商標3年不使用取消申請に関する新規則のポイントと実務のアドバイス【中国】【商標】
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商標3年不使用取消申請に関する新規則のポイントと実務のアドバイス
商標3年不使用取消申請の効率向上を図るため、正当な理由なく連続して3年間使用されていない登録商標の取消申請を適切に行えるよう、中国国家知識産権局(以下「CNIPA」)商標局は2025年5月26日付けで改訂版《正当な理由のない登録商標の連続3年不使用による取消申請に関するガイドライン》を公表した。本ガイドラインでは、提出すべき書類や具体的な要件などの実務面の内容を明確化するとともに、不使用取消の申請時に提出するべき被申請商標の3年不使用に関する初期調査証拠の範囲を詳細に規定した。
本稿では、CNIPAがガイドライン改訂に至った経緯を概観し、新規則の下で3年不使用取消の申請条件を満たすために、どのような証拠を準備すべきかについて紹介する。
1. 改訂の背景
- 「3年不使用取消」申請件数の急増
2017年以降、中国における「3年不使用取消」の申請件数は急速な増加傾向を示しており、わずか7年間で、2017年の5.6万件から2024年には22.9万件にまで増加した。この中には、不正競争や他者の利益を害する目的で、他者が正常に使用していた登録商標に対して行われた悪意のある取消申請も少なくない。
このような悪意ある「3年不使用取消」申請が生じた主な理由は、中国の「3年不使用取消」手続きにおいて、申請人側の挙証責任について明確な要求がなく、商標登録者側の商標使用証拠に対する具体的な要求のみが定められている点にある。悪意ある「3年不使用取消」申請は、商標権者の商標管理コストを増大させるだけでなく、公正な市場競争環境を損ない、行政資源の浪費も招いている。
- 「3年不使用取消」申請における挙証責任の変化
商標の「3年不使用取消」制度のポイントは、申請人と権利者の間で商標の使用/不使用の事実に対する挙証責任を如何に分配するかにある。弊所の経験及び他の代理人から得た情報によれば、中国の「3年不使用取消」手続きにおける申請人の挙証に対する商標局の要求は、近年、およそ以下のように変化してきた。
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2022年以前 |
申請人は、被申請商標が正当な理由なく継続して3年間使用されていないおよその状況を合理的に説明すれば申請が受理され、関連証拠の提出は不要であった。このやり方は、「挙証責任の転換」ルールが適用されていたと言える。 |
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2022年の年初~2024年の年末 |
2022年の年初以降、実務上、商標局は申請人に対し、取消申請書に「被申請商標が正当な理由なく継続して3年間使用されていないこと」を示す初期的なオンライン調査の証拠(例えば、BaiduやTaobaoなどの検索サイトにおける検索結果の最初の数ページ分のスクリーンショット)の添付を求めるようになった。これは、長年続けられてきた「挙証責任の転換」ルールが、一部修正されたものと見ることができる。 |
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2025年の年初~2025年5月 |
2025年の年初以降、多くの商標代理人が、これまでにはなかった《登録商標不使用取消申請補正通知書》を受領するようになった。これは、「3年不使用取消」申請の在り方が変わり始めたことを示す兆候であった。この時期の補正通知の内容から、CNIPAの申請人が提出する初期証拠に対する要件が明らかに高度化したことが感じられる。申請人に要求される立証の程度が数値で示されるようになっただけでなく、その厳格さも増し、審査が申請人による簡易な「形式的な証拠」の提出から、「体系立った立証」が求められる段階へと移行し始めたことを示している。具体的には以下の通りである。 |
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2月に発行された補正通知書では、申請人に対し以下の初期調査証拠の追加提出が要求された。 (一)被申請商標の登録者の基本情報:事業範囲または業務範囲、経営状態または存続状態、商標登録状況などを含む。 (二)登録者が営業中または存続中の場合は、登録者の商品販売または役務提供、営業所または事務所に関する調査報告書及び証拠。 (三)被申請商標の総合オンラインプラットフォームや、当該商標の指定商品・役務業界の専門ウェブサイトなどのプラットフォームでの検索証拠。検索結果はホームページから連続5ページ分の全画面スクリーンショットを提出し、提出するプラットフォームは3つ以上が求められる。 |
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3月に入り、CNIPAは被申請商標に対する3年間不使用の調査証拠の要件をさらに強化した。上述の証拠に加え、「押印または署名のある誓約書を提出し、追加提出する事情説明書及び提供資料が真実、正確、かつ完全であることを保証する」ことも要求される。かつ、具体的な検索内容についてもさらに明確化が図られ、被申請商標の登録者名称、被申請商標の名称、および被申請商標の名称+指定商品・役務をそれぞれ検索することが要求される。 |
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4月に入り、CNIPAは前述の誓約書に加えて、申請人(及び代理機関)に対し、「私(及び代理機関)は、中国国家知識産権局に対し、真実の取消申請人その他の重要事実を隠匿しておらず、申告した事項及び提供した書類が真実、正確、かつ完全であることを保証する』という内容の誓約書に押印または署名をした上で提出することを要求し、同時に、当該取消案件に関連する新規商標登録出願や拒絶査定不服審判の書類などの提出も求めるようになった。 |
- 改訂の目的
2025年の年初から生じた「3年不使用取消」の申請要件の厳格化は、広範な関心を集めた。上記のような数ヶ月にわたる実務の変化を経て、2025年5月26日、商標局は2023年3月に公布された《正当な理由のない登録商標の連続3年間不使用による取消申請に関するガイドライン》を改訂した。
今回の改訂は、「3年不使用取消」制度の立法趣旨(即ち、「3年不使用取消」制度を通じて商標権者に登録商標を合法的かつ実効的に使用させることを促す)を実現しつつ、「挙証責任の転換」ルールを利用して、「3年不使用取消」手続を濫用し市場秩序を乱す悪質な申請行為を抑制することを目的としている。これにより、行政資源の浪費を防ぎ、商標権者の正当な権益を保護することが期待される。
2. 新規則の要点
- 法的根拠
《商標法》第49条では、「登録商標が正当な理由なく継続して3年間使用されなかったときは、如何なる単位又は個人も、商標局に当該登録商標の取消を請求することができる」と規定されている。この規定が「3年不使用取消」制度に基本的な法的根拠を提供している。
《商標法実施条例》第66条では、「登録商標が正当な理由なく継続して3年間使用されなかったときは、如何なる単位又は個人も商標局にその登録商標の取消を申請することができ、申請を提出する際に、関連情況を説明しなければならない」と規定している。この規定は、「3年不使用取消」の申請条件に対する制限と理解できる。
- 新規則の要点
今回改訂された申請ガイドラインでは、申請人は取消理由において被申請商標が正当な理由なく継続して3年間使用されていない状況を説明し、かつネット検索結果や市場調査報告などの初期調査証拠を添付するべきであることが明確化された。
改訂版の申請ガイドラインによれば、初期調査証拠には、以下のものを含むがこれに限らない。即ち、被申請商標の登録者の経営範囲又は業務範囲、経営状況又は存続状態などの情報、被申請商標の市場調査状況(専門的な調査プラットフォームに限定されない)、被申請商標の登録者の公式ウェブサイト、WeChat公式アカウント、ECプラットフォーム、実店舗や生産拠点などのネット調査、市場調査、実地調査により得られた証拠資料。
- 新規則施行後の実務の変化
新規則の導入により、申請人に求められる挙証責任が明確化された一方で、初期調査証拠に関する規定には依然として不明確な点が残されている。改訂版のガイドラインでは「初期調査証拠は以下のものを含むがこれに限らない」と規定されており、提出する証拠は明示的に列挙された情報を網羅していることが前提となり、さらに追加の証拠が必要となる可能性がある。新規則を厳格に適用する場合、規定で明確に言及されている実地調査に関する証拠が含まれていない申請は、要件を満たすかどうか、補正通知の対象となるか、あるいは不受理となるかが不透明な状況である。
しかし、6月以降の審査実務から見れば、商標局が重点的に取り締まる5種類の悪質な「3年不使用取消」申請を除き、申請人に求められる証拠の水準はここ数ヶ月に比べて緩和される傾向にある。補正通知の発行件数が減少しただけでなく、挙証責任も大幅に軽減され、初期調査証拠に関する審査が柔軟化し、実地調査報告の提出も求められていない。
3.実務上のアドバイス
商標「3年不使用取消」申請の証拠要求には依然として不確実性があるが、申請を順調に進めるため、これまでの実務経験と新規則への理解に基づき、以下の関連証拠を収集・提出することを勧める。
1) 被申請商標の登録者の基本情報
(1)企業信用情報プラットフォーム(国家企業信用情報公示システム、天眼査、企査査など)を利用し、登録者の事業範囲や存続状態などの基本情報をプリントし、登録者の営業許可証や年度報告書などの公式文書をダウンロードする。
(2)業界データベースを活用し、登録者の業界資格の有効性を確認する(例えば、医薬品・化粧品の届出情報は国家薬品監督管理局の公式サイトを利用して確認する)。
2)被申請商標の使用状況調査
(1)被申請商標の登録者の企業公式サイト(特に製品・役務の紹介ページに被申請商標に関連する内容があるか、実際の事業内容が取消対象商品・役務と関連するかを重点確認する)、ソーシャルメディア(WeChat公式アカウント、TikTok、微博)を調査し、実際の経営状況を把握する。
(2)公開ルートで登録者の納税記録、社会保険加入者数(一部地域では行政プラットフォームを通じて開示を申請することができる)を入手する。長期にわたる零申告や加入者1~2名の場合は、実質的な事業非実施の間接的証拠となり得る。
3)プラットフォーム検索証拠(3つ以上のプラットフォーム、各プラットフォームともホームページから連続5ページ分の全画面内容を提出、検索日時・プラットフォーム名・検索キーワードを表示必須):
(1)総合ネットワークプラットフォーム:百度Baidu、360、搜狗Sogou、Bingなどの主要検索エンジン
(2)ECプラットフォーム:淘宝Taobao、天猫T-mall、京東、ピンドゥオドゥオ、1688など
(3)業界特化型プラットフォーム:美団メイトゥアン、大衆点評(サービス類商標向け)など
(4)ブランド公式サイト/オウンドメディア:登録者の公式サイト、TikTok店舗、WeChatミニアプリなど
(5)ソーシャルメディア:WeChat、微博、小紅書Rednoteなど
4)被申請商標の登録者が保有する商標の状況
中国商標網を利用して被申請商標の登録者が保有する全商標を検索できる。当該登録者が多数の商標を保有する場合、特に「不使用取消」の記録があるかどうかを重点的に調査する。「不使用取消」の記録が存在する場合は、当該登録者が商標を実際に使用しない傾向があることを示す根拠となり、本件被申請商標も使用を目的としていないと推論できる。記録がない場合でも、保有商標数が登録者の事業規模と明らかに整合しない場合は、被申請商標が使用されていないと推測できる。
5)誓約書
新規則では誓約書の提出が必須とは明記されていないが、リスク回避の観点から、やはり誓約書を提出したほうが良いと考える。実名の申請人である場合は、「私及び代理機関は、国家知識産権局に対し真実の取消申請人その他の重要事実を隠匿しておらず、申告した事項及び提供した資料が真実、正確かつ完全であることを保証する」と誓約する。ダミーの申請人である場合は、前半部分(「真実の取消申請人…隠匿しておらず」)を削除した誓約書を作成することができる。
6)実地調査報告(補正通知受領後の対応を推奨)
新規則公布以降の審査実務から見れば、商標局が実地調査報告の追加提出を求めた事例は現時点まで発見されていない。CNIPAの担当者は、「『3年不使用取消』申請人と被申請商標の登録者が同一地域に所在する場合、実地調査が必要となる。実地調査が行われていない場合は、その旨の説明文を提出できるが、受理の可否は案件ごとに判断される」との見解を示している。したがって、当初は実地調査を実施せず、補正通知を受領した段階で適切に対応することを提案する。
4.総括
新規則の導入により、商標の「3年不使用取消」手続きにおける双方の権利と義務のバランスが改善され、従来の「挙証責任の転換」に起因する手続き濫用現象を大幅に抑制できる見込みである。それと同時に、商標の「3年不使用取消」申請は複雑で一定の難易度を有する業務であるため、申請人は、申請成功率の向上させるために、現行の規定に基づき申請書類及び証拠書類を可能な限り完璧に整備するだけでなく、CNIPAの最新の実務動向や政策変更を注視し、適切に申請戦略を調整する必要がある。