裁判例紹介:中国初のAIプロンプト著作権侵害事件
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- 1. はじめに
生成AI利用の急速な拡大に伴い、AI生成画像が著作権保護の対象になるか否かが、世界中の裁判所で議論されている。中国では、近年のいくつかの裁判例を通じて、ユーザがプロンプトを設計・調整・修正の過程でAIの生成内容に対し実質的な知的労働を投入し、個性的な表現を有する成果物を形成した場合には、AI生成画像が著作物と認定され得る、との判断基準が示されている((2023)京0491民初11279号判決、(2024)蘇0582民初9015号判決等)。
そのような中、今般、上海市の地方裁判所から、AIに画像を生成させるための「プロンプト」が著作権保護の対象になるか否か争われた事件の判決が出され、注目を集めている。以下、事案の概要と裁判所の判断の要旨を紹介する。
2.事件情報
事件番号:(2025)沪0101民初14775号
判決日:2025年11月
原告:成都絵素文化伝播有限公司
被告:朱氏及び盛氏(個人)
3.事案の概要
原告企業は、AI画像生成ソフトMidjourney上で6組のプロンプトを用いて蝶やクラゲの画像を生成し(下図参照)、中国のSNSであるRedNote(中国語名:小紅書)等で公開した。

出典:https://mp.weixin.qq.com/s/WPM8hwKgqa8L9yWvTzyBCw
原告の使用したプロンプトの一例として、クラゲの画像を生成するプロンプトは、以下の通りであった。
「ArtNouveaustyleillustrationofAquamarinesStygiomedusagigantea,byAlphonseMariaMucha.Ancienthand-paintedmanuscripts,Papyrus,Complexanddelicatejellyfishtexture,Gorgeousgoldinlaidwoodenpictureframe,Mirrorsymmetry.」
上記プロンプトでは、アルフォンス・ミュシャ風のアール・ヌーヴォー様式で、アクアマリン色の巨大なクラゲ(スティギオメドゥーサ)を、古代の手描き写本(パピルス)のような質感で、繊細で複雑な生物表現とともに描き、豪華な金装飾の額縁や左右対称の構図で仕上げることが指定されている。
Midjourneyはオンラインで提供されているAI画像生成ソフトであり、ユーザはサイト上で他ユーザが生成した作品と、それに用いられたプロンプトを閲覧することができる。
原告は2022年8月に、朱氏及び盛氏がRedNote上で発表し刊行物に収録した画像(下図参照)が、自らが生成した上記の画像と酷似していることを発見し、Midjourneyのウェブサイトにて、それらの画像が、原告が提供したのと同じプロンプトを用いて生成されていることを確認した。

出典:https://mp.weixin.qq.com/s/WPM8hwKgqa8L9yWvTzyBCw
原告は、プロンプトは著作権法上の「文字による著作物」に該当し、朱氏及び盛氏の行為は原告の著作権(具体的には、複製権、頒布権、情報ネットワーク伝達権及び氏名表示権)を侵害するとして、上海市黄浦区人民法院に対し、侵害行為の差し止めと9,900元の損害賠償金の支払いを求める訴訟を提起した。
4.主な争点に対する裁判所の判断
本件の争点は、(1)生成AIのプロンプトは「文字による著作物」に該当するか、(2)被告の行為は権利侵害にあたるか、の2点である。以下、争点に関連する法規定、両当事者の主張、及び裁判所の判断を紹介する。
4.1 関連法規定
中国の著作権法第3条は、保護対象となる著作物を、以下のように定義している。
「第3条 本法にいう著作物とは、文学、美術及び科学分野において、独創性を有し、且つ一定の形式で表現することができる知的成果物をいい、次の各号に掲げる著作物が含まれる。
(一)文字による著作物・・・(後略)」
本件では、原告のプロンプトが、上記の「(一)文字による著作物」に該当するか否かが争われた。
4.2 当事者の主張
原告は、自らが使用したプロンプトは、本質的に表現性を有する創作的テキストであって、撮影用の脚本や舞台美術設計案等と似た性質を有しており、コンピュータへの指令やプログラムコードとは違って、自然言語による独創的な表現であり知的成果物である、等と主張した。
これに対し、被告は、①プロンプトは著作権法によって保護される作品には該当せず、プロンプトの作成は単なる語句の選択・組合せに過ぎず、創作行為ではない、②本件プロンプトは著作権法で保護される「表現」ではなく「思想」の範疇に属する、更に、③Midjourneyの利用規約では、ユーザが入力したプロンプトは原則としてパブリック・ドメインに入るとされており、他者がこれを利用することも許されている等と反論した。
4.3 当事者による立証
原告は、公証人の立ち合い下でMidjourneyにアクセスし、ログイン後のアカウント状態、サブスクリプション内容、利用規約を確認した上で、問題の6組のプロンプトを検索・表示する過程を記録した公正証書を提出した。
更に、開廷審理の場で、原告代理人が、当該プロンプトを入力してクラゲの画像を生成する過程を実演して見せた。
4.4 裁判所の判断
裁判所は、本件の生成AIプロンプトが著作物に該当しないと判断した。
その根拠として、まず、上記著作権法第3条の規定に基づき、著作物の本質は「独創性のある表現」にあり、著作物該当性は、①独創性を有するか、②「思想」ではなく「表現」に属するか、の2点から検討されるべきであると指摘した。
その上で、①について、本件プロンプトは論理的関係のない単語の集合に過ぎず、画風や素材等の指定も一般的な表現であって作者固有の審美判断や芸術的個性は認められず、十分な表現内容や深度を有していないため、独創的表現の水準に達していないと判断した。
次に、②について、中国の著作権法における「著作物」は、一般に「『思想』を表す『表現』」であるべきとされており、そのため、「思想」は保護の対象とならない。本件判決では、AIプロンプトは創作意図を伝える手段であり、多くの場合、「何を作らせるか」という指示にすぎず、「思想」に属すると認定した。より具体的には、詩のような独創的な文学表現をプロンプトとして用いる場合は、プロンプト自体が「表現」となり得るが、本件のプロンプトは画面要素やスタイルの列挙にとどまり、「どのような作品を生成させたいか」という構想(思想)を示すものに過ぎず、具体的な描写や感情表現などの「表現」には至っていない、と判断した。
また、判決では、短い指令やキーワードの組合せのようなプロンプトを著作権保護の対象とした場合、言語資源の過度な私有化となって自由な言語の利用を制限し、また、AIによる創作の発展を妨げる恐れがある、とも述べている。
以上の理由から、裁判所は、本件の生成AIプロンプトは著作物に該当しないと認定し、被告の行為は権利侵害には当たらないと判断した。
5.コメント
生成AIはプロンプトに従って画像を生成するため、同じAIエンジンに同じプロンプトを入力した場合、類似の画像が生成される可能性が高い。本件原告は、試行錯誤により所望の画像が得られるプロンプトを見出したと述べており、当該プロンプトを流用して画像を生成した被告の行為を著作権侵害として提訴した心情は理解できる。
しかしながら、裁判所は、プロンプトが著作権保護の対象になるか否かは、生成される画像の内容や、プロンプト作成に費やされた労働力とは関係なく、プロンプトの文字列そのものが「独創性のある表現」であるか否かによって決定されるべき、との判断基準を示した。
判決では、全ての生成AIプロンプトが一律に著作権保護の対象外であるとは述べていない。むしろ、単に「雪景色の絵を作ってください」というようなプロンプトは「思想」の範疇に属するが、雪景色を詠んだ「忽如一夜春風来,千樹万樹梨花開(一夜にして春風が吹き来たかのように、幾千幾万の梨の花がいっせいに咲き誇った、注:唐代詩人岑参の詩の一節である)」のような独創的な文学表現のプロンプトであれば、保護対象となる「表現」と認められ得ると述べている。よって、プロンプトの長さ、内容、単語間の論理的関係、言葉選びの独自性等の要素によっては、プロンプトが著作権の保護対象と認められる可能性がある。ただし、その場合でも、本件被告が行ったような、プロンプトそのものを転載するのではなく、プロンプトから生成された画像を公開する行為が著作権侵害を構成すると主張するには、更なるハードルがあると思われる。
原告の創作行為を保護するためには、むしろ、プロンプトから生成された画像そのものの保護を検討すべきである。上述の通り、従来の裁判例で示された判断基準によれば、原告がプロンプトの作成・調整・修正に知的労働を投入したことの具体的な証拠を提示し、生成された画像が個性的な表現を有する成果物であると主張することができれば、生成された画像が著作権保護の対象と認められる可能性がある。ただし、原告が画像生成時の作業記録を取っておらず、更に、AIによる生成結果のランダム性から、その過程を再現することもできない場合、裁判所は、原告の生成画像を著作権保護の対象と認めない可能性が高い。また、著作権保護の対象と認められた場合でも、著作権侵害が成立するためには、原告と被告の画像間の実質的同一性が必要とされる。本件原告が生成画像に対する著作権侵害を主張しなかった理由は不明だが、プロンプト作成過程の立証ができなかった、或いは、同じプロンプトで生成された画像ではあっても、原告画像と被告画像が著作権侵害侵害を主張し得るほど類似していなかった可能性があると思われる。
本件は、作品及びプロンプトがメンバー間で共有されるというMidjourneyソフト特有の事情により発生した事件ではあるが、著作権の保護対象及び制度趣旨を考察し、中国の裁判所の生成AIに対する態度を理解する上で、非常に興味深い事案である。