「専利侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(三)」案の公表について

最高人民法院 2025年12月20日「専利侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(三)」案の公表について【中国】【特許】【訴訟】

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「専利侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(三)」案の公表について

 

2025年1220日、最高人民法院は「専利侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(三)」の案を公表し、202622日を期限にパブリックコメント募集を行った。

 

今般公開された司法解釈案は、2009年公布の「専利侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈」、及び2016年公布・2020年改正の「専利侵害紛争事件の審理における法律適用問題に関する解釈(二)」に続く、一連のシリーズとなる司法解釈である。そのため、本司法解釈案は、これまで発行された各種の単発の司法解釈に含まれていた規定や、裁判例において採用されてきた運用ルールを、体系的にまとめなおしたものとの色彩が強い。新たな内容としては、悪意の訴訟提起に関する判断基準が示された点が、注目に値する。以下、全31条からなる本司法解釈案の主な内容を紹介する。

 

  • 管轄異議について(第1~3条)

原告が事件を都合の良い裁判所に管轄させるために事件と実質的に無関係な被告を追加する行為や、被告が時間稼ぎのために実質的な理由のない管轄異議を申し立てる行為に対処するための規定が設けられた。また、商品引渡地やネットショッピングの商品受領地は、管轄権を発生させる侵害行為地とはみなされないことも規定されている。

 

(2)侵害訴訟と評価書・無効審判との関係(第47条)

従来の司法解釈では、実用新案又は意匠の侵害訴訟において裁判所は権利者に評価報告書の提出を要求できると規定されていたが、本司法解釈案では、更に、原告が正当な理由なく合理的期間内に評価報告書を提出しない場合、訴訟が却下されると規定されている。また、報告書の評価が否定的な場合、裁判所は被告に対し、従来技術の抗弁を行うか、無効審判を提起するかを尋ね、被告が無効審判提起を理由に訴訟審理の中止を求めた場合、裁判所は、明らかに侵害が成立しない場合を除き、訴訟審理を中止することも規定されている。

 

(3)侵害訴訟の主体適格(第89条)

中国の実施権者には独占的実施権者、排他的実施権者、通常実施権者があり、独占的実施権者は専利権者を含む他者の実施を許さない独占的な実施権を有し、排他的実施権者は専利権者以外の他者の実施を許さない排他的な実施権を有する。本司法解釈案では、独占実施権者は単独で訴訟提起可能であり、排他的実施権者は専利権者と共同で、又は専利権者が訴訟提起しない場合に単独で訴訟提起可能であり、通常実施権者は、特許権者からの明確な授権があれば訴訟提起可能であると規定されている。この点は、従来の司法解釈の規定通りである。また、独占的実施権者が訴訟で損害賠償を得た場合、同じ権利について専利権者が別件訴訟で損害賠償を求めても、当該侵害行為により新たな損害が発生したことを証明できない限り、裁判所はこれを支持しないとの規定が設けられている。

 

 更に、専利権の譲受人は、譲渡人の授権があれば、移転登録日前の侵害行為に対して自らの名義で訴訟を提起することができることも規定されている。

 

(4)権利解釈(第1016条)

被疑侵害技術が、明細書に記載された「克服すべき技術的欠陥」を有する場合、人民法院は、当該被疑侵害技術は専利権の技術的範囲に属しない、即ち非侵害、と判断することが規定されている。

 

また、出願人/権利者が請求項、明細書又は図面に対して行った減縮的な補正又は意見陳述が審査官に明確に否定されなかったことを被疑侵害者が証明できる場合、当該減縮された部分に対して禁反言原則が適用され、権利範囲に含まれるとの主張が許されないことが明記されている。更に、明細書等の記載に基づいて、請求項が特定の発明を特別に排除していると当業者が確定できる場合にも、当該発明が権利範囲に含まれるとの主張は許されないことも規定されている。

 

請求項における、いわゆる機能的特徴は、権利解釈時に明細書に開示された実施形態及びその均等範囲へと限定解釈されるが、本司法解釈案では、発明を機能又は効果により限定する特徴であっても、当該機能または効果に対応する特定の構造、成分、手順、条件またはそれらの関係等を限定・暗示している特徴については、機能的特徴とはみなされないという例外が規定されている。

 

被訴侵害者が、業として特許方法の実質的内容を製品に固定し、特許方法の再現に代替不可能な役割を果たした場合、当該特許方法の直接侵害とみなされる旨が規定されている。これは、通信方法に関する過去の特許侵害事件判決において採用された法理である。当該事件では、方法特許のクレームにクライアント端末で実施されるステップが含まれていたものの、特許方法の主要なステップを実施することができるルータ製品を提供した事業者の行為が直接侵害を構成すると判断された。中国の専利法には日本の間接侵害にあたる規定がないため、該当の行為は、このような法理を用いて処理されることになる。

 

明確性要件について、当業者が明細書などの出願書類や出願包袋、並びに参考書、教科書等を参酌しても請求項中の用語の意味を確定できない場合、当該請求項に基づく侵害訴訟は却下されることが規定されている。これも従来の裁判で採用されてきた判断基準である。

 

(5)意匠権の権利解釈(第1718条)

人民法院は、意匠の簡単な説明を組み合わせて意匠の権利範囲を確定するが、使用状態参考図と意匠の簡単な説明の記載に齟齬がある場合、使用状態参考図を考慮すると規定されている。

 

被訴侵害製品の一部の図面しか提示することができないが、一般消費者が当該一部の図面およびその種の製品の特性に基づいて、その他の部分の意匠的特徴を推定することができる場合、人民法院は、反証がある場合を除き、これを侵害比対の根拠とすることができることが規定されている。

 

6)侵害抗弁(第1924条)

侵害訴訟での従来技術の抗弁について、同一文献中の異なる2つの実施形態に基づく抗弁は受け入れられないが、同一文献中の異なる部分に記載された内容が、文言上相互に解釈し合い、技術的に相互に支え合い、共同して一つの技術的課題を解決するものである場合には使用可能であることが規定されている。また、一件の従来技術文献と公知常識との組合せに基づいて従来技術の抗弁を行い、且つ当業者が創造的労働を経ることなく連想し得るものである場合、抗弁が成立することも規定されている。この規定は、従来技術の抗弁に対する制限の緩和となり得る。

 

 一審で従来技術/意匠の抗弁を行わず、二審で行った場合でも審理されるが、再審で初めて行った場合には審理されない。従来技術/意匠の抗弁が裁判所に支持されず、後審において新たな証拠が提示された場合には、再度の審理がなされる。

 

当事者が、先願の中国出願に基づいて非侵害の抗弁を行い、被疑侵害技術の全ての特徴が当該先願に単独で開示されている場合、非侵害と判断されることが規定されている。この規定は、従来技術の抗弁の適用対象を、係争特許の出願日前に出願され出願後に公開された抵触出願(日本で言うところの拡大先願)にまで拡大するものと理解できる。

 

中国の専利法第77条には、「専利権者の許可を得ずに製造販売された専利権侵害製品であることを知らずに、生産経営を目的として、その製品を使用し、販売の申出を行い、販売したとき、当該製品の合法的な出所を証明できる場合には、賠償責任を負わない。」という「合法的出所の抗弁」が設けられている。本司法解釈では、当該抗弁が成立した場合、使用・販売等を行った者は、権利者の損害の賠償だけでなく、権利者が権利維持のために支払った合理的な費用(訴訟費用等)の負担もしなくてよいとする案と、販売状況に応じて費用を負担すべきとする案の2つが示され、いずれの案を採用するかについてパブリックコメントが募集された。

 

(7)悪意の訴訟(第2526条)

権利者が、法律上・事実上の根拠を欠くことを知りながら、不正な利益を得る目的で特許侵害訴訟を提起し他人に損害を与えた場合、悪意の訴訟として損害賠償責任を負うべきことが規定されている。具体的には、①権利者が従来技術・意匠であることを知りながら、又は詐欺や重要事実の秘匿により取得した専利権で訴訟提起した場合、②専利権の無効や存続期間満了等を知りながら訴訟提起した場合、③法的又は事実的な根拠のない訴訟提起により故意に他人の株式上場等を妨害した場合、④その他の悪意の訴訟と認められる場合が該当する。近年、悪意の訴訟と認定された裁判例が増加しており、本規定は、そこで蓄積された判断基準をまとめたものと言える。また、悪意の訴訟による損害賠償の金額は、悪意の程度、損害状況及び因果関係などを考慮して決定するとされている。

 

(8)判決の執行・損害賠償(第2730条)

専利法第47条には、「無効宣告された専利権は当初から存在しなかったものとみなされる。専利権の無効審決は、無効審決前に人民法院が下し且つ既に執行された侵害訴訟判決、調停書、既に履行又は強制執行された行政処理決定、及び既に履行された実施許諾契約又は権利譲渡契約に対して遡及効を有しない。但し、専利権者の悪意により他人にもたらした損失は、賠償しなければならない(後略)。」と規定されている。本司法解釈案では、ここでいう無効審決には全部無効と部分無効が含まれること、執行には部分執行が含まれることを明確にしている。部分的に執行されている場合、無効審決は未執行部分に対しては、遡及効を有する。また、侵害訴訟の判決後に全部無効審決が出された場合、それ以降の判決の強制執行の請求や再審請求は不受理となり、既に執行中のものは中止される。

 

また、裁判所は、事案の状況に応じては、非金銭給付義務についても遅延履行金を命ずることができることも規定されている。

 

更に、侵害訴訟における損害賠償請求について、権利者が、権利者の損失、侵害者の利益、または実施料相当額の合理的な倍数に基づいて賠償額を主張し、且つ、提出した証拠により合理的に推算できる場合、人民法院は、反証がない限り、これを支持しなければならないことも規定されている。

 

本司法解釈案には、上記(6)のようにパブリックコメントを受けて方針を決定する部分も残されており、パブリックコメント募集期間終了後、一定の時間をかけて議論を行った上で、最終版の確定・公表に至ると思われる。

本司法解釈案に関する今後の動向を注視し、新たな発表等があった場合には、速やかに皆様にお知らせします。

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