査定公告が新『商標法』施行前になされた場合、異議期間は旧『商標法』で定められた3ヶ月の異議期間が適用される。(第7条)

 

本意見募集稿は民事侵害事件、商標の権利付与・権利確定事件(無効宣告・不使用取消・拒絶査定不服審判)、行政処罰事件のそれぞれに法律適用の判断基準を定め、移行期における法律適用の混乱を効果的に防止するものである。

 

4.終わりに

上記2件の司法解釈の意見募集稿が正式に施行された場合、企業のブランド戦略、商標の権利付与・権利確定の対応方針などに一定の影響がある。特に、2つの案が示されている『権利付与・権利確定の規定に関する意見募集稿』第28条の動向は、実務への影響が大きく、注目される。

 

本件については、続報があり次第、皆様にお知らせいたします。



  • ●裁判例紹介:製品使用者にも先使用権の援用が認められた事件

1.はじめに

中国では毎年膨大な数の専利出願がなされており、これらを継続的に監視し、自社技術と抵触し得る全ての技術の権利化を阻止するのは、現実的に難しい。そのため、他社権利の侵害リスク管理の一環として、先使用抗弁の利用を検討する場面も、必然的に増加している。しかし、中国の専利侵害訴訟における先使用の抗弁には様々な制限があり、また、結論が明確になっていない論点も少なくない。

 

その一つとして、製品特許の先使用権については、専利法第75条に、専利出願日前に既に同様の製品を製造し、又はすでに製造、使用に必要な準備を終えており、かつ元の範囲内だけで引き続き製造する場合には専利権侵害とはみなされない旨が規定されている。しかし、先使用権の範囲内で製造された製品の使用、販売及び販売の申し出の行為に先使用権の援用が認められるか否かについては、これまで議論があった。本判決は、最高人民法院がこの先使用権の援用を明確に肯定したものであり、中国での侵害リスクを検討する外国企業にとって参考になる事例である。

 

2.事件情報

  • ●事件番号:(2022)最高法知行終839号
  • ●判決日:2023年4月
  • ●上訴人(一審第三者):淄博市臨淄広臨工贸有限公司(以下、「広臨社」とする)
  • ●被上訴人(一審原告):淄博中鵬環保科技股份有限公司(以下、「中鵬社」とする)
  • ●一審被告:淄博市市場监督管理局

 

3.事案の概要

(1)本件の経緯

一審原告の中鵬社は、考案の名称を「自己断熱ブロック用垂直切断専用装置」とする中国実用新案第210161266U号(出願日:2019年5月7日、登録日:2020年3月20日、以下「本件実用新案」とする)の権利者である。中鵬社は、同じ淄博市の広臨社が使用している製造設備が自らの実用新案権を侵害しているとして、2021年12月、淄博市市場监督管理局に対し行政差止めの請求を行った。

 

市場監督管理局による現場調査の結果、広臨社の工場では、本件実用新案の構成要件を充足する2台の装置が発見された。そのうち1台目には、常州市名杰建材设备制造有限公司(以下、「名杰社」とする)のプレートが付いており、広臨社は、2012年1月2日に名杰社と締結した売買契約書を提出して、合法的な出所から購入した製品であることを主張した。2台目については、出所が明らかにされなかった。

 

市場監督管理局は、行政処分に際し、2台の設備が中鵬社の実用新案権の全ての構成要件を満たすことは認めたが、広臨社には専利法第75条に規定の先使用権が認められるため、専利権侵害を構成しないとの裁決を下した。これに不服とした中鵬社は、山東省済南市中级人民法院に訴訟提起した。

 

(2)本件実用新案に係る考案

本件実用新案は、材料を発泡させる等によって断熱機能を持たせた建設用ブロックを、発泡・成形して型から取り出した後に、パレット上で垂直に切断するための装置に関する。

 

本件考案では、昇降プレートに設けられた支持プレートに回転可能に支持された回転軸をモータで左右に揺動させることで、回転軸に設けられた切断機構(鋼線)を上下左右に往復運動させてブロックを切断する。本件考案の目的は、発泡後まだ完全に乾燥していない、含水率が高く柔らかいブロックを、ひび割れが発生しないように正確に切断して、製品の歩留まりを向上することである。

 

本件実用新案の請求項1は以下の通りである。

 

【請求項1】

自己断熱ブロック専用垂直切断装置であって、

両側の底部に、長手方向に沿って複数組の支持プレート(2)が間隔をあけて設けられている、昇降フレーム(1)と、

2つの支持プレート(2)を垂直に貫通し、支持プレート(2)に回転可能に連結される、回転軸(3)と、

回転軸(3)の一端に設けられ、回転軸(3)を往復回転させるための駆動機構と、

隣接する2つの支持プレート(2)の間に設けられ、回転軸(3)に固定連結されている、切断機構と、

を含むことを特徴とする、切断装置。

 

【請求項2】

請求項1に記載の自己断熱ブロック専用垂直切断装置であって、

前記駆動機構は、モータ(4)、偏心軸受(5)、横揺動ロッド(6)、縦揺動ロッド(7)及び駆動架台を備え、

前記モータの出力軸は偏心軸受(5)に固定連結され、

前記横揺動ロッド(6)の第1端は偏心軸受(5)の外表面に固定連結され、前記横揺動ロッド(6)の第2端は駆動架台に回転可能に連結され、

前記縦揺動ロッド(7)の第1端は駆動架台にヒンジ連結され、前記縦揺動ロッド(7)の第2端は回転軸(3)に固定連結されていることを特徴とする、自保温ブロック用縦型専用切断装置。

(請求項3-4省略)

 

図1


4
.主な争点に対する裁判所の判断

本件の争点は、広臨社による装置の使用行為について、先使用の抗弁が成立するか否かである。以下、争点に関連する現行の法規定、及びそれに対する一審・二審裁判所それぞれの解釈と判断を紹介する。

 

4.1 関連法規定

中国の専利法第75条は、先使用の抗弁について、以下のように規定している。

 

第75条:

以下何れかの状況がある場合は、専利権侵害とはみなさない。

(1)省略

(2)専利出願日前に既に同様の製品を製造し、又は同様の方法を使用し、又はすでに製造、使用に必要な準備を終えており、かつ元の範囲内だけで引き続き製造、使用する場合。

(以下省略)

 

この条文からわかるように、先使用権が認められるのは、中国国内における「特許製品の製造」及び「特許方法の使用」という実施行為のみである。先使用権が認められる場合、先使用権者の行為については、損害賠償請求の対象とならないだけでなく、差止請求の対象にもならない。

 

4.2 一審裁判所の判断

一審の済南市中級人民法院は、市場監督管理局による行政裁決を覆し、広臨社による装置の使用が本件実用新案権を侵害すると認定した。その理由は、1台目の装置については、売買契約書により名杰社の製造に係るものであることが明確であり、広臨社の使用行為は専利法第75条に規定の「元の範囲内だけで引き続き製造、使用」と認定できるが、2台目の装置については出所が明らかではなく、先使用権が成立しないため侵害を構成する、というものであった。

 

4.3 二審裁判所の判断

二審審理において、広臨社は、2台目の装置には「東岳機械股份有限公司製造、出荷日:2013年3月2日」のプレートが付いており、2020年12月頃に中古市場から個人的に購入したものであることを明らかにした。そのため、二審では、2台の設備が本件実用新案権の権利範囲に属することには争いが無い状況において、2台目の設備のプレート及び購入時期に関する広臨社の主張が認められるか、更に、広臨社による装置の使用行為が侵害を構成するか否かが争われた。

 

まず、2台目の設備について、中鵬社は、プレートが後から付けられた可能性を主張したが、裁判所は、中鵬社の主張は証拠を伴わない疑義に過ぎず、認められないとした。そして、2台の装置の製造者について、先使用権が認められる状況において、広臨社の使用行為について先使用の抗弁が成立するかを判断した。

 

ここで、最高人民法院は、まず、専利法第75条の「専利出願日前に既に同様の製品を製造し、又は同様の方法を使用し、又はすでに製造、使用に必要な準備を終えており、かつ元の範囲内だけで引き続き製造、使用する場合」に規定された「元の範囲内だけで引き続き使用」は、方法特許の使用行為のみを指しており、本件のような専利出願日前に製造された製品の使用行為は含まないことを明確にした。そのため、広臨社による装置の使用が、専利法第75条の「元の範囲内だけで引き続き使用する場合」に該当するとした一審裁判所の認定は誤りであると述べた。

 

しかしながら、最高人民法院は、名杰社らが製造した装置を使用する広臨社の行為についても先使用権の援用を認め、侵害を構成しないと判断した。その趣旨について、判決では、「先使用権は、専利法上明文で規定された、主に抗弁という形で行使される権利であり、その主な目的は、正常な生産・事業活動を保護し、公平を実現するとともに、先願主義の制度上の不備を補完することにある。先使用権の上記の目的を実現するためには、先使用権者が従前の範囲内で製造する製品又は特許方法により直接得られる製品が、市場において正常に流通・取引されること、及びその取引の公平性と安全性を保護する必要がある。」と述べている。

 

その上で、「広臨社の使用する2台の装置は、いずれも合法的な出所を有するものであり、製造者が先使用権を有する場合、その者が従前の範囲内で製造した製品は侵害製品には該当せず、その後に当該製品を購入し使用する第三者についても、同様に特許権侵害は成立しない。」と判断した。ここからは、先使用権者が専利出願前に製造した製品に限らず、専利出願後に先使用権者が従前の範囲内で製造した製品の使用等の行為についても、先使用権の援用が認められると理解できる。判決では更に、援用を認める趣旨について、「仮に、その後の購入者又は使用者が、先使用権者が従前の範囲内で製造した製品又は特許方法により直接得られる製品を使用する行為について、特許権侵害が成立すると認定するならば、それは先使用権制度を設けた本来の趣旨に反することとなり、先使用権制度そのものが有名無実となってしまう。」と述べている。

 

5.コメント

本件判決では、先使用権を有する者が製造した製品を第三者が使用、販売又は販売の申し出する行為についても、先使用権の援用が認められ、専利権侵害を構成しないことが明確になった。

 

実際、本判決の前にも、最高人民法院は、特許侵害訴訟再審の裁決((2015)民申字第1255号)において、先使用権者の製造した製品を販売する代理店の行為に対し、先使用権の援用を認めている。当該裁決では、「本件において、製造業者は先使用権を有しているものの、当該製造業者は本件の被告ではなく、抗弁を行っているのは、当該製造業者の取引先である、被疑侵害製品の販売業者である。販売業者が合法的な出所を主張し、その提出した証拠を審査した結果、製造業者について先使用権が成立すると認定できる場合において、単純に製造業者を当事者として追加すること、又は販売業者による抗弁を退けることを求めるとすれば、一方では当事者の負担を増大させることとなり、他方では、先使用権を有する製造業者が製造した製品が適法に流通することとも整合しない。したがって、本件において、被疑侵害製品の販売業者は、製造業者が先使用権を有することを主張することができる。」と述べており、先使用権者の製造した製品の販売行為に先使用権の援用が認めると理解できるが、その趣旨を含めて明確且つ広範に論じたのは、本判決が最初である。

 

本判決により、先使用権者が製造した製品を購入・使用したユーザや、製品を販売・販売申し出する代理店の行為についても、先使用の抗弁が認められることが明らかになった。ただし、前提として、製造行為に対し先使用権が認められる必要がある点に注意すべきである。製品特許に対する先使用権が認められるのは、中国国内での製造行為に限られるため、たとえ専利出願前に製造開始された製品であっても、日本等の海外で製造された製品を中国に輸入・販売する行為や、それを購入したユーザが製品を使用等する行為については、先使用権の援用が認められない。また、製品の購入・使用者は、その購入経路を証明できるようにしておく必要がある点にも注意が必要である。

 

とは言え、先使用権の援用が認められることが明確に示されたのは、侵害リスクを検討する当事者にとって有益であり、実務の参考になる事例である。

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